第253話 一番嬉しそうな朽ちてない元聖王
朽ちてない元聖王からテーブルに出された紅茶を飲む。
腐ってるか心配したが大丈夫なようだ。
「まぁ結果はわかった。おかけで『原始の種』を持って帰る事が出来たから、それに関しては例を言う」
「なに聖王は人のためにするのが生きがいだからね……おっともう死んでいたなはっはっはっは」
笑い所なのか?
「笑ってくれたまえ」
真顔で薦めてくる顔が怖いんだけど。
「はっはっは……これでいいか?」
「笑顔がぎこちないがいいとしよう」
注文が多いやつだ。
本来……こうやって会話してるけど、こいつ【魔物】だよ? 朽ちた元聖王と言うボスの代わりにいる『朽ちてない元聖王』というだけの個体。
「さて……茶も飲んだし帰る。その……魔物なんだろ? 俺は討伐する気はないけど、ほどほどにな」
「何。ワシだって、そう簡単に討伐されるつもりはない」
握手をして別れようと手を出したら、さっと手を引っ込められた。
「俺と握手したくないって事?」
「その前に君にぜひ見てもらいたい物があるんだ」
朽ちてない元聖王は俺に笑顔を見せる。
そういえばそんな事も言っていたな……。
「俺の手にはこの『原始の種』があるのに、これ以上の物なのか?」
「もちろんだ。いや見るだけでも見てほしい。この元聖王。君に見てもらえるなら土下座するよ! ほら」
いくら死んでるからとはいえ、いい年したおっさんが俺に土下座とか見ていてつらい。
「わかったっていうの! 見るから、本当に良いものなんだろうな」
「それはもう」
ついて来た前。と言うので後ろについていく。
以前みた秘宝が並んでいる部屋の前を通り過ぎて隣の部屋へと通された。
果物にもにた匂いが鼻を襲う。
10畳はありそうな部屋一面に膝下ぐらいの花が咲いている。
花は虹色に光っており、いうなれば『ゲーミング花』と言ったほうがいいか。
見せたい物ってこれ?
「ええっと、綺麗だな」
これはあれだろ。
ゲーミングPCを買った友達いない人間が誰かに自慢したいけど自慢する相手がいないから、普段仲良くもない人間を家に招いて自慢するやつだ。
俺とて空気は読んで朽ちてない元聖王を精一杯褒める。
だってその気持ちわかるもん。
七色に光るPCでも夜でもまぶしくてさ……布をかぶせると熱暴走になるから寝る時はアイマスクして寝るんだよ?
勝った時はそりゃ興奮したんだけどな。
「そうだろうそうだろう『原始の花』だ!」
「へぇ……原始の種みたいだな」
「おや、さえてるね当然な話だ。原始の種から咲いた花だよ」
「へぇそれは…………すご……は? え?」
適当に流そうと思ったら変な事言っていた気がする。
『原始の種』からでた花?
え? この部屋の花は軽く見ても100本以上はある。
七色に光っていてまぶしい。
しゃがんで1本の花を抜くと土から球根らしきものが出てきた、赤い半透明の宝石みたいのが魔力をまとった色をしている。
触ってみるとぷにぷにしていて……思わず俺が持っている『原始の種』を出してみるとそっくりだ。
「え、そっくりだよ?」
「それはそうだろう『原始の種』からの花なんだから」
「いや……ちょっと考えがまとまらない」
俺は原始の種を求めて原始スライムを探してた。
原始スライムは過去にこの辺にいた。という話だ。
俺は過去に無理やり飛ばされて原始スライムを退治して、別世界であるけど現代に戻る……。
「おや? 喜ばないのかい? 原始スライムから超レアドロップするアイテムで……その昔この辺にあった迷宮ボス。キング原始スライムが《《とある冒険者》》に討伐されてね。地上に這い出ようとした原始スライムは絶滅したのだよ」
聞いてもないのに説明しだす。
「そこで! これまたとある冒険者が跡地を探すと……『原始の種』が数十個。ワシはこれは面白いと、ひっそりと栽培していて。いやぁ大変だった……あっそうだ! 『原始の種』いるかい? 君になら特別に分けてあげてもいい」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺はアンジュの剣を出しては朽ちてない元聖王に斬りかかる。
