第292話 クエスト完了!?
タヌが食われた。
仕方がなく助けるのに、迷宮主の大蛇が引っ込んだ穴に入った、竪穴になっておりぐるぐると滑り台のように落ちて最後は受け身を取る。
周りの空気がぐるっと変わった感じで、俺が見上げると大蛇と眼が合った。
大きさは全長10メートル以上ビルで言えば4階ぐらいの大きさだ。
その口にはタヌが顔を出してピーチクパーチク口を開けている。
「先手必勝!」
俺は剣を構えて大蛇の体を駆け上がると、突然体に衝撃が走る。
最後に見たのは大蛇の尻尾。
その尻尾で飛ばされた俺は壁にぶつかって落ちた……痛い。
「タヌヌヌヌヌヌヌ!? 弱いタヌ!!」
タヌの叫び声を聴いて眼をさます。
うん。無理。
「うるせえ! そう俺は弱いのってか周りが異常なだけ」
まず俺と大蛇の物理的大きさが違う。
次に俺は広範囲の攻撃魔法が無い。
水竜にしかり、水槍も局地的には強いが、こんな大きな敵と戦うような魔法じゃない。
「タヌ! 骨は回収する!! 死んでくれ」
「タヌ!? 助けるタヌタヌ!!」
「無茶言うな! 無理でしょ無理無理!」
「いいつけるタヌ!」
「生きてここから出れればな!」
俺とタヌが言い争いをしてると疑問が出た。
「どうしタヌか?」
「いや。ずいぶんと食べるまで長いなって」
先ほどから俺とタヌが喋っているのにタヌは溶かされなく、丸呑みされるでもなく……いや頭しかでてないけどさ。とにかくそれ以上先には行かない。
俺への攻撃だって、俺が攻撃を仕掛けないとしてこない、王者の貫禄ってやつ?
「タヌ?」
「まるで飴を舐めてるみたいだな、タヌ! 何か溶けてる感じするか?」
大声で叫ぶとタヌのほうも大きな声を出してくる。
「ぬめっとして温かいタヌ! ぬるま湯に入ってる感じタヌ!」
「溶けては?」
「多分ダイジョブタヌ!」
そっか。
迷宮主の大蛇は食べる気ないのかな?
たしかこいつ、あの男……アレ……アレ……? だめだ名前が思い出せん。
サンの従兄かなにかのめちゃくちゃ嫌味言うやつをペロっと食べていた気がする、その迷宮主がタヌを食べない。って事は何かあるんだろう。
どうするかな……。
迷宮主のこの大蛇。目がうっとりしていて俺を見てない、見てないが俺がちょっとでも近づこうとすると、大きな尻尾で地面を叩く。
「タヌ。やっぱり諦め……」
「いやタヌ!! 助けるタヌ!!!」
「でもなぁ……」
これが師匠だったら俺も死ぬ気で行くよ? でもタヌだよ?
「俺が黙っていたら別に見捨ててもバレなくない?」
「ひどいタヌ!」
「おっと、つい本音が」
俺が本音をいうと、タヌの罵声が飛んでくる。
「小さいタヌ。根性なしタヌ。恋人にしたくないランキング1位タヌ! それからタヌタヌ……」
はぁうるさい。
仕方がない……あんまり乗り気じゃないんだけどな。
俺がアンジュの剣をマジックボックスから取り出すと、喉を鳴らしていた大蛇の音が止まった。
「水盾」
静かに水盾を足元に唱え、その反動でジャンプ力を上げる。その行動を3連続で繰り返すと大蛇の頭よりも高く飛んだ。
大蛇の脳天部分にアンジュの剣を刺そうとおもったが、大蛇の後ろに割れた卵の殻を見つけた。隠れるように小さい蛇型の魔物が3体。
「ちっ」
アンジュの剣で斬りつけるのではなくて、持ちての部分で大蛇の頭に一撃を加える。
「べ、別に迷宮ボスの子供のために手加減したんじゃないんだからね!」
俺は叫ぶ。
俺の体に思いっきり振動がくると、ベロっと口が開いた。
ヌメヌメになったタヌを見てドン引く。
だってタヌの体が銀色なんだもん……え、何かの病気? 触りたくないんだけど……ああ! もう。
「情報量が多すぎるわ! 何なんだその色は! 石化? それとも呪いか?」
「タ、タヌは知らないタヌ。見るタヌ、戻ったタヌ!」
銀色だった体が人間みたいな体つきになる。
「まずは逃げる」
ぬるっとしたタヌを引っ張るも手が抜ける。
「水球」
「何するタヌ!? あぶぶぶぶぶぶ息できな……タヌ!」
