第270話 車ないなった……
皇女サンを捕まえて優雅に空の旅を楽しむ事2日目。
予定ではもう砂漠の町スータンへ着く。
なんて早いんだ。
馬車や船を乗り継いで数ヶ月。
車でも半月程度。
で、飛空艇では数日だ。
こんな早く素晴らしい乗り物なのに、俺の横では机で書き物をしているサンが頭を何度も書いている。
「何してるの?」
サンが俺を見上げ、ちょっと寝不足の顔でにらみつけてきた。
「魔石自動車試作機の修理案ですわ!」
「ああ。サンが壊したやつ」
「貴方が! 森の中に突進させ、爆破した奴です!!」
めっちゃ怒ってる。
「過程は置いておいて結果壊れてるんだから、それを治すだけじゃないの?」
「簡単に治せたら徹夜なんてしませんわ! ぶつかった衝撃でメインとなる魔石に変質が現れて、それだけなら実験の結果で出たのと同じなんですが、問題は性質が真逆になっているようなです。そこに魔石で作ったフレームと、ゴーレム職人の手を借りて作った服従の刻印。その刻印にも変化が。これはかの有名な魔族バエルの手記による、歴史の揺さぶりと反動説になりますの、性質としては──」
なりますの。と言われても早口で俺の専門外の言葉が並んでいく。
「つまりは、治らない?」
「ええ……」
そんな! まだ100キロも走ってないのに。
普通だったら買取価格だって凄い高いだろうに、スクラップになったとたんにゴミと同じの価値にしかならない。
「いや! でもサンとメーリスなら新しく作れるよね」
「………………作れませんわ」
「なんと!?」
「材料もそうですけど、試作機には偶然出来た部品も多いのです。ですから王国側にも『決して壊さないように壊れても修理は出来ないと思われます』と伝えましたし。崖から落ちた程度では壊れないようにしたのですけれど! 無人になった時に安全回路もきれました。これは誰かに技術を盗まれないために作った装置なので──」
なおもサンが俺に説明してくれる。
うん、長い……。
「サン!」
「なんですの?」
「事実は受け止め。俺も一緒に謝るからさ」
「なんで私が謝るんですの!?」
「だって、サンが主砲撃たなかったら俺だって逃げないし」
「そ、それは」
廃車にしたのは俺の行動だが、その原因はサンだ。
「時代が早すぎたんだよ。その歴史の修正だっけ……デーメーデールの後継機もできないんだろ?」
「誰から、その話を」
「俺の感」
デーメーデールやコメットⅡ改は何度も改良や改造されても2号機が一切出来ない。逆に2台目が出来ると1台が壊れたりする。
俺が頭下げてまでもらった『コメット』などはそれに値する。
「と、いうかですね。それもそうなんですけど。貴方がかかると全部壊れていく気もするんですけど」
それは俺も思ってる。
しかしだ。
それを認めると俺が悪の現況と認める事になるから全力で否定する。
「そんなことは無い! 無い! 無いったら無い!! で……思い出したんだけどナイ知らない?」
「貴方の脳ミソ本当にどうなってますの!? 突然ナイさんの話を、竜人の人ですわね」
「クウガの治療のために探してる」
「昨日少しその話をしてましたわね」
乗り込むときにも話しているし、夕食の時に詳しくその話もしている。
なんだったら詳しく話した時に、ロープを付けられて船から落とされ4時間ほど宙ぶらりんの刑を受けたばっかりだ。
「残念ながら」
「まぁこれから占い師に占ってもらうんだけど」
「でしたら、貴方をスータンに《《落として》》私達は聖都に戻りますわ。自動運転馬車のお詫びをしなければなりませんし」
落として? いや降ろしての間違いだよな。
「ええっと……サン──」
俺が聞き返そうと思った瞬間甘い匂いが漂ってきた。
振り向くと兵士の1人がケーキとお茶を持って来た所だ。
徹夜をしていたサンや俺にデザートを持って来たのだ、さすがサンがコメットⅡ改に一緒に乗り込ませる兵士だ。
そもそも嫁入り前の皇族が数人とはいえ兵士数名と外に出るって事が普通ならおかしいもんな。
そういう常識を全部すててるからこそ俺はサンを友人として好きなんだけど。
「頂きますわ。そうですわね……では。貴方たち」
サンが短く命令すると周りの兵士は俺を縛り上げた。
はい?
