第255話 逆ナン
「どうして俺は不幸なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
猛吹雪の中、俺は四つん這いで叫ぶ。
逃げるために限定転移の門を発動させた俺は、極寒の地に飛んだ。
『マナ・ワールド』の中での最終ダンジョン前。
周りには俺を癒してくれる師匠もいなければ、俺の相手をしてくれる師匠もいない。何か言いたいかと言うと師匠がいない。
叫ぶだけ叫ぶと起き上がる。
顔は無事でも頭や衣服に雪が積もってくるからだ。
さいわい……俺の前には飛空艇『デーメーデール』が置いてある。
ってか不時着?
食料もマジックボックスにあるし、すぐすぐに死ぬ事はないだろう。
「叫ぶだけ叫んだし行くか……」
このままここにいては死ぬから。
出入口ようの扉を開けて『デーメーデール』の中に入る。
俺はいたって冷静だ。
「おそらくだけど、ここで俺が飛空艇を操作する事で帰れるんだろうな」
直感というかそんなきがする。
「問題は……師匠と会えない事か」
「挨拶ぐらいはするのじゃ」
俺は振り返りその胸に顔をうずめた。
うずめた。
うずめたああ!
「あれ。殴らないんですか?」
顔だけを上げて下から師匠を見ると目が合う。
本物だよな……これで師匠の偽物だったら衣服を破いて確認してみたい。
「アリシアの恩人じゃしな、階段から転んだと思って我慢しようなのじゃ」
俺は師匠の胸から顔を離す。
「ほう。もういいのじゃ?」
「こっちの師匠は知らないかもしれませんけど、ムードってのが……そう事務的にどうぞ。と言われても気分が落ちるんですけど」
「知るかなのじゃ………………お主もしかして男として不能なのじゃ?」
失敬な!
「全然元気ですけど!?」
「ふむ……ワラワの事を好きとかぬかしてる割に、変な所で逃げるから不能かと思ったのじゃ」
えぐい。
こっちの師匠も俺の傷口をぐいぐいえぐってくる。
別に逃げるってわけじゃないんだけどさ……その、まぁ……そういう時もある。
地球時代の思い出したくない記憶が少しだけよみがえる。
「で、どうしてここに? ムード盛り上げれば俺との一夜を!?」
「お主が帰るのに飛空艇の話しておったからの、昔来た事のある場所だったし見送りに来たのじゃ。なんじゃったら、この内部からお主が、普通に吹雪の中歩き突然四つん這いになって叫んだ所から見ておったのじゃ」
「やめて。恥ずかしいから」
完全に乗りツッコミが見られてる。
芸人としてこれほど恥ずかしい事は無い。
芸人じゃないけど。
「あの、ひと声かけてくれません?」
「ワラワだってまさかお主がワープしてくるとは思ってないのじゃ、なんじゃったらもっと日数かかると思っていたのじゃよ」
「すぐでしたからね」
俺と師匠は内部を歩きながら操縦室へと着いた。
懐かしい操縦室で薄暗いが明かりがついている。
壁のスイッチを押すと明かりは強くなり内部を大きく照らした。
が。
すぐに光は弱くなる。
「あれ?」
スイッチを連打するが、同じことの繰り返しだ。
「これが飛空艇なのじゃ……? 人間は面白いのじゃ。空さえも手に入れようと……次は惑星とかなんじゃろうな」
「惑星の前に飛ばないんですけど、師匠何かわかります?」
「ワラワを何じゃと思っているのじゃ」
「魔法おばば」
師匠が黙るので俺も黙る。
「お主、ワラワが言うのもなんじゃが、魔法おばばって事はじゃ。お主はワラワにアタックかけてるしババ専なのじゃ? もっとしわくちゃの奴探したほうがいいし、紹介したほうがいいのじゃ?」
「冗談ですって。そんな真顔で言わないでください」
「…………別世界のワラワじゃったらどう答えたと思うのじゃ?」
向こうの師匠か。
