第248話 反省文を回避しろ!
狭い部屋の一室で俺は反省文を書かされようとしてる。
どうやら奇声を上げながら剣を振り回している男とは俺の事だったらしく、アーカスとステリアに冒険者ギルドに連れてごつい男に捕まった。
そのごつい男はさらに数人の人間を引き連れて俺を小さい部屋に押し込める。
椅子に強制的に座らせられると謝罪文を書け。と、言う事に。
「ほれ、英雄の知り合いといえど……このご時世に湖の周りをな……申しませんと書け。他の冒険者から苦情が5件、釣り人からの苦情が3件、子供が真似するからやめさせてと市民からの苦情が2件、真似して衣服を溶かされた10代女性の保護が1件だ」
全部自己責任じゃねえか。
最後に関してはなぜ年齢をいう必要があるのか俺はわからない。
一番偉そうな男が俺に早くかけ。と、せかしている。
嫌なんだけど。書くの。
さてと………………ごねるか。
俺とて、はい申し訳ありません。と素直に言いたくない。
だって悪い事してないし。
「町の規律は!」
「あん?」
「外で魔物を狩ってはいけないってルールは!?」
「そんなものはない!」
男が断言する。
じゃぁ書かなくてよくない? いや別に書いてもいいんだよ? でもこの証文が未来永劫出てこない。とはいえない。
「じゃぁ書かない!」
「…………クロウベル君」
「クロウベル君。書くんだ」
俺の両隣にいる英雄達が俺にお願いしてくる。
俺が書かない事でこの2人に迷惑はかけたくないが。
「口約束でいい? 証拠残したくないし」
「…………英雄の知り合いとはいえ、仕方がない罰金を払えばいいだろう」
「あっ本当?」
言ってみるもんだ。
だったら、罰金も値切ってみる。
「罰金もいらなくない? 俺は魔物を倒したんだよ? 水辺にいる原始のスライムって弱いし逃げるし数は多いし、一般の人が洗濯などに。いや子供が落ちたら溶けるよあれ、それを俺は必至に倒したのに罰金と反省文っておかしくない? 釣り人だって魔物対策が減ったわけだし今日だけ目をつぶれば感謝間違いなし!」
「…………ギルドとしても対策は」
「甘い!」
俺は席から立ちあがった。
偉そうなおっさんは一歩下がる。
「あの湖畔は誰でもはいれる。現に散歩コースの一つ。さらに水辺から原始スライムに混ざって魔族が入ってくる可能性もある。そこをキレイにしたら魔族だって入りにくいでしょ」
「なるほど……?」
俺の横で「よく口が回るな」とステリアが小さく喋ったのが聞こえた。
罰金があるとないとじゃ全然違う。
そもそも冤罪だ冤罪。
「見た所、あんたがギルドマスターだろ?」
「そうだが? 不満か?」
「規則を守るために俺に始末書を書かせるのが本当に正義かな?」
ステリアが小さい声で「規則は守るためにある」というと、反対側から「特例もいるよね」とアーカスの声が聞こえる。
ギルドマスターにも聞こえたのだろう、腕を組んで目を閉じたかと思うと、目を開けて俺を見た。
「君の名前は?」
「クロウベルだ、あんたは?」
「名前を伝えてなかったな冒険者ギルド聖都支部ギルドマスター『アスラン』だ」
恋人が寝取られそうな名前だ。
いや、俺も詳しく見てないから噂話でしか聞いた事がないけどさ。
「わかった罰金もいらない! 俺と勝負しろ」
「やだよ!? 突然すぎるでしょ。俺は湖畔の《《安全を守り》》魔物を討伐していただけなの!」
アーカスが「うわ。事実ねじ曲がってきた……クロウベル君アイテム狙っていたよね?」と喋っているが、今は黙っていて。
いや、黙らせる。
「アーカスさんさ。確かに俺はアイテムを探していたけど、それは副産物。本当は町の安全が大事なの!」
「だから俺と勝負だ。俺はこう見えてもギルドマスターだ、手を合わせればその人物が良いか悪いかぐらいは判断できる。反省文もかかない罰金も払わない、ギルド批判をするんだ。それぐらいはやってもらうぞ」
このくそ脳筋め。
「万が一死んでも文句言わない?」
「ほう……すごい自身だな。かまわない俺が死んだら次のギルドマスターは決まってる。それよりも俺に殺されないと思っているのか?」
「俺を殺すつもりだったら試合は絶対にしないけど!?」
「ふむ」
当たり前だ。
練習試合で死にたくないし死なせたくもない。
例えば剣道。
あれだって人が簡単に死ぬからあんながちがちの防具に細かいルールがあるんだよ?
冒険者ギルドの練習試合なんてルールほとんどないんだもん。
身内でやるならともかく、《《他人とは》》俺はしたくない。
他人とは……ああ、そうか!
「ギルドマスターアスランさ」
「なんだ、今頃反省文に変えるのか? 往生際が悪いな。罰金も倍でなら許そう」
俺を挑発してるつもりだろうが、挑発が弱い。
このギルドマスターも脳筋とおもったがさすがはギルドマスターというところか。
駆け引きで罰金を増やしてくるのだ。
「往生際は悪いよ。それで命が助かるなら一番いい。で……提案なんだけど、俺の代理でアーカスと戦ったら?」
「えええ!? 私!?」
「いやほら、アーカスは俺とも練習試合した事もあるし」
俺は一歩引いてアーカスを前にだす。
アーカスは驚いているが、ギルドマスターのアスランは顔を喜ばせる。
「それもいいな。あちこちの町で英雄といわれるアーカス。その実力は俺も知りたい。よし! アーカスよ胸を貸せ…………腕を借りたい」
「うああああああ!? ギルドマスター!? なんで今言い直したんです!? 私の胸がないからですか!? そりゃあのメルさんみたいには無いですけど、ステリアはこれでも――」
「っぶ! アーカス!?」
「あっご、ごめっ」
ステリアが噴き出すと、小さい部屋の中で2人以外がにやにやしだす。
若いっていいね若いって。
「絶対にギルドマスターに勝つんだから!!」
「おう! 勝ってみろ!」
ギルドマスターのアスランが小部屋を出ていくとほかの職員も出ていった。
残ったのは俺とアーカスとステリアの3人だ。
「あれ? ステリア……なんで私がギルドマスターと戦う事になったのかな?」
ステリアは黙って俺を指さす。
「おいおいおい、俺を黒幕みたいに」
「それ以外ないだろう……」
「むーー」




