第261話 大興奮する2人と、にやにやの幼女
酒場『竜の尻尾』その個室で料理と酒を飲みながらふと思う。
デートって2人きりで行くもので、子連れはデートじゃないよな。
世の中にはあるよ? そのシングルマザーの女性と子連れデート、俺がまだ地球にいた時にそういう事も聞いた事がある。
結婚を前提にしたデートで子供に好かれないと先行きが不安。
男はあの手この手で子供と仲良くしようとするのだ。
普通だったらね…………でも別に師匠の子でもないし、師匠よりも年上だ。
と、言う事は子連れデートじゃなくて、これ『姑つきデート?』
それを解消するにはセリーヌに物理的に消えてもらわないといけない。
「なにかしら? すごい邪念が飛んでくるわ」
「…………いや。さすがにセリーヌ1人で行動は怖いなって思って」
「まぁ! もしかしてセリーヌを子供扱いして『子連れデートはデートじゃないし、この場合セリーヌは子じゃなくて『おばあさん』だよな』って考えを改めて、どうにか排除しよう。排除すればメルママと甘い一時を過ごせる。と考えているのかしら?」
全部ばればれだ。
「うん」
「はっきり言ったわ!」
バレてるなら肯定したほうが早い。
「ドアホウ。その『個室』にワラワもいるんじゃが、最低な作戦が筒抜けじゃ、セリーヌ絶対に離れるでないのじゃ」
「実行する気もないですし。セリーヌ1人したら町の半分ぐらい食べて消えてそうですし」
「ひどいわ。セリーヌは我慢できるもの、美味しいものがあるのに人間なんて食べないわ」
つまりは美味しい物がなかったら食べるのだ。
こえーよ。
「早く迷宮もどって」
「2人の赤ん坊を見るまでは帰らないわ」
セリーヌは俺に親指を立ててくる。
つまりはセリーヌは俺と師匠が《《自然に子作り出来るように》》話しの誘導をしてくれたって事か。
「俺セリーヌの事勘違いしていた……セリーヌもこう言ってますし師匠うお!?」
師匠のほうへ振り向いた俺のおでこに激痛が走る。
師匠に刺されたフォークをすぐに抜いて『癒しの水』をかけて応急処置。
傷が無くなっても痛いものは痛い。
「馬鹿な事いってないで注文の追加なのじゃ。ドアホウ頼んで来いなのじゃ」
「うい」
個室なので追加の注文は俺が引き受けている。
扉をあけては女将さんに注文を頼むと、料理は次々に運ばれていく。
テーブルに乗りきらないほどの料理を主に師匠とセリーヌが食べては消化する。
「で。今後の予定なんですけど……何かあります?」
「家はどうにかしたいのじゃ」
「大工でも頼みますかね」
「ワラワの家には危険な魔道具もあるし、そう人に入られるのは嫌じゃの」
秘密の家だもんな。
大勢の職人が来たらそれはもう秘密ではない。
「わかったわ! 家を完成後にその職人を食べればいいのね」
「それはいい考えだ。どうでしょう師匠」
「本気で言ってるならドアホウの待遇を見直すなのじゃ」
「冗談ですって俺だって、それぐらいで人を消したくない」
昔の城。
もしかしたら帝国城など、作った職人を消す。等はあったかもしれないが師匠の家でそれはだめだろう。
「俺が乗っかったのはセリーヌにダメだぞ。って言うためです」
「そうなの!? 証拠を消すには一番早いのに、お城を建てる時はいいのに、普通の家ではなぜダメなのかしら?」
「………………なんでなんだろうな」
質問されると俺も困る。
そのまま師匠を見ると呆れた顔で俺を見てきた。
「ドアホウは馬鹿なのじゃ? ワラワが望んでないからに決まっておるのじゃ」
師匠は俺に「そんな事も分からないやつじゃったとは……」や「死んだ人間が呪ってきたら面倒じゃ」などぐちぐち俺に説教をしてくる。
俺の株がさがりっぱである。
「安心してクロウお兄ちゃん」
「何が?」
「メルママは色々言っているけどクロウお兄ちゃんの事好きだもん」
