第295話 シーツに来るまりクンカクンカ
教会に戻り、言伝を伝えたシスターに手土産のケーキを渡し、ただいまを言って部屋に戻る。
師匠の残り香があるシーツに顔を埋めて鋭気を補充。
補充!
さらに補充!!
物凄い堪能した。というかそんな匂いも残ってなくて残念だった。
部屋が静かにノックをされた。
このノックは教会関係者……俺の周りにいる人たちと違って教会関係者のみなさんは凄い丁寧に接してくれる。
アリシアの知り合いだ。ってだけでこの待遇である。
もっとも俺も師匠も宿代の代わりにお布施払ってるけど……なんだったらそこらの宿よりも高い。
「いまあけまーあれ? ええっと神父さん?」
何度も顔を合わせてる老人の司祭さんが立っている。
「レオナルドです。お休みの所申し訳ありません、クウガ殿が礼拝堂でお待ちしております」
「…………どうも。すぐ行くからって伝えて?」
レオ……ええっとなんだっけ。まぁ老司祭さんは一礼をすると静かに去っていく。俺は老司祭さんを呼び止めては「マジで礼なんていらないからね」と定番になった言葉をかけるだけど、老司祭さんは微笑みを浮かべ礼をする。
「別に客人だろうけど……教会と関係ない部外者なのにあの人たちも……ええっとクウガが忘れ物か」
部屋を出て礼拝堂へと歩く。
帝都だけあって相変わらずでかい。
ゆくゆくは俺と師匠の結婚式はこう大きな所でやりたい。もしくは和風なんてのもいいかもしれん。
貴族でも結婚式ってやる人すくないのよね。
逆に一般庶民のほうが結婚しましたって証明書を書いてもらうのに教会に来たりもする。
なんだったら国が違ったらその結婚証明書は認めません! って言い張る国もあるとか。この辺はゲームではなくて貴族時代に学んだ。
「あっいた」
椅子の中央にクウガがきょろきょろしながら座ってる。
俺を見つけては立ち上がった。
「いた! じゃないですよ!? アリシアはいないようで安心しました。盗賊ギルド前で待っていたんですよ!」
「あったじゃん」
「会ってません!」
何だ。記憶喪失か?
「いやだから、取られた剣も持ってたし」
「持っていたら相談に来ません」
「…………それもそうか。いやでも、俺と会話したけど」
「クロウベルさんは誰と会話したんです! 俺は待ってる間に冒険者ギルドに連れていかれて『難癖つけるのか?』って脅されて……」
「怖いのか? 叩きつぶせばいいじゃん」
「冒険者ギルド規則、街中で暴れない! これでもA級なので」
うわぁ……まっじめ。
ぶっちゃけ、そんなごろつき簡単に倒せるだろうに……相手も相手で喧嘩吹っ掛ける奴間違ってるだろ。
ちょっと本気出したらクウガだって強いんだし死ぬぞ。
…………いやまて。クウガが反撃してこないって性格知ってるから脅してるのか? だったら何て言うか、頭いいな。
「僕はもういけないのでクロウベルさん、話だけでも聞いてきて」
「…………」
「何で黙るんですか!」
いや。お願いじゃなくて命令なんだな。
言わないけどね。
「明日でいい?」
「別にいいですけど……大会まで後10日なんですから」
「でも、クウガはシード選手だから15日ぐらい後だろ、そもそも……」
「そもそもなんですか? 僕が悪いんですか? 剣をとられたのが悪いんです? 返すからっていって見せた翌日に返したよ? って言われて──」
「わかったから、そう怒らんで……話聞くだけだからな……ああ、あとサンが万が一オークションに流されたら剣の購入代金手伝うって」
サンに会った事も伝えた。
突然にクウガが黙りだす。
「喋ったんですか!?」
「そりゃ挨拶ぐらいはするでしょ」
「何て事をするんですか!」
「うおうおうおうおおう」
