第302話 クウガBの居場所
結局師匠は帰ってこなかった。
「はい、第2回大会作戦会議いいいいいいいい!!!」
教会の小部屋に大人数が集まっての会議だ。
「司会は俺クロウベル。目の前にはアリシア。ミーティア」
「はい、数日の特訓お疲れ様クロウ君」
「本当に疲れた! 師匠成分が足りないのに師匠がいないとか俺ブチ切れていい?」
「変態ちゃん怖い」
怖くて結構。
特訓は過酷で俺の腕が骨折ぐらいなら可愛いもんだ。
ちぎれたり吹っ飛んだり、俺もナイの事を斬ったり蹴飛ばしたりと……そのたびにアリシアが回復魔法をかけてくれて……さぁ『まだ時間はあるよ?』って笑みを浮かべるのだ。
俺もナイもひきつった顔をしながら4日間の訓練をした。
「残り3日は休みで、大会本番にそなえる以上!」
「そうだね、私もお城に呼ばれて大会の準備あるし」
「はいはいーミーティアも手伝う」
是非にそうしてくれ。
「でも、並行世界のクウガ君は結局こなかったね」
「試合には出るんだろ」
「はいはいはいー質問!」
「却下」
俺が却下するとミーティアの元気が一気になくなった。
やべ。言い過ぎた。
「冗談です。質問をどうぞ」
「そ、そうだよね!? その別世界のクウ兄ちゃんが途中で負けたらどうするの? もしくは変態ちゃんが途中で負けたら」
「知らん」
「え?」
「正直俺だって勝ち残れるとは限らないしさ……全力はつくすよ。あと並行世界のクウガが負けてくれれば罵倒して追い返す事が出来る」
「うわぁ……」
ドン引きされてもそれが普通だよ。
ゲームじゃないんだからさ、都合よく決勝で会おう。だなんて出来るわけがない。
「アリシアからは? 何か質問ある?」
「無いよ。あっ! でも……」
「でも?」
「うーん。何でもない」
なんだそりゃ。
「はい、会議終わり!」
「もう終わり!? ミーティアちゃんまだデザート貰ってないんですけど!?」
「食堂でもらってくれ、職員と人数分買ってある」
「そうする!」
ミーティアはすぐに立ち上がって食堂に走って行った。
残ったのは俺とアリシアだ。
「そういえばアリシアって並行世界のクウガにキスされたって、その後聞いてなかったけど」
「それ私に聞くかな? クロウ君らしいけど」
「あっいや、深い意味は無くて」
「深い意味ないのに深い事聞くんだね。平手打ちしたら謝ってどこか行ったけど、向こうのクウガ君はずいぶんと積極的なんだね、びっくりしちゃった」
「あれが本来の性格っぽいよ。俺が関係したばっかりにクウガは捻くれて根暗で女遊びが好きな……いやそこは並行世界でも同じか」
「困ったね」
困ったね。と、いうが本当に困ったのはアリシアだ。
俺が関係したばっかりにここまでルートが外れるとか、だってあれよ? 俺が師匠攻略をしたのは本編から離れてるキャラだってのもあったんだしさ。
「まぁアリシアが困ったら何でも言ってくれ。出来る限りの事はするからさ」
「ありがとう」
アリシアが俺に微笑むと、扉が突然開いた。
どうせミーティアだろう。って思っていると男の息遣いだ。
「はぁはぁはぁ……ク、クロウベルさん!!」
「あれ。クウガ、遠征終わったのか」
「はい、終わりました。じゃなくて! 僕の偽物がいるらしくクロウベルさんなら何か知ってますよね!!」
あー説明してないもんな。
「何も知らない」
「そう……ですか……」
クウガは信じられないものを見る目で俺を見た後に部屋に入って来て椅子に座った。
「話聞いてた?」
「聞いていたからこそ座ったんです。そもそもアリシアがここにいますしクロウベルさんがアリシアを呼ぶなんてめったな事無い限りおきませんし」
「そうだね。私クロウ君に嫌われてるから」
「ぶっは」
咳込んでしまった。
「そんな事はない」
「でも、すぐに避けるし。困った事があっても呼びに来ないし」