「あれ。昨日俺が縛られたのと同じなんだけど? ねぇ俺今日は何もしてないよ?」
「ええ、わかってますわ。今日は……ですわよね、昨日あなたを船から落とした時にさほどダメージを受けてない事を確認しましたの」
兵士達3人は俺を『コメットⅡ改』の中央に置いた後に黙って敬礼をして去っていく。
俺のその後ろについていこうとするとサンが呼び止めた。
「先に言いますけど、そこの中央の黒いタイルから離れると死にます」
「は?」
足元を見ると確かにここだけ色が黒い。
もう一度サンを見る。
「動くと死にます。いえ、貴方の事だから死なないとは思いますけど。打ちどころが悪いと一生使い物にならなくなりますわね」
「どこの!?」
いつの間にかサンの横に兵士が立っていて、サンに黄色いバナナを手渡した。
サンはバナナを向いて俺に見せつけるようにバナナの半分を手でつぶした。
「このように、この果物には深い意味はありませんわ。おやどうしました? 女性のように内股になってますけど」
「冗談だろ?」
「何の話でしょう? さて……スータンについて、イフまで送ってほしい。と言う話でしたけど。私達はすぐに聖都に戻り自動運転車の事を謝罪しに行きます。あとはご自分でなんとかしてください」
サンがそう言い切ると俺は突然に落下した。
そう床の一部が開いて足から落ちる。
「うおおおおおおおおお! だ、だましたなあああああああ」
どこかで「騙されるほうが悪いと思いますの」と聞こえた気がする。
結果からいうと動いたほうが安全だった。
床に穴が開くだけの簡単な罠で、俺がそこに足止めさせるためにサンは嘘をついたのだ。
単純で残酷な罠。
普通の人間であれば手足を拘束されて上空から落とされるだけで死ぬ。
普通の人間ならね。
俺のように魔法使いなら話は別だ。
「水槍! 水盾・連!!」
水槍で手の縄を斬る。次に足。
最後に足元に水盾を連打させて落下の衝撃を押し殺す。
水盾を十数回唱えた所で俺の体は砂地に落ちた。
少し先にはスータン名物のピラミットがみえている。
「着地……何も落とすことなくない? ちょっとクウガが老人になったって言っただけじゃん……やーいやーい。行き遅れ皇女ーぉぉお? うおおおおおおおおお!?」
絶対に聞こえるわけないのに『コメットⅡ改』が旋回して戻ってきた。
自慢の単砲が俺のほうに向いては魔力の弾を発射してくる。
俺直ぐ横に着弾しては大きな砂柱を立てて飛び去って行く。
「この距離で聞こえるわけが……いやまさか、ええっと地獄耳……」
俺が言うと『コメットⅡ改』がまた戻ってきた。
「冗談だろ!!」
驚く俺に胸元から『冗談ではないですけど』と、サンの声がした。
慌てて内ポケットに手を渡すと魔石レシーバーだ。
遠い人と会話ができるレシーバーで、敵国同士の若い男女が戦争中に使った。と言われる秘宝。を真似して作った物。
「魔石レシーバー!?」
魔石レシーバーからサンの不機嫌な声が響く『なんで試作機の名前を貴方が知っているんですの! 驚かせようと思っていれたのですが突然にわたくしの悪口を……』
全部聞かれてた。
「違う! サンは広大な心で聖母のようだって思って」
レシーバーからはなおも不機嫌な声『まぁ距離と魔力実験で……すので……もうそろそろ聞こえなくなると……思いますけど。丁度あなたの横に……魔物が居たので撃っただけで……すので』
壊れたラジオみたいになると最後は何も聞こえなくなった。
『コメットⅡ改』大きく旋回しては飛んでいく。
俺はそれが消えるまで一切無言で見送った。