「洗い流してるから我慢」
タヌの事情なんて知らない。
大蛇の唾液を全部流した後手を引っ張って逃げる。
途中で出てきた魔物をとりあえず斬ってさらに先に進む。
後ろから大蛇が追って来る気配はないが逃げる。
あの迷宮主は多分だけど人の言葉がわかりそう。で、俺の言葉がわかってくれれば追って来るかどうかは五分五分だ。
手加減した風に俺が言ったし、それを借りと感じてくれれば……俺だって無理に戦いたくない。
「止まるタヌ! 疲れたタヌ!!」
「…………十分逃げたか?」
背後を振り返った。
大事な所を手で隠した幼児体系のタヌが顔を赤らめてる。
「裸タヌ! 見るなタヌ!」
いや、俺別にケモナーじゃないし。
後グラマーなほうが好きだし、ロリコンでもない。
「服ないの?」
「無いタヌ! 全部溶かされたタヌ!」
「威張るな。…………俺の旅用のローブほら」
マジックボックスから出してタヌのほうに投げ渡す。
「貰ったタヌ!」
「やってねーよ!」
高くはないが安くもない。
ってか、タヌの体がまた銀色になりかけている。
「なにそれ病気!? ってかそもそもなんで迷宮にいるんだよ。亜人の国だっけ帰ればいいじゃん」
「ひどいタヌ! クィルとギースの所にいると黙っていてもごはん出るタヌ。赤ん坊が生まれるからお祝いを探していたタヌ!」
普通の人間なら怒るところだが、黙ってご飯が出るなら俺もそうする。
だって俺もダメ人間だから。
「で、それはわかった。次になんで銀色体が変わるんだ? まるで《《水晶》》のように……いやまて」
「タヌ?」
俺はこの迷宮に何しに来た? そう銀水晶の雫を探しにだ。
「もしかして銀色の何か持ってないか?」
「タヌ! これはタヌのタヌ!」
タヌは手のひらサイズの銀水晶を俺に見せてから隠した。
どこに持っていた? いやそれはまだいい、疑問が残るけど。
「タヌ」
「何タヌ!?」
「銀色の何か食べた? もしくは飲んだ?」
俺が聞くとタヌはびっくりした顔になった。
「甘かった水飲んだタヌ!」
「飲んだのかよ!! おま、たぶん銀水晶の雫だぞ!? どーするの、ここで手に入るはずの飲むなよ。ってか、ああそうか……あの迷宮主の大蛇がタヌを食べなかった理由わかったわ。染み出る魔力を飴のように舐めていたんだな……」
「タヌ?」
タヌ? じゃねえ。
事の重大差がわかってないな。
「全部飲んだタヌ! もう無いタヌ!」
──
────
帝都に戻って俺はエメルダを呼びつけた。
場所は高級スイーツ店。
皇女サンに教えてもらった店で、教える代わりにお土産をご要望された。
「お待たせ! 中々に良い店を選ぶんだね……いや、嬉しいよ私のために銀水晶の雫を持ってきてくれるだなんて」
エメルダは席に座るとウエイトレスに紅茶セットを頼むと俺に笑顔を見せてくる。
「ええっと、銀水晶の雫………………の素材を持って来た」
俺はタヌをテーブルの上に乗せた。
「タヌ!」
「………………何の冗談?」
眼が怖い。
テーブルの上のタヌが震えている。
「ああ、ごめん。怖がらせたかな……可愛い子だね」
「タヌ! かわいいタヌ!!」
「で?」
おふ。
俺に向ける視線が怖い。
「まぁ話を聞け。銀水晶の雫なんだけど、これが飲んだ」
「飲んだ!?」
「タヌ飲んだタヌ!」
タヌが宣言するとウエイトレスが紅茶セットを持ってくる。
この状況でテーブルに置いて去っていくとかプロは凄い。
「で、どうも銀水晶の性質が発動できるらしく……《《頑張れば》》タヌから銀水晶の雫ぐらい出るんじゃないかな……じょぼぼぼぼって」
丁度紅茶を一口飲んだエメルダが噴き出した。
「汚いタヌ! かかったタヌ!!」
「ご、ごめんなさい。え、え!? え??」
「タヌよかったな。このエメルダと暮らせばもっと贅沢出来るぞ。じゃっそういう事で」
「まちなさ! あっちょっとタヌちゃん? いきなり抱きついてはだめよ!?」
タヌには足止めを事前にお願いしてる。
その間に俺は逃げた。