「クウガ! お前が悪い」
「なんで僕なんですか!!」
アリシアをつなぎ留めなかったお前が悪い。
「あれ。クウ兄ちゃん! こっちは本物だよね?」
「ミーティア。本物ってまるで僕の偽物がいるみたいな話を……やっぱり何か知ってるんだね?」
「知ってるも何も、偽クウ兄ちゃんはアリ姉ちゃんを押し倒した。とか」
「なっ!?」
押し倒してない。
話を盛るな。
「まてまてまて。わかったから話をややっこしくするな。説明するから……」
ミーティアが話を盛りすぎるので、また1から説明しないといけない。
俺がクウガを入れて説明し終わるとクウガは俺に頭を下げてきた。
「なんで?」
「別世界の僕とはいえご迷惑をおかけしました。安心してください! 僕が必ず殺します」
真面目な顔で言うので反応に困る。
ミーティアが小さい声で「こわ」って言うのまで聞こえるぐらい静かになった。
「いや、あの殺すのはまずいんじゃない?」
「何でですか? クロウベルさんは殺されようとしてるんですよね」
そうなんだけど。
向こうのクウガを殺すと、向こうで待ってるアリシア達がかわいそうだろう……その理屈通じてるかな?
「俺はこっちに関係ないなら別に……」
「わかりました。ではそのあっちから来たメルさんを殺せばいいですか?」
「その前に俺がお前を殺すぞ!」
口から本音が出ると、またもミーティアが小さい声で「こっちもこわ」って言うのが聞こえる。
アリシアは涼しい顔をしているし、ミーティアはおびえてる。
クウガは開いた口がふさがってない。
「っと……向こうの師匠Bはこっちの師匠が相手してるはずだから。それに最悪、手はある」
「流石クロウベルさんです。どんなのです?」
「今は言えない、問題はクウガBの事だよ。実力はクウガAより強いよ」
「あの僕の事は何もつけないで呼んでください」
わがままな奴だ。
「まっなるよう──」
「はっはっはっはっは! 話は聞かせてもらった!!」
一番聞かれたくない奴に聞かれた気がする。
絞められた扉が勢いよく開くとこの国の皇子かっこ中年のアレキ皇子が仁王立ちしていた。
俺は扉までいくと黙って扉を閉めて鍵を閉める。
扉後しに「はっはっはっは開けろ。おい、聞いているのだろ? おい!」と大きな声が聞こえ始めた。
うるさいやつだ。
さらに扉が壊れるぐらい叩いてる。
「クロウ君。この部屋扉そこしかないよ?」
「え、ミーティアちゃん達出られない!?」
冷静なアリシアに慌てるミーティア。
仕方がない。
「はぁ……クウガ開けてやってくれ」
クウガが開けると断りもなく部屋に入ってくる。
「帝国の皇子が盗み聞ぎとは国の民度が知れるな」
「では武力でお前たちを捕らえるか? お前も出会った事は他の奴と同じく頭を下げていたのに」
親戚の男性が『俺がおしめ替えたのに』みたいな事を言って来る。
いつまでも言ってると嫌われるぞ。
「帝国が今あるのは俺と師匠が譲歩したからっての。譲歩しなかったらあの地下遺跡の時に壊滅させてるからね?」
「でもしなかったんだろ。戦場はすべて結果だ、途中の過程なぞ話していても意味がないだろ」
話が合わなさすぎる。
「で、本当に何しに来たの?」
「その偽物のクウガだったな。現在は地下牢に捕えている」
「はい?」
「瀕死の状態で倒れているのを発見されてな…………その、聖女よ回復は頼めるか? 本人は本物だって言っているし、英雄にしか贈らない帝国の印も持っている」
アレキはなぜか歯切れが悪くアリシアに確認し始めた。
アリシアのほうか涼しい顔だ。
「何やってるんだあいつ……」
「アレキ様のお願いとあれば」
「何か変態ちゃんと関わるともしかしてクウ兄ちゃんって不幸になる!?」
「ミーティアちゃん! 本当でもそんな事言ったらだめだよ?」
全然フォローにならないフォローが飛んできた。




