第288話 人生最大の告白
宿が用意してくれた個室には頭に包帯を巻いた父サンドベルと、その横でメイド服を着たアンジュと俺が座っている。
ちなみにサンドベルの怪我は床に土下座しまくりひたいから血が出た程度だ。
あまりの必死さにアンジュは引いてキエサリ草でイタズラをしていた事を『過去の事ですので』と水に流した。
「ですが!!」
「うお……何、アンジュ」
「何じゃありません。クロウベル様がそのような薬に頼って卑猥な事をするとは、そのように指導した覚えはありません!」
アンジュには世間一般の常識や、剣の訓練を中心に教えられたけど……日本の常識を得た俺は基本悪い事しなかったからな。
「指導受けた事もないんだけど」
「…………た、確かにクロウベル様はそういう事は、それに見合ってスゴウベル様も……」
「うおおおあ! この馬鹿クロウベル! アンジュの言う事が正しいに決まってるだろ!!」
サンドベルが立ち上がると、アンジュがサンドベルに「怒らないで」と短く言う。
まるで犬のようにしゅんとなったサンドベルは椅子に座りなおした。
「何か理由があるんですね」
「まぁ……ちょっと結界が張ってある場所があってその結界を通るのにキエサリ草が欲しいかなって」
「流石はクロウベル様です……このアンジュ誠意を込めて謝罪します」
「いやいいよ。普通はイタズラ目的だろうし」
ゲームでもそうだったし。
「昔手に入れたのは東方にある島にある国でしたが」
「ヒノクニか」
「流石クロウベル様よくご存じで……どうなされましたかスゴウベル様」
「本当にワシの息子か? 人生周回でもしてるのか?」
「………………んなわけない。正真正銘の貴方の子ですよ」
すごいな。
久々に会ったってだけなのに見事に確信ついて来た。
でも、本当にサンドベルの子ではある、ただちょっと前世の記憶で知識があるぐらいな物。
「そう思われるもの仕方がありませんね。クロウベル様はそれはもう何年も勉強に訓練と素晴らしい生徒でした」
「いやぁ」
「ふむ……あそこの王様。いや殿様といったか? 手紙を出してもいいが」
「半年以上かかりそう、あと持ってるかは知らないよね」
「そうじゃな」
ゲームでも、殿様が持っていたな。
飛空艇を借りたとして数週間はかかりそうだな……ゲームでは20分なのに。
もしくはリターンの魔法で。
元々帝都の宝物庫で手に入るやつだし、こっちが正規ルートだろう。
「まぁ皇子にも話付けてるから……とりあえず武術大会で上位行けばもらえるらしいし」
「なんだと!!」
サンドベルが立ち上がってテーブルに両手をついた。
その行動に一瞬ちびりそうになる。
怖いよ? 初老になった父が目を見開いて口が半開きで俺を見ているんだもん。
「お前は皇子と知り合いなのか!?」
「あっそっち? ええとまぁ……」
「サンドベル様。クロウベル様にスゴウベル様も、アリシア様、クウガ様達のご友人なんです。帝国の皇子や皇帝と知り合いでも普通と思います」
「そ、そうなのか……」
サンドベルがゆっくりと椅子に座るも納得いかない顔だ。
「確かに俺って《《庶民になろうと頑張っているんだけど》》……なりきれてない?」
「…………」
「…………」
あれ、2人とも無言だ。
「それはボケか?」
「クロウベル様それはちょっと……先ほども言いましたが、庶民は聖騎士隊や聖王様……それに冒険者ギルドで噂になっていたのですが開拓街にかかわり合うような事は無いと思います。ましてや武術大会など」
「…………なるほど」
少し方向を考えたほうがいいな。
別に冒険したいわけじゃない。
向こうから厄介ごとが来るのがいけない。
「しかし、色々とわかりました。クロウベル様は今はどこでお泊りで」
「教会の世話になってるけど……もうそろそろ出ようかなって」
だって隣の部屋がミーティアなんだよ!?
もうプライバシー守り切れる自信がない。
「わかりました。行きましょうサンドベル様」
「お、おい! っと。じゃぁな我が息子よ!」
アンジュが立ち上がり部屋から出ていくとサンドベルも部屋から出ていった。
「いや、だから教会から宿に変えようと……ってもういないし」
まぁでもよかった。
父サンドベルとの親子の記憶は少ないがアンジュが幸せそうで。
ベイフォートの宿の店主に礼を言って俺も外に出た。
「さて、クロウベル暇になる。っと……」
空にある太陽? を見ても昼ぐらいだろう。
もうすぐ教会の鐘が鳴るはずだ。
近くの階段に腰を掛けて周りを見た、俺以外の人間は皆忙しそうに動いてる。
「ドアホウ……なにしとるんじゃ?」
っ!?
