第237話 UN……最後の一文字が出ないアレのゲーム
「…………おかえりなさいクロウベル様? どうなされましたか? 酷く暗いですが。出かけると聞いていましたが、この辺では余り出歩かない方が……まだクロウベル様の顔を知っている人がいると思います」
俺が館のゲストハウスへと戻ると風呂から上がったアンジュが声をかけて来たのだ。
風呂上りと言うのにメイド服。
何なんだこの人は。
まぁ軽く説明はしたほうがいいか。
「え? ああ。俺がこの世界来た意味が1つ無くなった」
「そんな……」
酷く悲しい顔をしてくれる。
「どんな事で……」
「宝を求めたんだけどね、やっぱり自分で何とかするしかないらしい」
「素晴らしいです」
「そうかな……うん、アンジュがいうならそうなんだろう」
少しだけ自信がついた。
「お宝であれば微力ながらお手伝いします」
「え、本当!? 師匠の勝負下着の場所なんだけど、女性が隠すならどこかなって」
「は?」
「いやだから、師匠の勝負下着を……おおおお。鬼がいる」
アンジュが、アンジュの剣を出して床に突き刺した。
「嘆かわしいです。スタン家当主と言うお方が」
「それで言えば一応兄が……」
「行方不明の人など意味がありません。向こうの私はクロウベル様をどんな風に育てたのでしょうか? 疑問が残ります。7年前のクロウベル様は気弱でありましたが可愛さもあったのに、わかりました」
何がわかったんだ?
「俺の熱い思いが伝わった!?」
「違います。力はもう及びませんが精神の方を鍛えさせてもらいます」
「断る」
「いいえ、はいと言うまで諦めません」
『はい』『いいえ』の2択しかないのかな?
「と、いうかさアンジュさ」
俺は部屋の背もたれを前にして座る。
腕は丁度背もたれの上にある感じだ。
「俺は俺の世界にいずれ帰るよ」
「………………知っています。これは私の贖罪なのです、守れなかった罰、現実を見なかった罰」
真面目だなぁ……。
「俺が言うのもなんだけど、まぁ殺されたのは酷いが自業自得部分もあるから」
ゲストハウスの扉が大きく開く。
振り向くとネグリジェ姿のフランシーヌがカードを持って突入して来た。
「お待たせしましたわ! アンジュさん。さぁこのフランシーヌと勝負ですわ! …………あらあなた。まだ居たんですの? 街に出て行ったと聞きましたのに……あら? アンジュさんの足元にそんな穴あったかしら? 後で職人に直させますわ」
アンジュは慌てて剣をしまったのだろう。
でも足元には隠しきれない剣で作った穴が開いてる。
誤魔化すのを手伝うか。
「知り合いに会いに行っただけっての。ふーん……そのカードはワンか」
「ええ、爺やもいれて3人で遊ぼうかと」
フランシーヌの入ってた廊下ではタキシード姿の爺さんが立っている。執事ってこんな夜中まで主人に振り回されてブラック企業も真っ青な。
「3人ってどうせ忖度されるんだろ? 接待プレイ」
「………………せんわ」
「聞こえない」
「爺やは全然接待なんてしませんわ! 先日なんて罰ゲームでピラミットから突き落とされましたの。頂上にはわたくしのぬいぐるみ。それを這い上がって取る罰ゲームをうけましたの」
まじかよ。
爺さんをみると目元が開きキランと光った。
「他は?」
「他のメイド達も入れて4人で遊んだときは給金を10倍にされましたわ……もっともよく月にわたくしが勝ちましたので最低ラインまで下げましたけど」
ふむ。
中々面白い。
これこそが金持ちの道楽か。
「乗った!」
「いやな予感がしますし…………要りませんわ、さぁでてって下さいまし」
俺が参加表明したらキャンセルされた。
だが……いいのかなぁ、そんな事いって、因みに俺も暇である。
これ以上の暇つぶしもないだろう。
「怖いんだ」
「んなっ!?」
