第243話 魔女の家に集まる魔女の弟子たち
師匠の尻にしがみ付いて殴られたので腰に手を回す。
マジックボックスから何か出した師匠はそれを空中に投げると俺と師匠が一瞬でワープした。
耳鳴りがしたと思うと周りの風景も一瞬で切り替わる。
「リターン……?」
「ほう。よくわかったのじゃ、リターンは素質が無い者は使えないのじゃが、こうして劣化であるが代用アイテムはあるのじゃ」
「ずるい!! 俺そんなアイテム知らない!!」
「ワラワに言われてもな」
改めて周りを見ると森。
そして1件の小屋に見た事のある小さい庭。
「この先に精霊の湖ってあります?」
「あるのじゃ」
「どうも」
と、言う事は師匠が忘れていた小屋のほうか。
一気にとんだな。
「ええっと……色々聞きたいんですけどおおおお!?」
師匠はさっさと小屋に入るとガチャと鍵を閉めた。
んな殺生な。
やっと再会? 出来たのにいきなり締め出す事もないじゃん。
それも助けてくれたのに、はい勝手にしてね。ってのは意味不明過ぎる。
「開けて! 開けて!! あーけーてー!!!」
扉を必死で叩くと、内側の鍵が外れる音。
少しだけ開くと師匠の顔が見えた。
「いきなりケツを触ってくる奴を歓迎すると思うのじゃ?」
「《《むこう》》の師匠は喜んで触らせてくれましたよ」
「なぜワラワがお主の素性を知ってると?」
簡単な話なんだけど、知らないと多分助けない。
俺の事を知ってる感じだったけど、向こうの師匠と違って初対面みたいな探る顔をしていたから。
「とにかく、もう《《尻》》は触りませんから!」
「…………触られても困るのじゃ」
優しい師匠は忘れた家へと入れてくれる。
言質とった。
今度は胸や腰、太ももや腋にしよう。
「あれ」
「なんじゃ?」
普通の小屋だ。
小奇麗な普通な感じで違和感が凄い。
「ええっと……まず、師匠」
「その呼び方を次にしたら殺すのじゃ、メルでいい。初対面でケツを揉むような奴が弟子とか普通だったら命を絶つのになのじゃ」
「うい」
何もそこまで言わなくても。
と、なると向こうの師匠の方が優しいのかもしれない。
あれで?
いや、優しいか。
俺の無意識のセクハラと故意のセクハラも対応してくれるし。
「じゃぁ師匠。話戻しますけど」
「お前話聞いてたのじゃ!?」
もちろん聞いてた。
「俺にも拒否権ってありますし、死刑は拒否しますね」
「あってたまるかっ!!」
「まぁまぁ本題いきますよ。まず、部屋が綺麗すぎる。俺の知ってる師匠は掃除が出来なく下着は放り出すし、食べた食器は洗わないし、汚れたら捨てればいいって新しい物を買っては古いのはポイする人だから」
こっちの師匠が黙ってしまった。
「うぐ…………本当に一緒に暮らした事あるみたいじゃな」
「ええまぁ師匠の愛のハンターですし……それより! この世界に呼んだ理由を知りたい、後帰る方法。こっちの師匠を攻略しても良いんですけど、向こうの師匠も待ってますので」
「本当に待ってると思ってるのじゃ?」
中々ドきつい事を言う。
まぁ、たぶんまってるんじゃないかな……あっでも俺が1年失踪した時は墓があったっけ。
過去に行って帰って来た時も別に喜んではいなかったような。
「待ってると思うから……」
「泣きそうな顔になるな! たっく、いい年こいてなのじゃ」
「師匠と同じでいい年なんで」
師匠が俺に杖先を向けて来た。
先端からは魔力を飛ばせるアレだ。
「ノーノーノーノー! 平和的に」
「この道具も知ってるのじゃ……まったく。お主の疑問に全部は答える事が出来ないのじゃ」
師匠がそういうと近くの席に座った。
合図かのように反対奥の扉が開くとフードをかぶった女性が部屋に入って来る。
この家は出入り口が2つありそれぞれ一気にワープする事が出来る。向こうは聖都側だったかなたしか。
「初めまして、クロウ君? ううん、お久しぶりかな?」
水色の髪で身長は俺や師匠よりも低い。
それよりも俺の事を『クロウ君』と呼ぶのは今の所1人しかいない。
フードを取った髪は水色で俺が知ってる姿よりも少し髪が長い。
「アリシアか……?」