俺は振り向てい師匠のお腹にアタックする、頭の上に大きな重力が加わって世界一幸せな気分を満喫する。
「っ!? いって痛い痛い痛い痛い、背中に杖をぐりぐりしないでっ」
「良いから離さんかっなのじゃ!」
お腹から手を放して前を見るとちゃんと師匠だ。
「これでワラワじゃなかったらドアホウ、独房いきじゃなからな?」
「その時は釈放金お願いします」
「ふん。で……何をしていたんじゃ?」
「何も。しいて言えば人間観察?」
「…………根暗じゃの」
そこまで言う事なくない?
そりゃ根暗だけどさ……。
「それよりも客って俺の父であれば教えてくれれば」
「なに、ドアホウみたいな視線を感じてじゃな、振り向いたらおったのじゃ」
さようで。
俺の父であるサンドベルはクウガみたいに女好きだからな。
「師匠」
「なんじゃ?」
言うならこのタイミングしない。
「武術大会で優勝したら結婚してください」
決まった。
師匠は口を半開きで固まっている、そりゃそうだろう俺の一世一代の大告白だ。
こんな気持ちになるのはクロウベルとして生まれから初めてだし。
師匠は俺の両肩に手を置いた。
すごい綺麗なほほえみで、まるで勝利の女神。実際は魔女なんだけどさ。
「ライトニング」
「え? あばばばばばばばばばばばばばばばばば」
俺の体に電気が走る。それも両肩から!
すごい久しぶりに師匠から攻撃をされた気がする。
目の前がカチカチするし、師匠が手を離した後は周りの通行人も騒ぎ始める始末だ。
「ドアホウ! じゃぁなんじゃ? 武術大会ってのはその優勝間違いないのじゃ?」
「いや、どうでしょうね」
実際出ないとわからないし、俺よりも強い奴はいるだろう。
師匠に説明すると師匠は呆れ顔になり両耳が動いている。
「優勝出来なかったら結婚はしないって事でいいのじゃ? ドアホウはワラワとの結婚をそんなついでと?」
「俺が優勝しなかったら、まぁその時は次回に持ち越しって事で」
「軽い! のじゃ……ドアホウお前は……」
「いや、師匠そうは言いますけど! 試練ってしってますか? 人間は目標があると普段よりも力出て──」
だからこそ俺は師匠に告白を。
「ワラワはフラグって言葉を教えるのじゃ! 戦地で『この戦争が終わったら結婚するじゃ』って兵士がいたとしたらどうなると思ってるのじゃ!」
「…………死にますね」
師匠は両手で頭を抱えだした。
一世一代の告白は失敗に終わった予感がする。
「ドアホウそういう所じゃぞ……」
「いやいや……」
俺と師匠が言い合いしてると、見た事もない女性が俺達を見下ろしている。
いかにも強そうな雰囲気をだして腰には2本の双剣。
年齢は20後半だろうか? エメラルドグリーンの長い髪がさらさらと揺れている。
「えっと、俺と師匠のイチャイチャ邪魔しないでくれます?」
「君達。街中で攻撃魔法を使ってはダメって教わらなかったか? 冒険者ギルド帝国支部。罰金か投獄、好きなほうを選べ」
「…………じゃぁ投獄で」
軽い冗談だ。
エメラルドグリーンの女性。
《《双剣のエメルダ》》は指を鳴らすと俺の影から黒い紐が伸びて手足を縛った。
「驚かないのかい?」
「影縛り……シャドウハントだっけ。まぁ……それよりも、なんで俺だけ!? 魔法使ったのは隣の師匠なんですけど!?」
「なに、こういう時は男が悪いと決まってる。それに見た前、彼女ほうは罰金を払ってる」
師匠を見るといつの間にか来た男性に金貨を払ってる所だ。
「えっと、俺も! 俺も払う」
「いやいや、遠慮はしないでもらおう。最近は入る人も少なくてね。1名様ご案内」
「ちょ! 師匠たす、たすけっむぐ」
影が俺の口まで縛り上げると数人の男性が俺を担ぎだした。
丁寧に眼と耳まで影が伸びるともう真っ暗な世界に。




