第265話 モンティ=ホール問題 ワイン編
部屋の中が日の光で明るくなってくると、部屋の扉が激しく叩かれた。
半分寝ていた俺は眠い目のまま扉を開ける。
目の前には誰もいな……あっいた。
目線を下げるとセリーヌが鼻息荒く興奮しあ感じで俺を見ている。
「…………竜の発情期?」
「乙女に失礼よ? どう!? 飲んだかしら。飲んだのであれば変わってないようにみえるし」
「…………もしかして昨夜の薬か?」
「それ以外にあるのかしら? クロウお兄ちゃんが。クロウお爺さんになっていたら面白いと思って朝一番で確認しに来たのよ!?」
なんて野次馬。
「あのねぇ……それ以前に危なすぎて飲んでないわ!」
「ええ!! セリーヌがせっかく力を貸したのに……」
すごい落ち込みようだ。
これじゃ俺が悪いみたい、どうみても悪いのはセリーヌだからな……いや本当に俺は悪くない!
悪くないが……。
「ごめん」
とりあえず謝っておく。
年齢に問わず女性が悲しんでいる時は謝罪したほうがいい場合が多い。
「ドアホウはプライドがないのじゃ?」
廊下から師匠の声が聞こえてきた。
欠伸をしながら俺とセリーヌを見ては「おはようなのじゃ」と挨拶もつけてくる。
「あっ師匠おはようございます」
「メルママ。セリーヌは悪くないわ」
「よくわからんがセリーヌがまたおかしな事を言ったんじゃろ、ドアホウよ気にするな」
「うい」
俺が返事するとセリーヌは小さい口をすぼめ少し不機嫌になる。
「もう、メルママったらクロウお兄ちゃんに甘いんだから」
セリーヌが文句をいうと教会のシスターが小走りに走ってくる。
朝食の準備が出来たので持ってきた。というのだ。
別に食堂でもよかったのに。
シスターから「お食事はどこの部屋に運びますか?」と、聞かれたので師匠の部屋を指定すると、突然師匠が俺の足を踏んできた。
「いっ!?」
「その、セリーヌかドアホウの部屋で頼むのじゃ」
シスターが礼をして小走りに消えていく。
「まさかと思いますけど……師匠の部屋って」
「ちょっと散らかっただけじゃ」
「ちょっとか……」
「部屋を出るまでには片付けて置くのじゃ、セリーヌ少し手伝ってほしいのじゃが」
「メルママも掃除ちゃんとしないと立派なレディになれないわよ?」
どうせ足の踏み場も無いぐらいになってるのだろう。
ってか荷物もないのになぜにそうなる。
各自朝の身支度をして俺の部屋に集まった。
教会の食事と言ってもパンと野菜スープだけという質素なもの。
ホテルじゃないんだし当たり前か。
食事を取ってると自然に話題は昨夜の事に。
別に秘密にしてるわけじゃないが少し恥ずかしい、セリーヌが得意げに話し出す。
「────と、言うわけなのよ。クロウお兄ちゃんは誰かのために不老になりたいらしいの」
「ドアホウよ。いうて長寿と言うのは思っている以上にいい事が無いのじゃ、不幸の連続じゃよ」
師匠が諭すように俺に忠告をしてくる。
「じゃぁ、その不幸の半分を俺が背負いますよ」
「なっ…………のじゃ」
あれ。
師匠がちょっと横を向いて俺から顔が見えなくなった。
「メルママったらお顔が赤いわ」
「ぬかせ! スープが熱かっただけじゃ!」
俺はちょっとだけイタズラ心が湧く。
セリーヌからもらった老化の薬をちょっとだけコップに混ぜてセリーヌの前に置いた。
「セリーヌ喉渇いてないか? パンと一緒にコップのワインも飲むといいぞ」
「そうなの? 優しいのねクロウお兄ちゃん」
うっ! ちょっとだけ罪悪感が戻る。
セリーヌがパンをちぎって口に入れ、ワインを飲もうと……。
「あっやっぱりセリーヌ待て!」
俺の静止も聞かずにセリーヌはワインを口に含んで飲み込んだ。
口元をハンカチで拭うと第3の眼がぎょろっと動いた。
「所で、老化の薬なんだけどセリーヌには効かないわよ」
「………………な、何の事かな」
「何の事からしらね」
セリーヌは俺を見ては小さく笑う。
俺がイタズラしたのをわかって飲んだのか……。
「ドアホウにセリーヌ何の話をしてるのじゃ?」
「セリーヌのコップになぜか老化の薬が入っていたみたいなの」
師匠が眉間にしわを寄せて俺を見る。
告げ口よくない!
