第237.5話 他人視点・かの地で暇をもてあそぶ淑女達
「ねぇメルママ、私達出番少ないと思わない?」
「何じゃ突然に……」
フェーン山脈の中腹にある結界に守られた場所。
魔女メルギナスの現在の家がある。
1人で住むには大きいログハウスの中で1人の少女が大人の女性に向き直った。
少女の名前はセリーヌ。
金髪の髪で年齢は10歳前後、可愛らしい姿で人形のようにも見える、特徴的なのは菱形に空いた第3の眼。
おでこの所にあるその目は猛禽類のような瞳をしていた。
その正体は古代から生きる竜であり、人の言葉で言えば『神竜』である。
一方その神竜に不満をぶつけられた方の女性は年齢は20代後半から30代前半と言った所だろう。
平均的な女性の胸のサイズより大きく、長い銀髪が光に透けて美しさを保っている。
こちらも人とは違い特徴的なのは耳であった。
長寿族、別の世界ではエルフと呼ばれる種族でこちらも大変に長生きである。
魔力にたけた種族で様々な事をできたり一部の長寿族は『時を止める』魔法を使えるのもいる。
その耳で不満を聞いていたのだ。
読みかけの本にシオリを挟むと「出番なぞあるじゃろ? 外にいっては活躍して来たらどうじゃ?」とセリーヌへと投げやりに返事をする。
過去の仲間からは無理したキャラ付けのための語尾と、からかわれた事もあるが本人は何年、何百年も使っており今さら取る事の出来ない。
「毎日毎日魔物ばっかり食べると飽きちゃうの」
「だったら巣にでも帰ればよかろうなのじゃ」
メルギナスの言う事は正論である。
別に神竜に頼み込んで来てもらってるわけじゃない。
寝てるのに飽きた。と理由だけで勝手について来たのだ。
「酷いわ。これがネグレクトってやつなのね」
「ネグれ……なんじゃ?」
「本来の意味はもう消えちゃってるけど育児放棄って意味が強い言葉。メルったら年増なくせに知らないのね」
メルギナスは大きく息を吸うとセリーヌがライトニングの魔法を飛ばした。
理由は二つある。
一つ目は別に子育てをしてない。
二つ目は年増と呼ばれた事。
電撃系の魔法でメルギナスが放つのは魔力も多く《《小型の魔物なら一撃》》である。
セリーヌは小さい手を前に差し出すと、その魔法を打ち消す。
「ちっ、どいつもこいつも。ワラワの自信が無くなりそうじゃ」
「あら。あの子の事ね! そういえば、あの子とはどこであったの!? どこまで進んだの!? お爺さんでも元気になるお薬いる? あっこの場合お婆さんでも元気になる薬のほうがいいかしら」
子供姿でいうので他人から見たらとても危ないセリフにしか聞こえない。
「頼むから余計な事はドアホウに吹き込むなのじゃ」
メルギナスがぐったりしてソファーに座ると、横にセリーヌが可愛く座る。
「じゃぁゲームしましょう」
「2人でなのじゃ? つまらんじゃろ」
「ううん。勝った方が負けた方の部位をそぎ落とすの! 皆必死になって面白いわ」
無邪気に説明するセリーヌ。
別に意地悪で言っているわけじゃなくてセリーヌは純粋に面白い。と思っての発言だ。
実際に過去に流行った事があり、その解決方法として各自ポーションやエリクサー、ヒーラーを備えておく。という裏技的なルールもあったりする。
最初はよかったが、段々と回復アイテムを用意できなかったり、ヒーラーが足りなかったり、一部そういうのを禁止するルールが出来たりと、最後は貴族が平民をいたぶるだけになったりなどで、廃れていった。
今では過去にあった残忍な遊びという事で一部の人間だけが知っている事だ。
「ワラワもセリーヌも回復が使える分意味はないのじゃ」
「それもそうね……回復禁止にしたらどうかしら!? ローカルルールは知ってるわよね?」
凄い事を思いついた。と、言う顔で提案をする。
「却下じゃ。どちらが死ぬなのじゃ」
「大丈夫私は死なないわ!」
この場所にクロウベルがいたら思わず突っ込みを入れたくなるセリフをセリーヌは言うが、メルギナスは呆れ顔でため息をつく。
「じゃぁワラワが死ぬと? 余計に却下じゃ」
「生きる目的もなく自堕落に生きてるくせに、だから長寿族って嫌いなのよね」
メルギナスはセリーヌのわきに手を滑り込ませ空中に浮かせる。
直ぐにひざの上に乗せて抱っこの形になった。
セリーヌの顔が満面の笑みになると抱っこが嬉しい。という表情。
しかし、すぐにその表情は苦悶に変わる。
「痛い! 痛いわ! 目の横は禁止!! 禁止よ! 離して」
「良く言うなのじゃ! 生きる目的に関してはお主も一緒じゃろ! 『何が人類の可能性を信じてこの地に眠る』なのじゃ! 何千年、何万年も寝るのかと思ったらちょいちょい起きてはトラブルおこしおって! お主こそ自堕落以外のなんなのじゃ!」
一方的に痛めつけるとメルギナスはこめかみへの攻撃を緩めた。
両目を閉じてこめかみを抑えるセリーヌ、第3の眼だけはメルギナスの方へ向いていた。
「もう。かの地から距離があるから今はか弱い女の子よ? 十分に痛いんだから。いいじゃない……人間はあっという間に死ぬのに同じ人間がいないのよ? それの観察の方が面白いのがしょうがないわ」
「おうおうおう、なにがか弱い女の子なのじゃ。毎日外にいっては魔物を食うくせに…………頼むから人は食うななのじゃ」
「あら人間をかばうの?」
「面倒事が嫌なだけじゃ」
メルギナスはため息をつきながらセリーヌの頭の上に顎を乗せた。
「大丈夫よメル。あの子は食べないわ、食あたりしそうだもん」
「はぁ……まったく。仕方がないそんなに暇なら」
「子作りね!」
満面の笑みでいうセリーヌにメルギナスは呆れ顔になった。
「お主少し下品になったの」
「………………気をつけるわ」
年齢は違えと性別的には女性2人が真顔で話す。
コホンと小さい咳払いをするとメルギナスが立ち上がった。
「どれ転移の門で少し買い物にでもいくかなのじゃ」
「賛成よ! セリーヌ美味しい物食べたいわ!」
「はいはい」
メルギナスが暫くすると「なのじゃ」と語尾をつけた所で地下室へと入って行った。