「うん。元聖女アリシアここに登場! ってね」
俺の知ってるテンションでアリシアは話しかけてくる。
「え? うえ……もしかしてアリシアもこっちの世界に?」
「ううん。私はオリジナルだよ、この世界で生まれこの世界で旅をしてこの世界でクロウ君に襲われたアリシア」
「ええっと、何かごめん」
「いいえ」
普段のアリシアが笑顔をみせてくれる。
ますます混乱してきた。
「まずはおちつこ」
「そう……だな。うん」
アリシアの言う通りだ。
師匠のそばに入って深呼吸をする。
「師匠成分を吸って気分が少しだけ落ち着いた」
「ワラワは気分が悪くなった。アリシア回復してくれなのじゃ」
「ふふ」
俺が椅子に座ると、師匠も椅子に座った。
どこかから帰って来たアリシアがフードを脱いで俺と師匠にお茶をだす。
なるほど、この家が綺麗なのはアリシアが片付けをしていたからか。
「俺の自己紹介いる?」
「別の世界のクロウ君だよ、わかるよ」
「そうなんだけど……アリシア、俺に襲われてるんだよね? いやに普通というか」
「こっちのクロウ君はクウガ君に斬られちゃったけどね。別人だって事は受け入れるつもり」
アリシアは嬉しそうに首の所に手で線を引くと俺が首だけになったのを教えてくれた。
「だよねー……で、俺をこの世界に呼んだ理由ってなに? そもそもなんで俺が来るってわかったの?」
色々疑問だらけだ。
師匠が俺を助けたのもわからないし。
「この世界の意味がわからないけど、襲われたクウガ君を先生に呼んで欲しいっていったのは私」
「まさか、あの時のクソ生意気なガキがこうも大人になるとはななのじゃ」
「と、いうと?」
「向こうではしらないのじゃが、ワラワとお主は7年前に会っている。魔法をちょっと教えただけで天狗になっての、貰う物貰ってささっと出て行ったのじゃ」
あーやっぱ正史ではそうなのか。
「その間は私は宿にいたの、怒った先生がこの街は長くないだろう。って……そこから5年後にクウガ君に内緒でどんな人が会いに行ったら……」
俺がアリシアに惚れて無理やり襲ったってわけか。
「今回はフレンダさんから手紙貰って……私はここにいるし助けれないから先生に頼んじゃった」
「え、なに別居してるの?」
俺としては冗談で言った言葉なのに、アリシアは「うん」と元気に答えてくれる。
「ま、まじ!?」
「正確には休養なのじゃ。無理がたたっているからな、ワラワとあの小僧とは面識はない。お主を助けるのにもうってつけって奴なのじゃ」
隠しキャラだし、まだあってない系か。
会うのはフェーン山脈だもんな。
「とにかく、助かったよ。あのクウガったら俺を絶対殺すマンで面倒だったし」
「そうだね……本当仲良くできればいいのに。ねっねっ向こうでは仲はいいの?」
「全然。まぁでも斬りあいはないか……酒を飲む程度の仲だよ」
「すごい。あのクウガ君がお酒を飲むだなんて」
そうなのか?
教えてくれ、というから。向こうのクウガがいかにクズでいかに遊び人なのを強調してアリシアに教える。
時間も更けていくとアリシアが欠伸をしだした。
「さて、お開きにするのじゃ……」
「うーん。ごめんね向こうのクロウ君」
師匠の忘れた小屋は奥にキングサイズのベッドが1個ある。
「師匠が右でアリシアが左側、って事は俺が2人に挟まれて真ん中に寝る!?」
「あっ私が床でいいよ。先生とクロウ君はベッド使ってくれて。大丈夫耳は塞ぐから」
まさかのアリシア公認。
ごっちゃんです。
「お主ら…………」
「冗談ですって」
「先生怖い顔はよくないですよ」
ここから入ったら死刑。というありがたい言葉を貰うとベッドの周りはカーテンで仕切られた。
逆に興奮するんだけど……アリシアに悪いのでそちらを見ないように背を向けた。
テーブルに残っていたアルコールを飲み目元にタオルをかけてソファーに横になる。
今日1日で色々あった。
アンジュは大丈夫かな……突然の別れになってしまったし、手紙でも書く? 冒険者ギルドに送れば届くだろう。
気配がしたので目隠しをとると師匠が俺を見下ろしている。
首をクイっと曲げては外に行け。と合図だ。