「ドアホウ。まさかワラワに……」
「絶対しませんけど!? 師匠に飲ますなら俺が飲みますし!!」
「じゃぁどうぞ。クロウお兄ちゃん」
「へ?」
俺の目の前には3つのコップが置かれている。
「いつのまに!?」
「セリーヌにイタズラする悪い人間にはお仕置きよ? ここに3個のコップがあるわね、ワインは全部均等……この中に1個だけ老化の薬が入ったのがあるの。一つ選んで……」
「いや、断わ──」
「……飲め」
風もないのに部屋の中で突風が吹いたような感じになる。
魔力の風というのかセリーヌの第3の眼が大きくなり圧がすごい。
「セリーヌよ……」
「メルママは黙っていてね」
セリーヌに言われて師匠は黙ってため息をつく。
「そうじゃなくて一つはワラワのコップなんじゃけどな」
止めてくれるんじゃないのか。
「それぐらいは我慢してよ。軽いお遊びよ? さぁクロウお兄ちゃん1つを選ぶのか3つ全部飲むのか、時間制限ありよ」
「時間制限? 男だったら迷う事はない!」
俺は一つのコップを手に取って一気に飲んだ。
「ドアホウよ……」
「うわっ……迷いなくメルママの使っていたコップを選んだわ。飲み口もあれメルママが口につけた所よね……」
「っぷっはー…………偶然だよ? やだなーそれじゃ俺が師匠のコップを狙って選んだみたいじゃない」
実際そうなんだけど。
「あっ師匠コップ返します。もしくは俺のコップ使います?」
「アホか!!」
「何も怒る事も、結局これって本当に薬いれたの? 入れたふりだよね」
ふりで合ってくれ。
勢いで飲んだけど運よく66%を引いただけだ。
残ったのは今度は50%になるんだっけ、昔こんな問題見たような気がする。
「ええっとね──」
セリーヌが喋ろうとすると部屋の扉がノックもなしに開いた。
どうせシスターかアリシアだろう。と思っていると金髪の好青年が部屋の中を見て俺と目が合った。
「クロウさん! 帝都に戻っているなら声をかけてくださいよ」
「クウガか……」
「何ですか、その嫌そうな顔は……これでも走ってきたんですから。あっ美味しそうなワインですね、少しいいでしょうか」
返事もしてないのに、クウガの手がコップをつかみ一気に飲んだ。
「「「あっ」」」」
俺の声かもしれないし、セリーヌの声かもしれない。もしかしたら師匠の声だったかもしれない。
セリーヌは立ち上がると第3の眼から小さい魔石をクウガに投げつけた。
魔石は大きくなりクウガ全体を包み込むと棺桶のように床に転がった。
俺も師匠も無言だ。
だってクリスタルの中には金髪の老人が眠っているから。
「3人ともおはようー。私は食堂で朝食を済ませちゃったんだけど、クウガ君が突然来て……あれ? 3人とも黙ってどうしたの? 部屋の中に何かな? 魔石?」
アリシアの声がして驚いて振り向いた。
まずい!
まずいぞ!!
「アリシア。ええっとあの違うんだ!」
「何の話? あれ魔石の中に人…………え?」
アリシアの体が固まった。
師匠とセリーヌを黙ってみた後に俺を見て、ロックオンしてくる。
「ねぇクロウ君。この中に寝てるお爺さんクウガ君に似てるんだけど? なんでかな? ねぇ」
「………………偶然だよ。ねぇ師匠」
「なっワラワは何も関係ないぞ!? セリーヌとドアホウが」
「あらセリーヌも関係ないわ。元はクロウお兄ちゃんが悪いんだし」
アリシアはもう一度師匠とセリーヌを見た後に俺を見てくる。
真正面に立ち、両肩に手をのせてくるとまっすぐに俺の目を見てきた。
「ねぇ。正直に教えてくれる?」
「…………これがクウガです」




