第269話 偽物と思われた男
アリシア達と別れてから俺は1人車を走らせる。
運転席には師匠はいなく、本当に1人だ。
ギアを切り替えてはアクセルを踏み込む。
帝都で買ったサングラスをかけて逆光に立ち向かう、逆行とはこの事に。
「ふっはっはっはっと、話し相手が居ないのは少し寂しい……びえん」
地球で流行った可愛らしい語尾を付けてはまだ走らせる。
このペースで行けば王国まで……聖都まで10日ほどで着くだろう。
「にしても、師匠もセリーヌもひどい。俺を置いて先にイフの温泉にいくんだもん……俺は車を運転したい、って言ったら後から来いのじゃって」
悩んだ末に俺は車を取った。
アリシアから『クロウ君、クウガ君復活のために急いでいるのよね?』って確認されたけど、車の便利性を唱えたら多少の遠回りは仕方がない。
突然に上空を大きな影が横切った。
小さい楕円形の物体で砲門が付いた飛行物体、なおかつ魔物ではない。と言う事で『コメットⅡ改』だ。
街道の途中でブレーキを踏んで運転席から腕と顔をだす。
俺の事をモニターで確認したのだろう、俺の周りを大きく3回ほど旋回した。
ここを通ったって事は聖都からの帰りだろう。
デーメーデール本体は並行世界に帰ったと思うが、分離した『コメットⅡ改』は無事と思っていた。
「これはいい所であった。王国まで引っ張ってもらうか」
上空にいるコメットⅡ改の砲門が俺のほうに向いた、先端から青い光が見えると、俺の車の横に光線が走り道に穴が開く。
「………………」
砲門の先端が再度青くなると魔力をためている。
「いやいやいや。俺を焼き殺す気!?」
急いで車のアクセルを踏むと一気に加速する。
バックミラーを見ると先ほどまで車のあった後方に大きな穴が開いた。
「まじかよ!?」
窓から顔を出して確認すると3回目の攻撃が来そうだ。
急ブレーキをかけてギアをバックに切り替える。
これでアクセルを踏んでも前に進むのではなく後ろに下がるのだ。
俺の感が当たったのか俺が進む先に大きな穴が開いた。
「いやいやいや」
冗談じゃない。
悪いけど俺、空の敵に攻撃する魔法無いんだけど。
水槍などあっても射程がある。
水竜のブレスもあるけどこれも射程が短い。
大きな魔法で言うとスコール。
うん。雨を降らすだけだ。
「つまりは!」
ギアを戻して加速からの蛇行しながらの一気に運転をする。
この先に大きな森がある。
木を隠すなら森の中。
アクセルを踏み込んで森へと突っ込むと、俺は運転席から即座に飛び降りた。
自動運転となった車は暫く森の中を走って行って木にぶつかって大きな衝撃とともに止まった。
俺はそのまま影にかくれると『コメットⅡ改』が森の入り口に着陸した。
出入口から見知った兵士が数人降りると周りを警戒しながら大破した車へと走っていく。
俺はそのすきに『コメットⅡ改』へと乗り込むと、モニターを凝視してるサンの後ろへ立ち声をかけた。
「あれ。やっぱりサンか」
「にゃあああああああああああああああああ!?」
サンらしくない悲鳴だ。
「え? 猫でもいた?」
「はぁはぁはぁ…………いましたわ。大きなドブゴブリンがっ!!!」
「どこに? 退治しようか?」
「貴方の事です! 貴方の!!! 偽物であれば、この私に指1つでも触れてみなさい。この『コメットⅡ改』に備わった自爆装置で一緒に死にますわ!!」
俺は試しに皇女サンに触ってみた。
自爆装置をちょっと見てみたいから。
「………………ウソですわよ」
「そうなの!? どんな威力なのか見たかったのに」
「本物のようですわね。色々と聞きたい事がありすぎて、まず兵士を戻します」
サンが操縦席でボタンを押すと外の兵士が戻ってくる。
俺の顔を見ては剣を抜こうとしてサンに手で止められた。
「あの。なんでそんなに俺を殺そうと? もしかして影の塔爆破させて脱走した話もう知ってる?」
「はぁ!? いつの話ですの!?」
やば。違ったらしい。
「………………この話は聞かなったことにして」
「いいから言いなさい! 友人ではなく皇女として逮捕などは免除しますわ」
「じゃぁ3日ほど前」
俺の目の前でサンが屈伸するように腰を落として頭を押さえている。
「過去の文献にあった長距離移動の魔法や技術。いえそれにしても計算が合いませわ。3日目ぐらい前はまだ聖都にいたはずですし、偽物でも無いですし……」
俺は手を叩く。
「あー!」
「こ、今度はなんですの!?」
そうか。
やっと意味が分かった。
「もしかして俺が聖都から消え、しょうがなく帰る事になったけど突然車が走って来て、当然聖都にいた兵士が乗っていると思ったところ、消えたはずの俺が乗っていて偽物。と思って攻撃した。で……コメットⅡ改に乗り込まれてはったりで脅したけど、俺と分かった後に今度は消える前に帝都で騒動起こした事を知って大混乱してる?」
「当たりですわね」
とりあえず俺が言える事はだ。
「あまり興奮すると……ウンチ漏れるぞ」
「漏れませんわ!!! だれのせいだと!! はぁはぁ……もういいですわ……で、なんで影の塔を。あそこは悪い魔法使いを幽閉した。と言われる場所で普通の魔法使いでは太刀打ちできない結界があるんですわよ」
師匠は普通の魔法使いじゃないしな。
「とりあえずクウガを老人にして、師匠が幽閉された」
「意味がわかりませんわね。え? クウガさんを老人と聞き間違いでしょうか?」
「いや、あってるけど。とりあえず壊れた車を回収してスータンにいって一泊したあとイフに送ってくれない? 移動タクシーってわけで」
「移動たく……しー?」
ああ。タクシーって言葉がないか。
「言い間違い。移動馬車代わりで」
「…………この『コメットⅡ改』でですの?」
「そう」
「『コメット』を譲って墜落させた人にですの?」
「そう」
俺とサンしかいないんだ。
なんで何度も確認してくるんだ。
いや、俺だって断られたら下がるよ? でも車は直してほしい。勘違いで壊されたんだもん。
百歩譲って車の弁償はいいからこうして送ってほしいって頼んでいるのに、サンの顔は険しい。
「ほら……友人としてのお願い」
「弱い所をついてきますわね」
よし。
これで行きは楽できる。




