第303話 撃沈の異邦人、撃退する聖女
帝国地下牢。
俺も入った事のある地下牢の独房にクウガBが捕らえられていた。
その場所に立つと、なぜかボロのローブ姿のクウガBが俺を下からにらんでいる。
「何の用だ」
短く言う言葉には殺気がこもっている。
色々言いたい。
いや、この際だから言ってしまうか。
「何の様も何も、何してるわけ?」
「路銀が底をついたんだよ!」
「逆切れ!? 師匠B……メルギナスはどこいったの!? 借りればいいでしょうに」
「こちらの世界の魔女と交戦してまだ帰ってこない。お前こそ魔女様をどこにやった!」
俺が知りたい。
ってか大丈夫だよな……この手のよくある話でコピーと戦った本物は相打ちになるって話も聞いた事がある。
え。やだよ俺、師匠が死んだとか受け入れられないし。
「────で。僕は逃げる事はしなく、こうして地下牢にいる」
「あっごめん聞いてなかった」
「……………………」
「もう一回いいかな?」
「……………………」
「おーい。俺の話聞いてるよね? 耳付いてるよね?」
「……………………」
やべ。完全にヘソ曲げた。
ちょっと話の途中で師匠の事考えていただけじゃん。
そんなに不貞腐れる事ないくない?
「ねぇってば」
「……………………」
寝転がって背中を見せ始めるクウガB。
俺の横に別の足音が聞こえてきた。
「そういう所だよクロウ君、話はちゃんと聞いてあげないと」
聖女様ことアリシアが俺の横に来ると、寝そべって背中を見せていたクウガBが飛び起きた。
鉄格子を両手でつかんではアリシアとの距離を縮める。
「アリシア!!」
「ええっと……2回目かな? クウガB君」
「僕が本物のクウガだ。この男から離れろ!!」
クウガBはローブの内側からアンジュの剣を出し、鉄格子の隙間から俺の喉を狙って突いて来た。
あっぶね!
「ちっ!」
「やっぱり武器あるんだな」
「実力もないくせに運だけは良い奴め!」
ごもっとも。
俺の実力何て知れてるよ。
「いいか、クウガB。こんな力持っていても好きな女性1人振り向かせるのに7年以上かかるんだぞ」
「わかりきった風な口を!!」
「あっやば。眼がマジだ」
クウガBが鉄格子を斬る構えを取った所で俺とクウガBの間にアリシアが割り込んできた。
「どいてくれアリシア!」
「どいたら殺しちゃうでしょ?」
「当り前だ! 君はこの男にどれだけの辱めを受けたと思っているんだ!」
よく言えるなそんな言葉。
聞いてる俺のほうが恥ずかしい。
「クロウ君、私クロウ君に辱め受けた……あっ! もしかしてデザート食べてる時に『これ以上食べると師匠見たく豚になるぞ』って言われた事かな」
「ぶっ! 言ってない! 俺が言ったのは『師匠みたいに牛みたいなおっぱい目指すの? 成長期終わってるよ? 手遅れじゃない』って言ったぐらいだ」
アリシアが「そうだっけ?」と、言うと両手を合わせるように叩く。
「わかった。クロウ君が私の下着を触っていた時だ!」
「ちがっ!! あの時はまだ時間の止まった小屋にいた頃だろ!? 俺は師匠の下着を探していただけで、アリシアの予備だなんて」
「えーじゃぁ……どれかなぁ沢山あって私わからないかも」
アリシアが、すっと俺の前から横に移動すると両手を下げたクウガが鉄格子の向こうにいる。
顔はこちらを見ていなく下を向いたままだ。
あっやばい。
クウガBから殺気というか気配が消えた。
俺は目の前のクウガBの攻撃をアンジュの剣で受け止める。
鉄格子は斬られていて俺は水盾を発動。クウガBはその水盾を斬ると体をコマのようにひねっての横一線。
その攻撃を避けるのに後方にさがると、壁にぶち当たった。
「捕らえた! 今度こそ死ねクロウベル!!」
「させません!!」
「クウガA!!」
クウガBの攻撃をクウガAが受け止める。
その行動にクウガBのほうが驚き後ろに下がった。
「馬鹿な! 僕がなんでこんな奴をかばう!! アリシアもだ!!」
「なるほど。さすが僕です……後クロウベルさん」
「何?」
「クウガAって呼び方辞めてもらえませんか?」
「いやだって判別できないし」
今はまだ服装が違うからいいけど一緒になったらわからんよ。
後は体の傷とかその辺で判断か?