俺の服を思いっきりつかんでは揺さぶり始める。
周りにいた礼拝者達が俺達を見ては何かをささやく。
「先日も、貴方の子供ってこの世界に何人いるんですかね? って真顔で聞かれたんですよ!?」
「どこで? もしかして寝室のベッドの中?」
「……………………場所はどこでもいいじゃないですか」
クウガが俺から手を離した。
冗談で言ったのに。
まぁ知り合いの性事情などあまり聞くものでもないな。この世界がオープンすぎるんだよ。
「明日行くから明日」
「明日は僕はアレキ義兄さんに連れられて魔物討伐に行きますので……」
「まだあの馬鹿皇子と付き合ってるの?」
「横暴ですけど、いいひとなんですよ?」
俺を地下牢に入れて処刑の選択もある奴がいい人なわけがない。
さらに、決闘だ! って地下古代遺跡で命狙ってきてるだぞ? 強い奴とは力を比べれば友情が芽生えるっても限度があるだろ。
その点俺も《《良い人》》ではない。
間接的にとはいえ人の人生も狂わせてるし、少なからず人生を終わらせた事もあるし……。
「聞いてますか? クロウベルさん?」
「あっ聞いてるよ」
今このクウガに世の中にいい人なんていない。って言っても仕方がないので言わない。
────
──────
カーテンを開けると日の光が入ってくる。
散々クウガに頼みますよって言われて最後にはしつこすぎてアリシアにちくってやろ。って思ってからの翌日。
俺はローブを羽織ると教会の前でそのアリシアに会った。
「おはよ」
「おはようクロウ君。今日もクウガ君のお手伝い?」
「結果的にそうなる」
「ごめんね。私も手伝えればいいんだけど……クウガ君大丈夫だって言うし、討伐隊についていかないと」
「あっそれってクウガも行くやつ?」
「うん」
なるほど、地域の魔物討伐に聖女もついていったらいい宣伝になるし、兵士としても安全だ。
その代わり全滅とかしたら、帝国の栄光は一瞬で地獄に落ちるけど。
「魔力使いすぎないように」
「ふふ。先生みたい、わかってるよ? これでも昔よりは魔力増えたんだから」
「そういって空にするからな」
俺はふとアリシアを見た。
「何かな?」
正史ルートのアリシアは魔女になる。いやなった?
こっちのアリシアも聖女からさらにジョブアップするのか?
「何でもない」
「変なクロウ君、あっごめんお迎えが」
教会の入り口に、すごい豪華な馬車が止まった。御者と一緒の兵士が来るとアリシアを迎えに来たのだ。
「こっちから行くって言ってるのにね」
アリシアは不満たらたらで言うと俺に手を振って馬車に乗り込む。
それを見送った後、昨日の盗賊ギルドまで歩いて行った。
盗賊ギルト。表向きは酒場で中に入ると周りの男たちから滅茶苦茶にらまれる。
小心者の俺はもうちびる寸前だ。
「ふーん……何の様だい? クロウベル・スタン」
褐色肌で濃い青の髪質、少し縛ってるいるが髪の毛は短い。
タンクトップなくせに大事な所が浮き出ない服を着ては突然に俺の名前を言っては暗がりが出てきた。
「自己紹介したっけ? スザンナさん?」
この状況で違ったら滅茶苦茶恥ずかしいので、言い切らないで、訪ねる感じでちょっとだけ保険をかけて言う。
「店の前で大きな声で話したらそこらの犬でもわかるよ」
「ああ、昨日か」
そういえば店の前だったな。
「で、ヒーローズの街を作り、サン姫、聖女、英雄、聖騎士団、またはゴーレム使いの貴族や砂漠地方でも名前が。そうそう、空を飛ぶ乗り物や馬の要らない馬車を作った。とも言われてるね。そんな男が盗賊ギルドのような薄汚い所に何の様だい?」
うわぁ俺ってそんな評価なの!?
「なに、これでも褒めてるのにその嫌そうな顔は」
「実際嫌なんだよ。全部俺の力じゃない」




