第300話 狙われないための妥協案
これ以上騒ぎ起こすなら出禁にするぞ! まで言われた俺は沢山のお金を払う。
丁度、女将さんが出てきて俺と師匠の迷惑料を見るとすぐに店主の頭を叩き奥へとひっこめた。
ご丁寧に「また来てね。なんだったら店全壊してもいいわ。その代り沢山払ってくれれば」とありがたい言葉を貰って酒場『竜の尻尾』を出た。
「疲れた……」
「疲れたのじゃ」
「なんで向こうの師匠はこっちの師匠を殺そうとしたんです?」
「大方痛めつけてお主を向こうの世界に引っ張りたかったんじゃろ……」
「師匠って案外」
「案外なんじゃ? 馬鹿って言いたいのじゃ?」
口に出す前から先を読むのは辞めてほしい。
「いやぁ。可愛いですね」
「っ!?」
師匠のほほが少しだけ赤くなった。
無言で頭を叩かれる。
痛いけど痛くない。
「さらに疑問が残るんですけど、俺の頭だけもっていって肉体は……」
「ワラワが昔研究していた魔法で、融合と再生の技術があったはずじゃ。それの応用じゃろ。上手くいけば女の体に男の首を付ける事も可能じゃ」
サイコパスな魔法だ。
ゲームの中にない魔法だし、そんなイベントもな……いや、斬られた腕を付けるイベントがあったな。それの応用というか基礎みたいなやつか? 禁呪って言ってたようなきもしたし。
「東方のキメラ使い。と関係してます?」
「…………無茶苦茶関係してるのじゃ、あの一族はまだそんな事をしていたのじゃ?」
「知識として知ってるだけでまだ見に行ってませんけど、してるかも」
てかだ。
俺は気づいているけど、右に本物の師匠がいるのに、左にも師匠の気配がする。
左右から甘い桃みたいな匂いがするんだもん。
本物の師匠に伝えたほうがいいのか、どこまでついて来るのか。
「おっと、偶然つまづいた!」
俺は左側に倒れるふりして何もない空間にてをむにむにした。
なぜか転ばず、一瞬斜めになった体はワンクッション置いて倒れた。
うん。
いい感触だった。
「っ!? いっ師匠痛いですって!? 杖で叩かなくても、あとなぜか2本の杖で叩かれてる感じが!!」
俺が頭を押さえると1本分の杖の感触が減った。
「ドアホウ……いやお主よ」
「別にドアホウのままでいいって言ってるのに」
「区別はつけんとなのじゃ……まぁそうじゃろうな。ワラワだし。魔力の残滓って魔王城にいたじゃろ?」
「ああ、マネマネマンです?」
「あれの強化版と戦った事があるのじゃが……倒すまで2年かかったのじゃ……ワラワの考えをよみ、ワラワと同じ力を使う……」
「どうやって勝ったんですか?」
「それよりも強くなる、これじゃな」
参考にならない意見だ。
何もない空間から『うんうん』と聞こえてくる。
この師匠Bは姿隠してるつもりあるのか?
とはいえだ。
俺も師匠もこう狙われたくはない。
何て言ったって気が休まらない、これは一番のストレスだ。
「あーどこかで師匠Bが聞いていてくれたらなぁー」
「………………なんじゃ?」
どっちの師匠の声が判別がつかない。
「今度の帝国での武術大会。勝ったほうが言う事を聞くって提案があったのに」
「ほう」
「あっちのクウガにも知らせてほしいかなぁー……あっこっちのクウガに剣を返しても欲しい」
俺がそういうと、左側から突然に師匠Bが出てきた。
「その話本当じゃろうな?」
「うわっ! 師匠Bいつからそこに!!」
「ふっふっふ気づいていなかった。とはワラワの弟子とはいえウカツなのじゃ!」
うわぁ師匠Bはすっごい嬉しそうな顔。
一方こっちの師匠は顔を隠して落ち込んでいる。
「ドアホウ……いやお主よ。それでいいのじゃな?」
こっちの師匠が真面目な顔で俺に聞いてきた。
簡単にいうと勝算はあるのか? と言う事だ。
無い。
全くない!
