第289話 刑期8年地下行
えっほえっほ。牢屋に行くって教えなきゃ。えっほえっほ。と、掛け声が聞こえてきそうな。
元ネタはしらないが、なんとなく地球にいた時にそんな意味不明なフレーズを聞いた気がする。
ってかさ、視覚はしょうがないよ? 影縛りで普通口と耳も塞ぐ?
周りは真っ暗で体だけは動く。
普通の人間だったらこれだけで罰だよ、そっちがその気ならこっちもやってやろうじゃないか。
寝る。
他にする事もないし。
ここは俺の得意な《《妄想》》でもいいんだけど、例えば裸の師匠を妄想内で出してあれやこれ。
でもだ。
現実ではどこかに運ばれてるわけで、その最中に俺の股間が大きくテントを張ったらもう最悪である。
それを街の人間……いや知り合いに見られたらミーティアが俺を呼ぶように。全員からド変態と呼ばれるだろう。
って事で寝る。
突然に目隠しをはずされて、体を揺らされた。
「うあ? ……ああ、牢か……もう少しで裸の師匠が出てくる予定だったのに、おはよう」
周りを見るとすでに牢の中にいた。
俺を起こしたエメルダは長い金属の棒を牢の外にだした、たぶんあれで俺を起こしたのだろう。
「…………思ったよりも驚かないんだね。一般人はこの時点で泣き叫ぶよ?」
「もっと寝てたかった。じゃぁ罰金払うから出して」
「一度入れた以上、ここからは賄賂になるから出せないよ」
いともあっさり。
しょうがない刑期をうけるか、師匠と会えないのはつらいが、数日だろう……どうせ俺も暇だったし。
「街での魔法を使った騒ぎ。一般人に危害がないので軽い日数」
「何日?」
「凄いオマケをして4年にしてげよう」
聞き間違いかな?
いや、聞き間違えだろう。
エメルダは椅子を反対にしてひじを立てて座っている。
「4日かぁ長いなぁ」
「4年」
「4日後には出れるなら我慢しよう」
「4年」
「…………長すぎない!? こんな狭い場所で4年もいたら死ぬよ!?」
「死なないようにするから」
だめだ、こいつじゃ話にならん。
えっと冒険者ギルドで知り合いは誰かいたかな……あっいた!
「アンナをよべえ! 冒険者ギルドにいる奴だ。横暴すぎる!! クソみたいな女の意見で俺は殺される!!」
鉄格子を両手でつかんで激しく揺らす。
全然びくともしない。
一方逆向きに椅子に座ってるエメルダは俺を見ては小さく笑う。
「事務員のアンナは里帰り中だよ。クロウベル君」
「…………俺の名前知ってるの?」
「もちろん。こう見えてもギルドでの君の噂は凄いんだ。あのA級冒険者ハーレムパーティーと知り合い。国王や皇子と知り合い。聖女と知り合い大魔法使いと知り合い。噂では国が違う王級にも顔が利く、それなのに」
「それなのに?」
なんだろう?
二枚目な男とか?
俺が聞くとエメルダはまだ笑顔を絶やさない。
「冒険者になる気はない変な男」
「あっそういう評価?」
「驚かないんだね」
「誰かにも冒険者になれって誘われたけど……無駄じゃない? 入るのにも試験。ランク維持するのにも試験。試験だけならともかく追加の維持費。強制の特務クエスト。命を落とすようなクエストばっかり」
「私の前でそこまでハッキリ言う事が出来るとは、話に聞いていたより面白い」
別に冒険者ギルドの関係者ならだれの前でもいえる。
「弁解するけど、俺が嫌なだけでシステムとしては良いと思ってるよ。力と運さえあれば地位も名誉も手に入る、ランクによっての割引。高ランクになると伝手も増える」
「そこまで知ってるのに成らないなら、じゃぁ刑期8年」
「ちょ!!」
一気に倍になった刑期。
エメルダは椅子から立ち上がると俺を見ずに去っていく。
「また様子を見に来るよ。君が冒険者になるなら刑期はかわるかもね」
なるほど。
ってか前々から目をつけられてる? 冒険者ってそんなに人事不足なのかね。
「ならないって言ってるの!? ばーか! ばーかー! ちょっと、ねぇ。エメルダさん! エメルダの陥没〇〇〇ー!」
とても人前で言えない事を大声で言うと、エメルダが廊下の奥から走って来た。
他に人がいないし大丈夫だろう。
「な、なんでそんな事!!」
食いついたのはいいけど、うわ、めっちゃ怒ってる。
もう剣抜いてるし……いや、ゲームでそんなグラフィックとか見た事ないよ? でもその、キャララフ設定と言うのがあって……確かこの双剣のエメルダはおっぱいの先端が無かった。
もちろん書き忘れや故意に書いてない。話なんだけど……モブの一人だし。
それをネタに非公式の『ちちくらべ』の絵ではちゃんと反映されてあるべき所が引っ込んでいた。
それを俺は悪口で言っただけなんだけど、ここまで怒るとは……。
「もう……殺すしかない……」
「なっ! 待って! これ言ってたの俺じゃないから」
「誰! まずはそいつを殺す」
誰って、ネットで見た。なんていったって意味が分からんだろうし。
ネットで偽造されたのが公式の暗黙になった。とか言ってももっとわからん。
ワンちゃんにかけて言うしかない。
「《《クウガ》》が言ってた、俺はこっそり教えてもらった」
「っ!?」
棒読みで言うと、エメルダの表情が固まった。
双剣を持つ手はプルプル震えている……その手はそっと剣をしまい込んだ。
「彼ならしょうがない……彼と君がそこまで親密な関係だったとは調査不足だったよ」
ワンちゃんが通った!!
ってかクウガお前愛人何人いるんだよ、今回は助かったけど。
よし次の一手を間違わなければ俺はここから出れる。
「で……どうする? 俺は4年もここにいるのなら、どんな手を使っても噂広めるけど」
「4日でいいよ。こちらも義務があるからね」
「やっぱり4日か。まぁそれぐらいなら待つよ」
「最初から変な吹っ掛けしなければよかった……じゃあ、くれぐれも変な事は言わないで……後」
「まだあるの!?」
「ある……少しお願いを聞いてほしいんだ」
うん。やだ!
と、即答したい。即答したいけど、俺の切れるカードはもう全部きった。
どんな事をしても噂を広めるっても、これ以上調子に乗って面会なども制限されると広めようがないし。
カツカツカツと足音が聞こえてくると、エメルダは急に立ち上がった。
「見回りご苦労」
「はっ! 交代の時間ですので、エメルダ殿はギルドのほうへ」
「この者は街で暴れていただけだ……が、口がうまい。一切耳を貸さないように。《《特に私に関する嘘などは一切信じないように!!》》」
すごい強調してる。
そんなに恥ずかしいか……まぁ恥ずかしいか。
俺も股間のたまたまが引っ込んでる。とかだったら恥ずかしいもんな。
何か急に罪悪感が来る。
交代の兵士が椅子に座るとエメルダは薄暗い廊下を歩いて行った。




