第239話 vsメイド服を着たチンピラ
高級店ってすごいよ。
あちこち黒焦げな感じがする衣服なのに誰も文句は言わない。
逆に変えの衣装をお持ちしましょうか? とタキシードを用意してくれるぐらい。
丁重に断ってワインをたしなむ。
うん。酸っぱい。
俺としてはビール系の方が好きだけど、ここで文句を言ったらまた電撃が飛ぶので何も言わない。
「美味しいですわ」
「……味がしない」
「……あれだけ電撃を食らったからでしょうに、言葉に気をつけないとまたどこからスイッチが飛んできますわよ」
周りを見ると貸し切りなのか俺達以外の客はいない。
「いないだあばばっばば!?」
「ほら」
「い、今のは酷いだろ! な、なにも言ってない」
「私に言われましても、さて……味はどうです? 濃いとか薄いとか聞きたいんですけど」
ここで、味がしない。というと……うん。怖いよ!?
何度もかむと、うっすらとした味から濃い味に切り替わっていった。
「アッ旨いな、俺は濃い方が好きだけど」
「なるほど。参考になりましたわ、どうぞ続けて感想を」
フランシーヌはメモを取り始める。
俺が言った事をメモするほど大事にって……本当に俺の事を好きじゃないんだろうな。
軽く心配になる。
「何か?」
「いやなんでもない」
「所で普段は何をしてるんですの?」
お見合いでの定番の質問が飛んで来た。
フランシーヌとサシで話す事は初めてだけど、案外まともなのかもしれない。
会話が途切れないように聞いてくるなんて……。
「それはこっちも思っていたんだけどさ。貴族ってそれも女性だろ? 何してるの?」
「沢山ありますわ。街の警備。私が一番になるための広告。私が満足するデザート探し。結婚相手もそうですわね、相手の資産や地位。私の下で働く事を感謝する相手……どうです? 今からでも立候補だけしますか? 普通なら落としますが、2次面接までは考慮してあげてもいいですわよ」
うん。やっぱりわがままだった。
「大体2次面接って、そんなに来るのかよ」
「ええ、毎年数百人単位で……爺と共に断るんですけど一部は私兵になりますわ」
「まじで!?」
俺が貴族していた時代でもそんなに応募来なかったぞ。
兄のスゴウベルは遊び人だったし、父のサンドベルはアンジュの手綱を握られていたからか? 俺はというと影に隠れてもてなかった……ってか貴族の三男坊で親父もその上も健在ならそうだよ。
家督なんてないしさ。
「そういうあなたは普段何をしてますの?」
「え……ひも」
「ひも?」
「俺の好きな人からお金貰って生きてる」
どうしよう。
フランシーヌが軽蔑する目で見て来た。
事実だからしょうがない。
だって貴族辞めただけの人間だし、冒険者には成りたくないし。
「後は転売かな」
「転売?」
「ここで買ったのを別な所で売ったり」
「それは商人です?」
「無許可のね」
大量にするとその手の人に絡まれるのでこっそりやる。
なので、基本は巻き込まれた時に相手に吹っ掛けて金を貰うようにしてる。
「それを堂々と言える彼方がすごいですわね……髪型を変えて少しは見れるようになりましたけど、あまりに正直に言うと呆れるしかありませんわっ!」
せんわっ! といっても。
「いやだって冒険者登録してないしさ」
「なぜですの? メイド騎士アンジュさんですら、彼方に敬意を払ってますのに……」
「面倒。月額が無駄、ルールが細かい、例えば絡んでくる奴を間違えて殺しても捕まるんだろ?」
「間違いで殺さないでくれますの!!」
フランシーヌが立ち上がり、少し間を置いて座りなおした。
「それもそうか」
「貴方ときおり怖い事いいますけど……その気をつけたほうがいいですわよ……アンジュさんがいうにはアンジュさんより強いと、本当なんですの……?」
「俺? 《《弱いよ》》」
俺がそう言うと、遠くのほうから「この店はなんなんです! ……です!! ええっと、なんなんだよ!!」と《《見知った声》》が聞こえた。
思わず見ると、メイド服を着てサングラスをかけている女性と、同じくサングラスをしている爺さんが大きな声を出していた。
「あれは……どなたでしょう?」
「フランシーヌお前冗談だよな……そもそも客席にメイド服を着てるのが既に不自然だろ」
「もちろん。メイド服を着てると言う事はアンジュさんでしょうか、もう一人は……爺や?」
どこからどう見てもその2人だ。
こいつ本当に大丈夫か?
