第298話 2人の魔女
朝食を食べて師匠と一緒に街の中を歩く。
目指す場所は共同墓地。
「ってか師匠も一緒でいいんですか? クウガがまだいるかどうか見るだけなんですけど」
「古文書解読も息抜きは必要なのじゃ、それにちょっと、クウガの奴に気になる部分もあってなのじゃ」
クウガに?
「もしかして俺が捨てられるパターン!?」
「何の話じゃ?」
「いやだって、クウガが気になるって事ですよね。そんなに若い男が良いんです!? そりゃ俺よりも若いでしょうけど!」
「ワラワから見たらお主もクウガの奴も子供じゃ子供」
「でも、その子供に手を出した師匠は……あばばばばばばばばばばばば!?」
師匠が短い詠唱で俺に魔法を放って来た。
回避する暇もなく目の前がちかちかする。
気づくと師匠は先に歩いていて、通行人がドン引きしながら俺の周りを避けて通っていた。
慌てて師匠の所まで走る。
「はぁはぁ。師匠酷いっす……」
「何が酷いんじゃ。無駄口ばっかり言いおって」
無駄口ではないんだけどな。
共同墓地までは徒歩で3時間ほど……滅茶苦茶遠い。
市内を走る馬車など借りてもいいんだけど、高いので節約。どうせクウガだって待ってないだろうし、万が一待っていたら土下座しよう。
「しかしいいデート日和ですね」
「…………目的地は墓地じゃぞ?」
「俺と師匠にぴったりです」
「…………アホ、無理にしゃべろうとしなくてもいいのじゃ」
「うい」
気分を盛り上げようと思って盛り下がった。
途中で軽食を買ったり、魔道具の店に入ったりと、師匠から『本当に行く気あるのじゃ?』と突っ込まれつつも共同墓地までついた。
人気のいない墓地に1人座っている男がいる、剣を杖のように抱きかかえてまっすぐに俺を見ていた。
うん。クウガ……君だ。
眼はちょっとくぼんでみえ、3日ぐらい徹夜した? って聞きたくなるような顔。
「おったの」
「いましたね……師匠はとりあえずここに」
俺は急いでクウガの前に走っていく。
クウガは微動だにしないほど怒っているようだ。
「ごめん! いや、すまん! すまない? てっきり忘れていて。とりあえずの土下座!!」
俺はクウガに誠意をもって土下座する。
自分でいっちゃなんだけど、普段ならしないよ? でも今回は俺が悪い。
行かないなら断り入れても良かったんだけど、ちゃんと様子を見に行くつもりだったし、わざと行かないってなら俺も謝らない。
「約束はしてなかったと思うけど、存在を忘れていた」
「…………」
クウガからの言葉の反応はない。
でも殺気は飛んできた。
墓地に来いって、言われて約束わすれたからって殺気まで飛ばす? いや俺が悪いので文句も言えない。
「お主」
師匠の声が聞こえた。
この、お主……って言葉は俺を言っているのか、クウガを言っているのか、俺は土下座をしてるのでわからない。
ってか師匠も別に、あんな事があったからといってドアホウ呼びを変える事もないのに。
あっそうか。
俺がドアホウのままだったら、師匠はドアホウと関係持った大ドアホウになるのか?
「…………土下座してるほうのお主だ。そのまま土下座してると首斬られるのじゃ」
「俺かっ!?」
土下座の姿勢のまま後ろに下がる。
頭があった場所に黒い剣が突き刺さったのを確認。
完全にクウガは俺を殺しに来てる。
「ちっ!」
クウガはその剣を抜くと、走って俺の体に刺そうとするが、俺も黙って刺されたくはない。
土下座のまま左右横に動いてはかわす。
師匠の声で「ゴキブリじゃな」って最低の発言が聞こえた。
「髪が黒いからってそれは無いと思うんですけど!?」
「少しは立ち上がって反撃したらどうじゃ?」
「かわすのにせいいっぱいで」
「ちょこまかと!!」
クウガの怒りの声が聞こえてくる。
その後に師匠の「出来るくせになのじゃ」と俺を過信する声も聞こえた。
まぁ……実際反撃しようと思えば出来なくはないけどさ……クウガにも理由があるんだろうし。
「まてクウガ!」
俺が立ち上がり両手を前にすると、真正面に立ちたくないのか距離と墓石で体の半分を隠し始めた。
「何をそんなに怒ってるか知らないけど話し合おう」
「話し合うつもりはない!! 黙って死んでくれ」
はい、そうですね。と、言うやつがいたら会ってみたい。
「「空駆ける雷帝よ、その力を我に与えた前ライトニングフルバースト」」
俺の後ろと前から師匠の詠唱の声がステレオで聞こえた。
師匠のライトニングフルバーストと師匠のライトニングフルバーストが相殺され空が真っ白になった。
俺はその光に紛れて後ろの師匠の所まで下がる。
「……………………師匠、一つ聞きたいんですけど。姉妹などいます?」
「いないのじゃ」
隣にいる師匠に確認するも、その可能性は否定された。
でも、クウガの横には姿恰好が同じ師匠が立っていて俺を攻撃してきた。
「流石ワラワじゃ! こうも驚かない」
「この世界にワラワは1人で十分なのじゃ、帰ったらどうじゃ?」
俺の隣の師匠を師匠Aとするなら、師匠Bの問いかけに師匠Aが答えた感じになる。
「ええっと? 師匠Bさん?」
「ふっふっふっふ。久しぶりじゃの異邦人よ、いや今ではワラワ達が異邦人なのじゃ」
うわぁ。オラすっごい嫌な予感がするぞ!
ふいに魔力の動く感じがした。
隣の師匠と師匠Bが雷球をいくつも浮かびあげると、まったく同時に攻撃をし始める。
師匠ってはそんな魔法使えたんですね。
お互いを攻撃しようしては魔法を打ち消していく。師匠Bは嬉しそうに、隣の師匠の表情は苦悶の顔だ。
「師匠もしかして不利?」
「そんなわけないのじゃ! 面倒なだけじゃ」
突然に笛の音が聞こえた。
俺達の耳に「街の中で攻撃魔法を使った奴は誰!!」と怒号が飛んできた。
声からしてエメルダ。
それ以外にも大勢の足音が聞こえた。
師匠Bはため息をつくと病んでるクウガに声をかけていく。
「お開きじゃの。クウガ撤退なのじゃ」
「あと少しで……わかりました。知恵の魔女様」
病んでるクウガがそういうと2人の姿は書き消えた。
俺が声を出そうとすると突然に見えない何かで口をふさがれる、感触からして手のようだけど見えない。
「騒ぐななのじゃ。お主とワラワに透明マントをかぶせた、ゆっくりと離れるのじゃ、竜の尻尾亭で落ち合うのじゃ」
「…………うい」
俺と師匠はお互いに見えなくなり、墓地の中をスリ足で動く。
犯人を取り押さえるのに、ざっと100人以上いる。
うん、大事だ。
エメルダは辺りを見回しては部下らしき人に命令を飛ばしてる。
あぶね。
これ見つかったら本気で打ち首になりかねん。




