第299話 迎えに来たポンコツ師匠
酒場である竜の尻尾前まできた。
透明マントを脱いでから扉を開ける、店主に声をかける前に首をクイっと曲げられた。
「連れが先に来てるぞ」
「どうも」
師匠のほうが先に来てた。
まぁそれもそうか、俺は暫く現場を見てたし透明マントを駆使して現場を荒らすだけ荒らしてからこっちにきたのだ。
だって証拠集めしていて『この現場は魔法使い?』とか『これだけの強い魔法は数人に絞れるわ』など色々言うんだよ?
すぐに師匠まで疑いが来るだろうし、連鎖で俺も来る。
なので……調査しに来た奴らのマジックアイテムや剣や盾を飛ばしたり、火薬で大爆発起こしたりと。
今頃は共同墓地なだけあって『幽霊騒ぎ』の噂が立ってるだろう。
透明マントを着たままその噂も流して来た。
「お待たせしました!」
個室に入ると、ちゃんと師匠が先に来ており飲み物を飲んでゆっくりしていた。
師匠は無言で手をだしてくるので、俺は『お手』をして師匠を見る。
「……透明マントを返せなのじゃ」
「あっそっち?」
「それしかないじゃろ、どこの世界に……」
返したくはないが返せと言われたので透明マントを師匠に返す。
「一応現場を乱すだけ乱して、疑いが来ないようにしてきたんですけどってか…………本当に師匠です?」
「どういう意味じゃ?」
「いやだって、あっちの師匠も同じ顔でしたし、そもそもなんで師匠がクウガの横にいるんですか!」
「……ワラワにいわれてもな」
辺りを警戒しても攻撃も飛んでこないので、こっちが本当の師匠なんだろう。
いや、あっちも本物だしややっこしい。
「仮説じゃが、アレはお主が行っていた並行世界の人間じゃの」
「そんな事までわかるんですか?」
それを信じるのであれば色々納得もする。
あの殺気もそうだし、俺を殺そうとするような眼。
普段のクウガとのテンションの違いなど。
こっちのクウガが剣をとられたって言ってるのに持ってるのも説明がつくだろう。
「まぁ師匠が白って言うなら黒の物でも白って言いますけど」
すぐに「嘘つけなのじゃ」と反論された。
「まぁ何しに来たのかは知らんのじゃが。本人に聞いてみるのが早いじゃろ。どうなのじゃ? ワラワよ」
師匠が何もない壁に話しかけると、空間から師匠Bが現れた。
「流石ワラワじゃの。バレておったのじゃ」
「隠す気もなさそうじゃしな」
「おお。師匠が2人……あれ並行クウガはどこ?」
並行師匠がいるなら並行クウガもいると思ったのに。
「奴であれば隠れ家にいるじゃろ、頭に血が上っておったのでな先に返した」
そう言うのは師匠Bだ。
「あの」
「「なんじゃ?」」
声がステレオだ。
「どこかの双子姉妹じゃないんですし、せめて喋りかたとか声質とか変えてくれません?」
師匠と師匠Bが杖を取り出すと俺のほうに向けてきた。
そういう所は息が合うのね。
「…………このままで」
俺が謝ると2人とも杖をしまってくれる。
俺は決して暴力に屈したりしない。
しないけど、一番解決が早そうなので不便なのは我慢しよう。
じゃぁ壁に背中を付けている師匠Bが並行世界の師匠として……俺にキスをしてくれた師匠だろう。
ちょっと本物の師匠Bなのか確認してみる、本物であれば質問に答えれるはずだ。
「師匠B……アリシアは元気?」
「元気じゃよ。ワラワの元で修業をしてる最中じゃ。最近はどこをどう調べたのか、メイドの女もお主の事で訪ねて来ての……これでワラワが本物のメルギナスと確認とれたのじゃ? その後じゃ小僧が訪ねて来て、面白い本を持ってきて」
さすが師匠Bである。
俺の聞きたい返事を返してくれた。
「エロ本です?」
「初対面の魔女相手にエロ本を持ってくるような男がいるとしたら、消し炭にしてるのじゃ」
それもそうか。
こっちの師匠が「まったくじゃ」と言った後に師匠Bに問いかける。
「光の船の事が記された古文書じゃな?」
こっちの師匠がぽつりというと、師匠Bは手を叩いて喜ぶ。
「知っておったのじゃ? そう帝都の古本屋で見つけた古文書らしいのじゃ。短期間であれば瓜二つの世界に行けるという魔導書。普段ならそんな魔法なんて嘘と思うのじゃが」
師匠Bは俺を見ている。
なるほど、前例として俺がいたからだ。
「それをクウガの小僧の話したら、お主を殺すのに是非解読してくれ。と……ワラワはお主の頭でいいから持ち帰る約束で連れてきたのじゃ」
「頭だけってご冗談を」
頭だけ持ち帰るって……俺は化物じゃないんだし、死ぬよ?