「ぶっ!! この、くされ竜! ななななにを! 根拠に!!! ………………なのじゃ!!」
「ほら師匠もそういってるじゃん。俺がいくら別世界で師匠Bを攻略したからってこっちの師匠Aが俺に出れるのはまだ先なんだよ………………」
うん。
場が静かになった。
すーっと息を吸う音が聞こえてる。
「ほうほうほうほうほう」
「し、師匠! 語尾がないっす」
マジキレちょっと手前である。
「ぬかせ! 別にこっちに戻ってこなくても良かったんじゃないのじゃ!? 向こうのワラワとピーチクパーチクやっとればよかったじゃろに!」
「師匠表現が古いっす。それと俺だって師匠Bとの別れを悩んだんですけど。こっちの師匠の顔がちらついて」
「はぁ? なんでワラワの顔なんぞ!! あれじゃろ? むこうのワラワを攻略したってもそのドアホウの妄想じゃろ?」
妄想なんてひどい。
いや、そう考えると俺の妄想だったのかもしれない。
「ねぇセリーヌも知りたいわ」
「妄想って言われるとそんな気もしてきた。まさか師匠が俺にべろちゅーをしてくると思わなかったし」
「はぁ!! ワラワがそんな事するわけないじゃろ!!」
「いや師匠Bの話であっ」
個室の扉が大きく開かれた。
顔を引くつかせた店主が俺や師匠、セリーヌを見ている。
「あっ追加の料理? ちょっと待って今立て込んで」
「別に良いが、その……個室っても魔防音とかないんでな。そこまで大きい声で話すと全部聞こえて」
店主の後ろからぴょこっと、聖女が顔をだす。
「あーやっぱり先生とクロウ君だ!」
「あれ。アリシア? 久しぶり」
「なんでこんな所にいるの!? え。久しぶりって……クロウ君聖都タルタンに帰ったんじゃ? それにかわいい子。先生の……じゃないだろうし」
あっそうか。
セリーヌとアリシアは初対面か。
「セリーヌよ。聖女様、メルママのお友達なの」
「かわいい……聖女って呼ばれてるけど全然そんな事ないからね。アリシアっていうのよろしく」
かわいいか?
一つ間違いは訂正しておきたい。
「外見はかわいくても中身は酷いぞ。簡単にいうと《《ナイの仲間》》だ。こう見えてナイとは別の意味で人間が大好物」
付き合いが長いアリシアならわかるだろう。
ナイも人の形をしているが中身は竜だ。さらに、俺は手で大きな口のを表すとパックンと閉じる、これでこのセリーヌの大好物の意味がわかるだろう。
「こんなかわいいのに。あっナイ君が可愛くないとかじゃなくて」
「さすがは聖女様ね! ナイお兄ちゃんの事も知ってるだなんて」
話を断ち切るように師匠が咳払いをする。
まぁ扉開いたままだし店主も早く何とかしてくれって顔だしな。
店主に帰って大丈夫だ。という合図をするとアリシアだけが個室に残される。
「アリシアよ1人なのじゃ?」
「はい。祈りの日も休みなので早めの夕食にしようかと思って……そしたら先生達の声が」
「ドアホウのおごりじゃこっち来て好きなものを食べるのじゃ」
「え、でも……いいの? クロウ君」
「いいよ? 逆になんで遠慮するのかわからないけど」
アリシアは「良いなら」と言って席に着く。
さすがに俺も師匠も先ほど興奮は収まった。
「クロウ君……」
「何?」
「何か変わった……? 三日ぐらい前に会ったばっかりなのに少し雰囲気がかわったというか、さっきも久しぶりって」
最後に会ったのは三日前になるのか。
俺の感覚では半年ぐらいぶりにあった。
「ドアホウよ。ついでにアリシアにも説明してやれ」
「何を?」
師匠は黙って杖を出す。
それは横暴だよ!? この世界監視カメラが無いからいいけど、こんなの事件だからね。脅迫だよ!?
一般庶民はこうやって強いやつの言いなりになる暴力の世界だよ!
「冗談ですって」
俺はアリシアに、ちょっとパラレルワールドに行って半年ぶりぐらいなのを伝えた。




