第279話 クロウベル やりやがった!!!
どうしよう眠れない。
この流れはキス出来るやつ? と変な考えを打ち消したのだけど……非常に眠れない。
なんでこんなに眠れない。を脳内で叫ぶのかというと、元気なのだ。
何が元気? ってかナニである。
ずばり下半身が元気なの! クウガじゃあるまいし発情しないように日々努力してる。
なんだったら、師匠と再会する5年間のうち毎日特訓もした。
特訓した結果、俺の下半身は抑え込む事が出来るまでになったのだ。
…………にもかかわらず。今俺の下半身は元気になっていて眠れない。
俺の目の前にはたき火の光越しに師匠の頭が見えている所だ。
ちょっと炎を回避すれば師匠に触れる。
触ったら最後俺だって男だ、もう止まらないだろう。
師匠の体がごろんと寝返りを打つと俺と眼が合った。
「ひっ!」
俺は慌てて体を反対にする。
見てません。
師匠の眼が闇夜に光って見えたなんて見てません。
なんだか師匠の息遣いが荒いようなきがする。
「し、師匠具合が悪いんですか…………」
俺は下半身を見せないように腰を曲げたまま振り返る。
「ドアホウ、鍋に何を入れたのじゃ…………」
「はい? 鍋ってさっき食べたやつです?」
食べ後、焦げ付かないようにぐるぐると回していた鍋は今は壁際に置いてある。
明日の朝にまた具材を足しては食べる奴だ。
「師匠の言う通りマジックボックスの中身と、洞窟にあった左側の箱にある乾燥した食材ですけど」
「………………ワラワが指定したのは右側なのじゃ」
なるほど。
最悪の事を考える。
師匠の息が荒いって事は毒の可能性がある。
「毒と食料を近くに置かないでくださいよ。解毒剤は? ってか俺も食べたんですけど……」
「無いのじゃ」
って事は吐き出すしかない。
「ってか何の毒なんです、吐くには体を横にして……」
「ドアホウよ。立ち上がれないじゃろ……?」
「え、別に足腰は……あっ」
立ち上がろうと思えば立ち上がれるよ。
その場合俺の元気な下半身が師匠の前に出るだけで……って、それを知っている師匠って事は毒の種類は限られる。
「もしかして『マテリアの枝』ですか」
「ほう……さすがに、この世界の事をよう知ってるのじゃ」
「敵に使うと興奮状態にするやつですよね……」
戦闘用アイテムで、敵に使うと興奮する。
重ね掛けが可能アイテム、こんらんすると味方に攻撃したり衣服を脱いだりと様々だ。
《《問題は戦闘が終われば治る》》って仕様。
戦闘の境目ってどこ!? ってか今戦闘中って事でいいのか?
他の解決方法は俺は知らない。
「あの放置して寝る事にしません?」
「ワラワもそうしたいのじゃが、放置した結果脳まで毒が回り、頭が赤ん坊以下になった例も見た事があるのじゃ」
師匠の赤ん坊姿みたいな。
ばぶばぶいうのかな? ってか。
「師匠!」
「なんじゃ……?」
「この洞窟には俺と師匠しかいませんよね?」
「そうなのじゃ」
「2人とも頭が赤ん坊になったらやばくないです?」
明日の朝に赤ん坊状態になると、夜には多分俺も師匠も死んでる。
ってか、俺も息苦しい。
「翌日にはしんでるじゃろな……」
「ですよねってか師匠なんで服を脱ぐんですかね……」
「ドアホウこそ立って逃げればいいじゃろ」
俺だってそうしたいんだけど。
──
────
目が覚めると《《服を着た師匠が》》鍋をぐるぐると回していた。
「ええっと、おはようございます」
「ん。おはようなのじゃ。準備ができしだいにいくのじゃ」
「うい」
あまりにも自然な会話。
あまりに自然すぎて昨夜の事が夢だったような気もする。
「いやそっか」
「なんじゃ?」
「いや、師匠が俺を押し倒して来たのは夢だったんだなって」
「…………そうじゃな」
「ですよね。いやまさか師匠が、あんな可愛らしい声を、俺の左肩に師匠の歯形が──」
「ライトニングバースト」
目の前に杖が見えると、先端が光った。
防御する間もなく俺の体が吹き飛ぶ、壁に当たり体を見ると左半身が吹っ飛んでいた。
「うあ……あ……あうあ……」
その場でうずくまるとネッチャネッチャと音を立てて吹っ飛んだ半身が再生する。
自分の事ながらきもい。
「師匠!?」
「なんじゃ? おや左肩に何かついてるなど言っておったのじゃが綺麗じゃな」
「そりゃ師匠が吹き飛ばしたら再生するで!! ……………………え、夢じゃない?」
「悪夢と思って忘れるのじゃ、ワラワも忘れるのじゃ」
師匠は鍋をかき回している。
俺は立ち上がると洞窟の端にある箱へと移動する。
箱をあけると昨日まで沢山あった『マテリアの枝』の乾燥したやつがない!
「師匠!!」
「ちっ洞窟内で叫ぶなのじゃ。そこのアイテムなら今朝ほど全部燃やしたのじゃ。そもそも700年前の物じゃぞ! よくもまぁ効果が残っていたもんじゃ!! 食べた後さっさと行くなのじゃ! それともドアホウを残してワラワは先に帰ってもいいんじゃぞ」
「それは困りますん」
師匠の前にいって正座すると、両手を差し出した。
師匠は黙ってオタマにいれたスープを俺の差し出した手に直接流し込む。
「あっち! うあっち!! な、何するんですか!!」
「入れ物ぐらい用意しとけなのじゃ」
「それはそうなんですけど……昨夜はあんなに……」
師匠はリターンの杖を握りしめて、洞窟の外に向かって腕を伸ばしている。
「リ──」
「待って! 待ってって! マジで待って!!」
俺は必死に腰にしがみつく。
これであれば最悪俺も一緒に帰れる。
クウガの事はこの際諦めてもらって俺は師匠と離れたくない。
「ちっ」
舌打ちしたよ。
これ本気の舌打ちだ。
「あれは事故じゃ事故、幸いドアホウとワラワ以外知ってるものはいないのじゃ、蒸し返すな」
「うい……あっ最後にいいでしょうか?」
「…………なんじゃ」
冷静に考えると思う所が一つある。
「あれって俺以外の異性や女性だった場合どうしたんです? 純粋な解決方法として」
「………………ようは発散すればいい話なだけじゃ、仮に1人でかかった時はそう対処するように覚えておくのじゃ」
「わかりました」
茶化さなくて本気で魔法の質問をすれば師匠はこうして答えてくれる。
つまりだ、昨夜は別の対処方法があったのだ。
いつも見たいに1人で頑張る。という対処方法。
でも師匠はそれをしなかったって事は、それってそういう事なんじゃないだろうか。
そもそも師匠の事だったら俺がマテリアの枝を入れたのをわからないはずがな……いや、どうなんだろう。
「でもまぁ」
「なんじゃ?」
「もう少しムードってのがあっても」
「…………医療行為にムードも何もないじゃろな」
「医療!?」
「ドアホウこそ人工呼吸する時にムードを考えるのじゃ?」
「それは考えませんけど……あの、師匠顔が赤面しいいいい杖はまずい! 俺の再生の能力が未知数なのに1日に何度も再生できるかわからないですって!!」
俺のツッコミに師匠は杖をしまって、代わりに朝ご飯を俺にくれた。