「『誰がババアじゃ!』って叫んで杖を出したでしょうね」
「さすがワラワじゃ。一瞬やろうとした事をするのじゃろう……さて。この船の動力源じゃなんじゃ?」
なんじゃ? と言われても魔石だろう。
なんて言ったって発明好きな皇女サンが生涯かけて作ったのだ間違いない。
「エンジンルーム行きましょう」
「場所は?」
「俺が知ってます」
操縦室から出てエンジン室へと向かう。
途中で『コメット』がない事に気づいた。
なるほど? 帰りは小型のほうで帰った。と言うところか。
であれば、これは何らかのトラブルで動かないし回収もなかなか用意じゃない。と言う事で。
2人でエンジン室へと入ると、素人目から見ても大問題ありなのがわかる。
魔石を組み込んだエンジンなはずなのに魔石部分が石炭のように真っ黒だ。
むき出しの部分を触ると、本当に石炭みたく崩れ落ちる。
「お主。触るななのじゃ」
「もう触った後ですけど……」
俺は両手を上げて、もう触らないアピールをすると師匠が黒い魔石を凝視する。
「この付近の魔力に充てられたのじゃ」
「というと? ここに黒き者がいたからです?」
「ほう、そこまで知っておったのじゃ……」
やべ。
口が滑った。
ゲーム情報でラスダンとか言っても意味不明な説明だしな。
「もちろん。向こうの師匠が教えてくれました」
「本当に弟子のようじゃな」
「今までなんと!?」
「ふっ」
師匠は鼻で笑うと魔石のかけらを握りつぶす。
「では。この黒くなった魔石を復活させる方法はなんじゃ? ほれ、教えてもらっているのかのう? ほれほれ」
「ぐぬぬぬぬ」
知らない。
「教えたってください!」
「どこの方言じゃ。さすがに向こうのワラワも教えておらんのじゃ。勝ったなのじゃ」
《《何に対して勝ったのか。》》
こっちの師匠も向こうの師匠も同じでは?
「新しい魔力を入れれば、後1回ぐらいは動くじゃろ」
「あ、そんな簡単でいいの?」
「簡単ってお主。ここにある黒くなった魔石を全部に魔力をいれるとなると――」
「数時間って所ですかね?」
「…………常人なら半年じゃ」
またまた。
俺は黒くなった魔石に手を当てて魔力を流し込む。
『魔法はイメージなのじゃ』
独学で覚えた魔法を修正するように師匠がいつも俺に教えてくれた言葉。
自分の中にある魔力を指先を通じて流し込むと石炭みたいな魔石が白いガラスのようになっていく。
「これは驚いたのじゃ」
「ど、どうも……暑い……」
「疲労は? 倒れそうな感じは? めまいなどは無いのじゃ?」
「暑いぐらいかな。全力で動いた後のようにですが、まぁまだ走れる感じで」
俺は2個目の魔石に手をかけた。
「ふむ…………お主。ここに残ってワラワの助手にならんかの?」
「ぶっ! ああああ! 魔石握りつぶしちゃった!! 師匠!?」
驚いて師匠を見るも師匠は本気の目だ。
「からかってる様子はない……ええっと?」
「なに。ワラワの仮説ではこの魔石にワラワとお主で魔力を込めれば動くじゃろ。あとは自動運転。さらにワラワが持ってる魔道具。それを使えばお主ぐらいは元の世界に戻れるはずじゃが…………」
「じゃが?」
いも。
って言ったら怒られるな。
「これだけの魔力を持ちつつ、英雄さえもしのぐ力。アリシアと好意的で……性格は大問題であるが素質のほうで目をつぶるのじゃ」
「それは、今後俺が師匠の恋人になっても?」
「…………まぁええじゃろ」
なんと。
これで彼氏いないエルフ女性の攻略は終わった。
俺はこれから師匠、いやメルギナスといちゃいちゃちゅっちゅし放題である。
し放題だよな……。
まぁ……うん。
俺は返事をしない代わりに3個目の魔石に魔力を詰めだす。
師匠もそれ以上何も言ってこなく、黒くなった魔石に魔力を込めてくれている。