朽ちてない元聖王は、ひらりひらりと回避すると死んでいるくせに動きが軽い。
「はっはっはっは。そんなに怒ることないじゃないか!」
「ふざけ! 最初から『原始の種』をだなああああ!!」
「はっはっはっは。君は言っていたじゃないか『原始スライム』の場所を知りたいって」
朽ちてない元聖王が壁際に追い詰めらて尻もちをつく。
俺もあと一歩前に剣をだし、振り下ろせば斬れるだろう…………だが……俺も斬るつもりじゃないし、朽ちてない元聖王も顔がまだ笑っている。
上着の内側に手を入れている事から何か『秘宝』を使う準備かもしれない。
「はぁ…………確かに」
俺は剣をマジックボックスにしまうと膝を抑えて少しうつむく。
確かに『原始の種』をドロップする敵の場所を聞いたような気がする。
「もしかして『原始の種』を最初から欲しいって言えばくれたのか?」
「それを言わせないのが、ワシの話術だよ……ウソは言ってないだろ? 《《ちゃんと君が欲しかったアイテムを過去から戻ってきたら見せた》》。うんうん、その顔だその顔。いやぁこれであと300年は思い出し笑いが出来そうだ」
「もういいよ、これ以上ここにいたら本気で斬りそうだ」
「はっはっはっは、まぁそんな君にこれをあげよう」
聖王は上着の内側から四角い箱を出した。
「びっくり箱?」
「惜しい! 組み立て式の《《転移の門》》だ」
「なん!?」
箱を開けてみると4つにバラバラになった額縁が入っている。
「座標は北の洞窟……あの子達は魔族の家とも言っていたなぁ。なつかしや……そこに用があるんだろ?」
「あるって言えばあるかも。飛空艇がそこに……え、マジでくれるの?」
本気で斬り殺さなくてよかった。
死闘の末にやっと勝ってもこんな便利アイテムくれるわけないだろうし。
「ってか、どこまで知ってる?」
「これでも元聖王だよ?」
まったくもって答えになってない答えだ。
「とにかくどうも」
「あー一つ言い忘れていたが」
「もしかして、この組み立て式転移の門を使うと服が破けるとか?」
「いいや」
「じゃぁ転移の門をくぐったら性別が反対になる。とか?」
「それは面白い……参考にしよう。じゃなくて君はワシを何だと」
何だと? と言われるとだ。
「絶対に死なない。ってか死んでるか……中々倒せそうにない魔物」
「………………あってはいるな。そうじゃなくて耐久に問題があり1回しか使えない」
「ああ、それぐらいなら。じゃぁもう会いたくないし、じゃあな」
湿っぽい別れはしたくない。
貰う物もらったしさっさとおさらばする。
――
――――
「ただいま戻りました師匠!」
聖都タルタンの噴水前。
待ち合わせ場所にいた師匠とアリシアに声をかけると、師匠は思いっきり嫌な顔をして首だけを動かす。
「空耳じゃな。さてアリシアあやつは来なかった帰るのじゃ」
「先生あの……目の間にいますよ?」
「気のせいじゃ気のせいな……ぬおおおお!」
俺はしゃがみこみ、師匠の尻を両手でもんだ。
「帰りました師匠」
「尻に話しかけるな尻に!!」
「いやだって俺の事無視するし……」
「関わりたくなかっただけじゃ。待ち合わせの時間に戻ってくるとはなのじゃ……」
「あれ、クロウベル君何か嬉しそうな顔だね」
「あっわかる?」
さすがアリシアだ。
別世界でもなんて気が利くんでしょう。
「ほう。この世界から消える方法でも見つけたのじゃ?」
「まぁそれは……」
飛空艇に行って調べるだけだし。
でも言い方ってのがあるじゃないの。
「帰ってから話しましょう」
「…………もしかしてお主、ついてくる気じゃ?」
「そのつもりですけど!?」
「あははははは。先生もクロウ君も面白いね」
アリシアが少し涙を出しながら笑っている。
俺が照れると、師匠が腕を組んで「むぅ」と唸った。