…………いや。死ぬよな?
ちょっと疑問が残るけど、こればっかりは試したくない。
「ドアホウよ……いやお主。あっちのワラワは嘘を言っていないのじゃ」
「流石ワラワじゃ。どうせこっちのワラワは、弟子のお主を、ご褒美もなく弟子のまま扱うんじゃろ? 頭だけあれば体は向こうで作ってやるのじゃ。恋人として遊んでやるのじゃ」
「え?」
「ん?」
俺が思わず疑問の声を出すと、師匠Bも聞き返すような疑問符が飛んできた。
師匠Bの言ってる事って『アッチの世界に行ったら体を作って恋人のように肉体関係を持たせてやる』って話なのかな?
「一応聞き返しますけど、肉体関係はアリ?」
「アリじゃろ。どうせこの世界のワラワはそんな事もするまいなのじゃ」
俺は本物の師匠ほうへ振り向く。
いや、結果的にどっちも本物なんだけど……師匠はちょっとソワソワして何も発しない。
師匠Bは事情も知らないのでこっちの師匠を見ては勝ちほこってる。
「恥ずかしいのじゃ? ワラワはこの弟子とキスまでしたのじゃ! どうじゃすごいじゃろ」
ちょっと前であれば、すごいって言うんだけどさ。
ええっと、そのね。
「師匠その言ってやってください」
「ワラワが言うのじゃ!?」
「いやだって、向こうの師匠が煽って来てるんですし、ここはこっちの師匠が言う事かと」
師匠Bがちょっと変顔になる。
「なんじゃ? 何か言い返す事があるのじゃ?」
「その並行世界のワラワよ……」
「なんじゃ? その弟子なんていらんのじゃろ? わかるなのじゃ。ワラワも何百年も男の弟子なんていなかったしの。アリシアは教え子であって弟子ではない。邪魔じゃろう貰ってやるのじゃ」
これ、俺が向こうにいってもピンク色の生活が待ってるの感じするけど。
俺もその言いにくい。
「だって、余りにも師匠Bが可愛そうだから」
「あん?」
「はっ、つい口に!?」
こっちの師匠がため息をついた後に師匠Bのほうに視線を向けた。
「そのワラワよ。この男とは弟子以下じゃったんだが……その、ワンステップ上の手ほどきをした。お主がワラワならこの意味がわかるじゃろ?」
「手ほどき…………なっ!! お主嘘じゃろ!? 別れ際にキスまでして、こっちの世界に迎えに来たら泣いて喜ぶ。と思ってじゃの」
気持ちは嬉しいけど、そのねぇ。
「ちっ。ここは一旦保留にするのじゃ!」
師匠Bは壁に手をつくと短く詠唱をした。
手の先から光が漏れだすと、壁が大きく消し飛んだ。
「ちょ!」
「ふん! やはりこっちのワラワを消すしかないじゃろな」
捨て台詞をいうと穴から外に出てすぐに姿がかき消えた。
同時に出入り口の扉が開く。
「何だ今の音は!? なっ俺の店が壊れてる!! お前ら何やったんだ」
「俺は何もしてない!」
「それで言うとワラワも何もしてないのじゃ」
「なわけあるか! 勝手に壁は壊れない!!」
仕方がなく弁償する羽目になった。