「別世界の僕。聞いてくれ……いや聞くべきだ!! この人は悪くない。そりゃちょっと卑怯で実力もあるし、でもなぜかアリシアやミーティア、クィルにも信頼されているし、他の女性にも好かれている。そのくせ全員を振ってはメルさんに夢中だし、僕のもやっとした気持ちは全然考えてくれないけど、そんな悪い人じゃないんだ」
話だけ聞くとめちゃくちゃ悪い奴だ。
無自覚系の主人公かな? 一応あれだぞ? 他の人の好意は気づいてるときあるよ? 鍛冶師メーリスと出会った村では、村長の娘から肉体関係を迫られたし……メーリスの熱い視線も恋人がいるからって断ってるし、サンもそうだな。
一番はアリシアだ。
アリシアの告白を俺は断ってる最低の人間だ。
その癖にアリシアは俺を信頼してくれてる。
俺も悪いと思って用事が無い時はアリシアに頼らないようにしてるんだけどなぁ……なぜか問題が起きるので会うだけで。
「最低な男だ。こっちの世界の僕は何をしているんだ。って思っていた。こっちの世界に来て情報を集め嘘だと思っていたよ。いや悪魔の手先になっているとは本当だったんだな……」
クウガBは絶望した顔になっている。
「違う! クロウベルさんは良い人だ!」
「僕の幼馴染のアリシアを無理やり抱こうとしたんだ! 何が良い人だ!!」
あー…………それ今言う?
「わぁクロウ君すごいね!! 行動が早い、私抱かれちゃったんだ」
「アリシア……、いやアリシアさん。事故というかそもそも別世界だからね。それに未遂だよ未遂」
「ふざけるな! そのせいでアリシアは……」
クウガBがクウガAをかわして俺に突進してきた。
ど、どうする!?
防御。いや廊下が狭い。
戦う。うーん……やっぱり廊下が狭い。
ってかアリシアもクウガも邪魔である。
俺の逃げ場がない。
「よいしょっと。フレアフルバースト」
「え?」
「は?」
「あっ」
男3人の間抜けな声が被った。
アリシアの手から閃光が走るとクウガBの体が吹き飛んだ。
鉄格子は曲がっており、その壁に激突したクウガBは黒くなっている……クウガBの周りの壁はなんと溶けている。
石って溶けるの!? それよりも、アリシアさん??
「よいしょよいしょ。ハイリザレクション!!」
クウガBの黒い皮膚のしたから真新しい皮膚が出てきては息を吹き返す……拭き返したよな?
クウガAが黒い剣でクウガBを突くと気絶してるように見える。
今の騒ぎであちこちで警告音が鳴り響き兵士が飛んできた。
「ええっと……アリシア、その回復魔法以外も……?」
「使えるよ? 7年前に見せたよね?」
「あー………………」
「先生からはむやみに使うなって言われてるけど、必要だし大丈夫だよ」
何が大丈夫なんだろう。
でもまぁアリシアが大丈夫っていうから大丈夫か。
「さっ誤解も解けたみたいだしかえろっか」
「何一つ解けてないと思うんだけど、その前に地下に降りてきた兵士の中にアレキ皇子が腕組んで顔引きつらせているのが見えるんだけどクウガA説明してやってくれ」
「なんで僕なんですか!!」




