第293話 マナワールドにおける少子化対策
すっかり教会が俺の居場所になったこの頃。
師匠が俺がいる部屋にノックもなしに入ってくる。
「…………師匠せめてノックぐらいは」
「《《お主》》がワラワの家や寝室に入る時ほとんどノックなどなかったのじゃ?」
やっぱり少し聞きなれない。
俺がヒーローズの街から戻って来た頃から師匠は俺の事を『ドアホウ』から『お主』と呼ぶようになった。
どういう心境の変化だろう……ってか、まぁ俺も師匠も心当たりありまくりなのでお互いに何も言わない。
この場合って俺も呼び方を変えたほうがいいのか。
でも公衆の面前でいきなり『メル』もしくは『メルギナス』など呼び捨てにも出来ないし、まだ『師匠』呼びのままだ。
「そこはまぁ、でも俺だって1人になりたい時にだって」
「今さらお主の裸などみてもなのじゃ……来客じゃぞ」
「誰?」
「エメルダと言ってるのじゃ」
「却下、却下! どうせ苦情ですって。銀水晶の雫の話しましたよね? 俺は銀水晶の雫を飲んだタヌをちゃんと届けたのに。タヌを飼っていればそのうち水分とともに出ると思うんだよね……」
「たぶんそれ滅茶苦茶薄くなってると思うのじゃ……まぁそういうと思って帰らせたのじゃ」
さすが師匠だ。
俺よりも厄介ごとが嫌いなだけある。
いや、訂正だな。
師匠は別に厄介ごとでも関わればする。それは俺と同じだ。
ただ……その寿命のせいなのか人と関わらないように生きてる感じがする。
俺も近所の《《公園に住んでいた山田さん》》が居なくなった時は泣いたもんだ。最初からかかわりなかったら泣く事もないし。
「ドア……いやお主よ。特訓はしないのじゃ? クウガなんぞ連日特訓してるらしいのじゃ」
「夜の?」
「………………」
やべ。空気読み間違えた。
「冗談ですよ? 冗談」
「はぁ……一度許したぐらいで恋人のように許した覚えはないのじゃ」
「あの……複数回ですよね、なんだったら2日前に……」
うん。
うん……俺の訂正に師匠も黙る。
「じゃっじゃっじゃーんミーティアちゃん登場! にゃ? そんなに暑くないのに顔赤い2人がいる。メルさんド変態ちゃんおっはー」
「え!? ああっミーティア助かる!」
「そうじゃな、ミーティアさすがなのじゃ」
「よくわからないけど褒められた!?」
ポケットから金貨を出すとミーティアに握らせた。
「わお!? よくわからないけどありがとう、メルさん司祭さんが古文書の解読おねがいだって」
「ああ……すぐ行くと伝えておけなのじゃ」
ミーティアが「了解!」と言って部屋を出ていった。
「珍しいですね師匠が仕事だなんて」
「……居候してるしの、これぐらいは……それに古代文字なんぞ読める奴も少ないのじゃ」
「俺も読めますけど」
「………………」
師匠が黙ってしまった。
いやだって攻略ページに50音変換表あるし、ゲーム内の石板を解読すると『徹夜4日目』とかそういうメタ的な内容が書いている感じ。
面白いから俺は覚えた。
「ほんとお主は……」
「いやあの、俺が悪いじゃないですし……それに古文書ってもほとんどが日記ですよね」
「たまに当たりがあったりもするのじゃ、じゃぁ言って来るのう」
「はい、行ってらっしゃい」
俺の部屋から師匠が出ていくといよいよ1人だ。
俺のほうはどうしようかと予定を考えていると《《窓の外からクウガが部屋の中を覗き込んでいる》》。
「こわっ!?」
「あっおはようございますクロウベルさん」
「ああ、おはよ……ってかなんで外!? ここ一応3階ぐらいの高さあるけど……表から入ってきたら?」
「いえ、僕なんて窓の外からで大丈夫です」
なんなんだ。
ちょっと病んでるな。
「アリシア呼ぼうか?」
「っ!? だ、大丈夫です!」
「アリシア呼ぼうか?」
「クロウベルさん、なんで2回言うんですか……」
「俺の所に来るお前は厄介ごともってくるから」
正史ルートでは俺を殺す。
イフルートでは、俺と決闘する。俺について来る。あちこちで子供作る。あちこちで女性問題勃発、俺が間に入る。勝手に死んでる。勝手に生き返る。勝手に老人になってる。勝手にショタになる。勝手に武術大会のシード選手になってる。
勝手に俺をライバル視してくる。
指を折りまげて俺はクウガに説明した。
「そこまでいいます!?」
「いうよ。じゃぁ今回は何?」
「いえ、もういいです! 僕にだってプライドがあります」
あったんだ……無いと思ってた。
「何か?」
クウガは窓越しに俺に聞いて来る。
「何も言ってない」
「そうですよね」
「まぁ窓の外にいないで入ったら? 聞くだけは聞く」
「さすがクロウベルさんです」
クウガは窓の外から俺の部屋に入ってくる。
すごい嬉しそうになると、俺に酒瓶を渡して来た。
マメな男だ。
「どうも。で? 話ってなんだよ」
グラスに注ぎ。1個は俺、1個はクウガの前にだす。
軽い乾杯をしながら口に含んだ。
「実はクウガさんからもらった剣。奪われてしまって……助けてください!!」
「はい? …………俺からもらった剣って、もしかして裏アーカスが使っていた2つの剣?」
「はい!」
すごい笑顔だ。
裏アーカス……後に本当のアーカスを知る事になったので色々思う所はあるが隠しボスの1体。
全身が影のように黒く、彼女が持つ2つの剣は魔剣クラスだ。
俺とクウガが各1本譲り受けたわけだけど、俺はそのまま聖騎士であるアンジェリカにあげた。
「奪われたって取り返せばいいだろ、クウガだって強いんだし」
「そうしたいんですけど……僕の口からはとても」
「そもそも誰に奪われたんだ?」
「この街にいる盗賊ギルドマスターの娘、スザンナさんにです!」
盗賊スバ。
その娘であるスザンナは花も恥じらう17歳。
この世界では17歳はちょっと行き遅れ気味もあるけど、盗賊ギルドマスターの娘だ。
「先にこたえ聞くけど……もしかしてスザンナと関係持った?」
「…………はい」
あーそれで壁から来たのか。
そんな話ミーティアやアリシアに聞かせる事できないもんな。
「よし。諦めろ」
「クロウベルさん! お願いします! 話だけでも!! 彼女は僕に返したって言うんですけど、僕は返してもらってないんです!! それに!!!」
「それに?」
「彼女と関係を持ったのは盗賊ギルドマスターからのお願いであってアリシアも知ってます!!」
「……アリシアもアリシアで相変わらずぶっとんでるな……」