「………………はぁお主は。で……どうするのじゃ? 異邦人のワラワよ。この男は嘘はつくしスケベだし、人をおちょくるのに生きがいを感じてる馬鹿野郎であるのじゃが、ワラワの信用だけはあるのじゃ。隠れ家とやらに帰ってあの小僧に伝えるのじゃ。これで飲めなかった場合はワラワにも考えがあるのじゃ」
師匠が杖を1回転させて師匠Bに問いかけた。
普通の子悪党ならおしっこちびりそうな空気だが、師匠Bは同じ師匠なのでその挑発に不敵な笑みを浮かべた。
「光の門すら唱えられない魔女なくせに」
「………………空浮かぶ黄昏の時、鏡に映る虚空の人影、我ゆえに何を……続きはいるのじゃ? 唱えられないのじゃなくて唱える必要がないのじゃ」
「……ふん。まぁいいのじゃ。あの小僧に聞いてやるのじゃワラワは寛大じゃし」
師匠Bは少し走ると路地に入った、3階建ての壁を蹴りだけでジャンプすると今度こそ見えなくなる。
俺は黙ってその背中を見ていると背中に大きな痛みが走った。
前のめりで転び後ろをみると師匠が杖でどついたのがわかった。
「で。本題じゃ……どうする気なのじゃ?」
「時間稼ぎですけど? 師匠だって休まる暇ないでしょ」
「ワラワのためと言ったら今後スケベな事は無しじゃ!」
「それは困る」
「…………真顔で言うななのじゃ。ワラワも色々考える事がある、すぐにアリシアを呼び戻せなのじゃ。4日ほど教会を留守にするのじゃ」
俺が理由を聞く間もなく師匠は透明マントを羽織った。
「師匠! お土産にえっちな下着お願いします!!」
俺は叫ぶと同時に横に飛ぶ。
俺がいた場所に落雷が落ちると通行人が騒ぎ出した。
──
────
友人であり皇女サンの力を借りてアリシアを呼び戻してもらった。
サンは特に俺に理由も聞かず、ただ一言『共同墓地の幽霊騒ぎって知ってます?』とだけ冷たい目で。
全力で『知りませんよ』とだけ答えて教会へと帰った。
皇女の力は凄いもので、アリシアは翌日には戻って来た。
昼食を一緒にとる事となりアリシア本人に「そんな簡単に戻れるものなの?」って聞いてみたら「先生が呼んでるなら普通に帰るよ?」と返事をされた。
あと別にヒーラーはアリシアだけじゃないので大丈夫との事だ。
「まぁ師匠帰ってくるまで自由にしてて……」
「それは良いんだけど、もしかして帝都にいる黒い剣を持ったクウガ君と何か関係ある?」
「ぶっ!」
思わず咳込むと鼻から今食べている玉ねぎスープが噴き出る。
「はい、ハンカチ」
アリシアの匂いが付いたハンカチで鼻をかむ。
ハンカチに玉ねぎが付いた。
「どうも。洗って返す」
「汚いから捨てていいよ」
笑顔で言うので俺もつい笑いだす。
「アリシア聖女様って俺にだけ扱いひどくない?」
「私は皆に平等だよ?」
絶対に嘘だ。
「先発隊にいたクウガ君が帝都でもあってびっくりしちゃった。あっちも驚いていたけど……」
「その帝都のクウガに変な事されなかっただろうな……」
「抱きしめられてキスされちゃった」
「は?」
思わず声が出た。
「クウガ君は、アリシア違いだって謝ってくれたけどクロウ君何を知ってるのかな? あとこの剣はクロウベルに手渡せって預かったんだけど、クウガ君の剣だよね?」
あっこれ。アリシア怒ってる。
やっとわかった……アリシアは静かに怒るので気づいた時には包囲されてるのだ。
「アリシアにもわかるように説明してほしいな。ねぇ聞いてる?」
「アリ姉ちゃんお帰りいいいいいいいいい!! …………いい!? ミーティアちゃん急用思い出しちゃった」
「ま、まてミーティア!!」
俺はミーティアを必死に引き留めた。