俺の挑発に簡単にひっかかる。
こっちの世界でも何も成長してなくて逆に嬉しい。
「こんな正体不明の男に負けるのが怖いんだ。まぁそうだよな……怖くてちびるぐらいなんだし」
「一度も漏らした事なんてないですわよ!! いいでしょう……わたくしが勝ったら」
「あ、エロイ事は禁止で」
「それはこちらのセリフですわよ!! 出来もしない罰ゲームとあまりにも卑猥や痛み系は禁止してますの!」
って事は、ピラミットから突き落として這い上がる根性があるのか、面白い奴だ。
「貴方庶民でしょうけど、ルール知ってますの?」
「当たり前だ」
ワンというゲーム。
ぶっちゃけると、地球にもあったあのカードゲームだ。
1から9と4つの色があるカード。
他にもスキップカードや手札を増やす妨害カード。
場の1枚カードをだして手札から色、もしくは同じ数字を出していき最後の1枚になると『ワン』と宣言して次の番に備える。
最終的に手札が0枚になった人が1位のアレである。
地球では、う……ええっと駄目だ名前が思い出せない、ルールは一緒なのは間違いない。
「逆に私はルールは知らないです」
「あ、そうなの?」
「ええ。こういうゲームは他の人が得意でしたね。よくサンドベルや他の仲間が遊んでいるのを聞いていました、入っても良かったんですけど剣の腕を磨くのに必死でして」
「まずはやってみるか」
――
――――
「ぜえぜえ。ラスト1枚ですわよ、これで勝利ですわ」
「さすがはフランシーヌお嬢様です」
「ちっ」
窓の外は既に明るくなり始めている。
思いのほか盛り上がった『ワン』ゲーム。
これまでに俺が4回、アンジュが2回、フランシーヌが4回に爺さんが3回取った。
出るわ出るわ罰ゲームの嵐。
1位が1位以下に何でも命令できるという事で軽い王様ゲームも入ってる。
激辛料理から始まって本気のデコピン。
アンジュは何故か俺に授業の時間を取る事と与えたり、爺さんがそれを見てフランシーヌに同様の事を宣言したりと。
「負けた……仕方がない。命令をどうぞ女王様」
「あら負け惜しみですわね、いい気分ですわ! 先ほどの料理死ぬかと思いましたの。さて……どうしましょうか。ピラミットから突き落としてもいいんですけど、あっそうですわ! では、デートして欲しいですわね」
「誰と?」
「最下位の貴方しかいませんが?」
大体かつ飛んでも発言だ。
2位のアンジュは口元に手を当て驚いているし3位だった爺さんなんて口を大きく開けて放心してるぞ。
あっ気づいた。
「な、なりませぬ! このような異性とデートなど!! それに、この男! 強いですが顔がいけません。人に恨まれる顔でございます。それほどしたいのであれば、この爺が!」
フランシーヌの眉がはの字になる。
何が悲しくて爺さんとデートしないといけないのか、気持ちはわかるよ。
「ええっと……アンジュと行ったら?」
「貴方でなくてはだめですわね、さて日も上がりましたのでお開きにしましょうか。明後日楽しみにしてますわね。それではごきげんよう」
バタンと扉が閉まると鳥の声しか聞こえない。
「ええっとアンジュどうしようってアンジュ?」
「私もその罰ゲームすればよかった……いえ罰ゲームという名前に騙された、ご褒美ゲームだったのですね。なるほど……どうりでサンドベルがいつも負けた後に嬉しそうな顔してましたっけ」
あっだめだ。
昔を思い出してるアンジュは話を聞いてない、爺さんの方を見る。
「顔こわっ!?」
「クロウベル殿! いいですが。フランシーヌお嬢様に怪我でもさせたら……いえ! キスの一つでもした日には。彼方の同名の兄と同じようにこの街の広場に首だけを晒しますので、では仕事がありますゆえ失礼」
「こわ……」
楽しいゲームだったはずなのに、なぜか俺はデートする羽目になってしまった。




