第276話 怒られたので重い腰を持ち上げる
イフの宿に来て《《30日目》》。
今日も温泉を堪能してると、1度フユーンの町に帰ったノラが部屋に戻ってきた。
帰ったり理由はスゴウベルの結婚祝いを届ける事。
俺と師匠の贈り物を届けてもらった。
師匠からは魔石を使った小型の杖。魔力が無い義手からでも出せるやつで隠し武器としても使えるやつだ。
俺からは1枚の紙を届けてもらった。
「クロー兄さん! スゴウベルさん怒っていたよ!? 教会が発行してる離婚届け書って何!?」
「え。絶対にいると思ったんだけどな……」
喜ぶ所がそんな怒る?
兄弟同士のちょっとしたジョークなのに。
「まったく、一応伝言預かってるから言うね『今度あったらお前の腹をこの新義手で切り裂いてやる!』と、の事でした。ボクはもう平謝りだよ『ノラには迷惑をかけるな』って頭まで下げてくれたんだよ?」
「じゃぁ帰らないほうがいいな」
ノラはもう……とため息をつくと他にも周りを見渡した。
「所でセリーヌさんと、ナイさんは?」
「あの竜コンビなら帰った」
「そうなの?」
ノラはスリッパに履き替えると手際よくテーブルの上を片付ける。
「俺と師匠も温泉ばっかりだからな。ナイのほうは古代遺跡の情報に手詰まり。となっていたが」
「が?」
ノラが話に食いついてきた。
「俺が東方の島国にある遺跡。ヤマタノ遺跡の事を話したら興味湧いてそっちに。ってもナイもセリーヌ無理をしていたらしく1ヶ月ほど休息。ナイは蜃気楼の城に、セリーヌは迷宮に休息するって」
「………………クロー兄さん東方の島国に行った事あるの?」
「ないよ」
ノラが急に黙ってしまった。
何も間違えた事はいってないはずだ。
「うん、クロー兄さんは変わらずで安心したよ。ってギルドにクロー兄さんへの手紙が来てたよ?」
「ギルド? ギルドって冒険者ギルド?」
「そう」
冒険者じゃない俺になんで手紙が。
イフの町の冒険者ギルドなんて入った事すらない。
ノラに受け渡された手紙を見ると、俺の名前だけが書いてある。
裏を見てみ差出人は不明だ。
「燃やしていい?」
「ダメでしょ」
「いや、でも開封したらかかる呪いとかあったら困るし……」
「じゃぁボクが代わりに開けるよ。ギルド経由だなラそういうのは無いはずだよ?」
かわいい妹分のノラが呪われたりしたら大変だ。
自分であけるよ。と、言ってから手紙を開けた。
「ええっと……何々『まだかな? アリシアより』」
俺が手紙を読み終わると、ノラも俺も無言だ。
一応裏にしてみたり、光にかざしたり、においを嗅いでみたり、魔力の水で浸したりしてもそれ以上は書いてない。
封筒に手紙を戻すとノラのほうへ突き出した。
「い、要らないからね!? 何か呪われそうだよ。ボクもアリシアさんと一緒にクエストしたからわかるけど、ものすごい──」
「怒ってるよな」
「ふう、さっぱりしたのじゃ……お、ノラよ帰ったのじゃ?」
温泉帰りの師匠が部屋に戻ってきた。
浴衣姿で近くに座るとテーブルにあったウチワを使っては体に風を出す。
「メル姉さん。風の魔法だそうか?」
「いや、ノラよ。この不便さがまたいいのじゃ。疲れたじゃろ少しはゆっくりとじゃな……なんじゃ? 何かあったのじゃ?」
俺は黙って手紙を渡すと師匠も手紙を読みえた。
師匠も空中にかざしたり、匂いを嗅いだり、ライトニングでちょっと電撃をかけてみたりして最後には俺と同じく手紙を戻してノラにつき返そうとし始める。
「要らないからね!? 本当そういう所2人ともそっくりだよ。前々から思っていたんだけど問題を先延ばししすぎだよ……ボクだって手伝いけど2人しか行けないって聞いてるし、もしかして飛空艇使えば行って帰ってこれたんじゃないの?」
「ノラさ」
「なにクロー兄さん」
正論過ぎて普通なら言葉が出ない。
「俺も師匠も危険な場所に行くんだ。もしかして死ぬかもしれないだろ? そんな場所にほいほいといけっていうの?」
「それは……でも2人ともすぐにはしな……」
「いやわからん! 豆腐の角に頭ぶつけただけでも死ぬんだぞ?」
「でも、クウガさんを助けないと……いやクロー兄さんの言う事を信じるよ。そんなに危険な場所なんだね」
「わかってくれた!?」
言ってみるもんだ。
ノラはため息ついた後に部屋を出ていこうとした。
まさか俺の代わりに1人で行くって言うんじゃないだろうな?
「ノラどこに行くんじゃ?」
師匠が声をかけてノラの動きが止まる。
「冒険者ギルド経由でアリシアさんに手紙を。クロー兄さんもメル姉さんも当分は無理そうです。そちらで何とかしてください。って。ボクだってクウガさんと2人を比べたくないけど、大事さを考えたら2人のほうが大事だから」
俺と師匠はノラの横に立つとそれぞれ両手を引っ張った。
「うわ!?」
「心配してくれたのは嬉しいし、いつかは行かないとと思っていたんだ。ねぇ師匠」
「そうじゃな。アリシアの説教はめん……いやアリシアに心配させるのも悪いしの今日の夜にでも…………明日の朝に出発するとしよう」
「明後日にしません? 明日の夕食はマグロパーティーらしいですよ」
この星の生態系や名前はどうなってるんだ? って思うがそう名前がついているんだからしょうがない。
マグロを冷凍魔法で固めた後、こちらで解凍。
そして職人が刺身にしたり焼いたりするのだ。
さすがにイフの町は山岳部のエリアなので、そんな料理代は馬鹿みたいに高いが、食べる前から美味しいとわかる奴。
「クロー兄さん?」
「じょ、冗談だって。明日の朝行きましょう師匠」
「そうじゃな……」
ノラを説得し、何とか事なきを得る。
これが最後の夕食になるだろう……って事でじっくり味わい後は締めの温泉だ。
先に師匠が部屋から出ていくとノラが残る。
そのノラが俺のほうを向いてきたので思わず「なに?」と聞き返した。
「何って……色々言いたい事はあるんだけど。メル姉さんとどこまで進んだの?」
「東は帝国領土。南はレイアランド。その手前のストームの町までは進んだよ」
「そうじゃなくて関係。ちゃんと肉体関係はもった?」
「女の子がそんな事いうんじゃありません!」
まったくハレンチな。
「1人の女性として言わせてもらうと……事実関係は早く持ったほういいよ、クロー兄さんは愛人でも別にいいんでしょ?」
「う……」
さすがは正史ではクウガとさっさと関係をもったノラだ。
現実をよく見てる。
「なんじゃ? ノラ温泉いかないのじゃ?」
「っと、じゃクロー兄さんメル姉さんと温泉いってくるね」
「お、おう」
ノラと師匠を見送ってめっちゃ落ち込む。
そんな事言ったってさー。
まずはキスから入りたいじゃん。
じゃぁどうやってキスするの? ってなるともっと甘い空間を。
そもそも俺も師匠も殺伐してるからな。
にしても、ノラがそんなに俺と師匠の事を考えてくれてるは……ノラも彼氏いないだろうに、優しいやつだ。