まぁそのサングラスアンジュは俺達に初めて気づいたように立ち上がる。
「そこの兄さんよ! 見せつけてくれますね」
「セリフはもっとドスを聞いた声で」
「そこの人。見せつけてくれて!」
爺さんの合いの手が入るとアンジュは同じセリフを言いなおす。
劇団の訓練か何かか? アンジュのほうはめっちゃ緊張してる。
店の入り口からどんどんとチンピラ…………にふんした私兵が入って来る。
だって先ほど髪をセットしてくれた女性もサングラスをしては入って来たからだ。
なぜか厨房のほうからも私兵が出てくると俺達の席をぐるっと囲む。
「まぁなんですの貴方達は一体!」
え、本気で言ってる?
フランシーヌを見ると本気で誰かわからない感じで喋りだした。
どっちだ。
本気でぼけてるのか、役者なのか。
爺さんとアンジュが俺達の席に寄って来る。
「に、にいちゃんよ! 見せつけてくれますね!」
「アンジュ何やってるの」
「っ!? ちちちちがいます!」
俺が立ち上がってサングラスを触ろうとしたら手を跳ねのけられた。
「何をするんですか!」
「いや、サングラス取ろうかと……《《年取って》》俺の事見えないのかなって」
「は?」
アンジュが一言小さい声を話すと周りがざわっとしたような。
「貴方、それはどういう意味ですの? 私聞いてみたいです」
迎えに座っているフランシーヌが疑問の声を上げて来た。
フランシーヌの方へ顔を向けて説明でもするか。
「いや、俺はまだなったこと無いけど《《老眼》》ってあるだろ? 《《初老》》になると近く物が見えにくくなる奴、そこに色のついたサングラスなんてしたら、誰かわからないだろ? だから俺はそのサングラスを取ろうとして……」
「確かに爺やもたまにルーペしてますわね」
「だろ?」
「ですが、仮にそこの人がアンジュさんだったとして……その一言はどうかと」
どうって。
俺はアンジュを見るのに振りかえるとアンジュの姿がない。
とっさにしゃがむと、俺が座っていた椅子の背もたれが切れるのを見あ。
「あっぶな!」
振り返ると既にアンジュは動いてる。
「あんなに慕ってくれたクロウベル様が7年ほど会わないとこんなふうになるのですね……」
「そういうけど、俺の性格を黙認していたのもアンジュだからね!?」
「…………戯事を」
おそらく俺とアンジュにしか知らないやり取りだ。
こっちのアンジュは7年ほど前から会ってないので自分のせいだって考えているが、俺の世界では別にアンジュは何も言って来ない。
人の道を外れるような事だけを注意しては俺をコテンパンにしてきたし。おれもアンジュに勝とうと思ってなかったのもある。
「一ついいますけど、デート中に他の女性とかむのはNGですわね」
「そんな事言ってる場合!? 待て、爺さんそのスイッチはまずい!」
爺さんはスイッチと思うやつをポケットにしまう。
無意識に腹の部分をアンジュの剣でガードすると、アンジュの蹴りがさく裂した。そのまま後ろに吹き飛ぶと壁に激突。
いっ!!
いってええええええええええ!
我慢。
だって男の子だもん。
ぐったりとして意識が無いふりをする。
「立ってください。気絶したふりですか?」
当たり前だ。
何所の世界に店の中で剣を振り回さないといけないの。こっちは罰ゲームとはいえデート中だよ?
顔を下に向けると爺さんの声が聞こえてくる。
「まぁまぁ……チンピラに負ける。というデーターは取れましたし。ここは……」
「……仕方がありません。後私はアンジュというメイドではありませんので」
「おお、そうじゃった。フランシーヌお嬢様、わたしも爺ではないので。よし帰るぞ!」
ぞろぞろと足音が消えていくと顔をあげた。
フランシーヌが俺の横でしゃがんでみていた。少しだけ目がきらきらなような。
「貴方、本当に強いんですのね、口だけの人かと思ってましたわ」
「だから弱いよ?」
「嘘ばっかり」




