第235話 星詠みのフレンダ
豪華な飯、豪華な風呂、人間それだけあれば心までゆったり出来るわけで、これだけ苦難続きの俺でさえ思わず嬉しいため息がでるもんだ。
場所はフランシーヌの屋敷での風呂。
食事を終えた俺が『風呂に入りたい』と言ったら爺さんが用意してくれた。
メイドである、いやメイド騎士という謎の職業? を持ったアンジュは屋敷のメイドや雇っている私兵などに人気でレクチャーをしている。
アンジュもなんだかんだで、人に教えるの好きだからな。
「いくら親父の愛人だからとはいえコネじゃなくて実力でメイド長になっただけはある」
「それはそうです。あの人からも仕事が出来なければ即首にするといわれましたし」
……俺は頭にあるタオルを湯船に入れて軽く絞ると顔を拭く。
おかしい。
《《俺の独り言に返事が返って来たからだ。》》
しかも女性の声で、声からしてアンジュだ。
「いやぁ。幻聴が聞こえるほど疲れていたのかな……さて、上がるか」
「そうですか? ではお背中ながします。こちらに」
背後から肩を押さえつけられた。
「うおおおお!? ア、アンジュ!?」
「クロウベル様、お風呂で叫ぶとは子供ですか? ここは借りている場所です。お静かに」
「うい」
「返事は『はい』です。もしくは『無言』の方がいいでしょう」
「《《うい》》」
二度目の『うい』に俺の肩を押さえつけてるアンジュの力が強くなる。
いや、痛いし……湯船から逃げられない俺は湯船に押さえつけられた。
アンジュの手が俺の肩や背中を触って行く。
これが師匠だったら大興奮なんだけどアンジュなので問題はない。
……ない? うん。ないな。
「昼間の話ですが、信じられませんが……信じるしかなさそうです。それに背中にあるほくろも同じです」
「え、もしかして星型のほくろとかある!?」
「無いですが……? なぜです?」
つい日本限定のジョークを入れてしまった。
とある漫画で代々選ばれた血筋のみ現れるほくろをもった敵と書いたんだよ……。
当然アンジュはそんな事知らないので変な声で俺に聞き返してきたわけだ。
「何となく?」
「それにあの剣は大事にしていた剣です。本来は私の代で終わるはずだったのですが……」
ゲームでは元剣星のアンジュはいても、アンジュの後継者はいなかったもんな。
アンジュの剣。
うーん……元はアーカスが使っていた剣らしいし、そんな大事な剣をむこうのアンジュは俺にくれたのか。
それを俺は『売る』って言ったんだ、少し酷い事をした気分になる。
だって! 無名の剣っていってたじゃん! ゲーム本編でも特に何も無かった剣だよ!? わかるはずないじゃん。
「どうしました?」
「何でもない……所で俺の体を見に来たの? 風呂まで?」
「ええ……それもありますし成長したクロウベル様を見たかったので…………どうせ『年増な』私ではクロウベル様の裸を見る事は難しいと思いましたので」
俺がアンジュはおばさんみたいって思った事かな?
「根にもってる?」
「何がですか? 事実ですし。クロウベル様も私のような『年増の』女性の体は見たくもないでしょう。ええ……スタン家は女難の家系ですし。それに小さい頃から見てますので、どうですか? 少しは大きくなりましたか?」
さすがの俺も、こんなに大きくなりました。と振り向く事は出来ない。
「え、まぁその、それなりに」
「まったく……こちらのクロウベル様も貴方みたいに育って……いえ、逃げ出した私が言う事では無かったですね……」
しんみりだ。
「アンジュは何時までも綺麗だよ」
「………………クロウベル様、そういう言葉は意中の相手に言う物です」
慰めたつもりが怒られてしまった。
「もう一つお聞きしていいでしょうか?」
怒っていっるアンジュに逆らう事はしない。
「何でも聞いて」
「なぜ、こちらのクロウベル様が極悪非道をして殺された。と解ったのです? なぜ知り合いらしいクウガさんと話し合いをしなかったのです?」
………………うおおおおおおおお!?
ぜんっぜん考えて無かった。
そうだよね。
アンジュには俺が死んだはずのクロウベルに間違えられてクウガ追われて逃げた。とは説明した。
分岐点は5年前だよ。とも説明した。
じゃぁなんで、こっちの歴史を知っていたのか? と、言う説明にはなってない。
普通だったら、クウガの事を知っているんだ、クウガと戦ってひたすら弁明するのが先だ。
現にアンジュとはそうした。
「ま……」
「ま?」
「魔法で知った! そ、そう! こっちの記憶が流れ込んでくる魔法でええっと、詠唱はこっちに来る時に忘れちゃったけど魔法で知った!」
俺は振り返りアンジュに説明した。
「あっ」
俺は仁王立ち。
アンジュは湯船の中で全裸である。
俺のぶらんぶらんがアンジュの顔まえにぶらんぶらんしてる。
「サンドベル様に似ましたが、まだまだですね……ふ。もう少し嘘を……いえ、クロウベル様がそういうのであればそうなのでしょう。私はもう少し湯につかりますがクロウベル様はどうなされますか?」
「…………上がる」
「ではどうぞ」
鼻で笑われ何か負けた俺はとぼとぼと脱衣所に向かう。
服を着て脱衣所を出る。
あてがわれた部屋に行こうとするとフランシーヌが鼻歌を歌っている、後ろにいるメイドがタオルなどを持っているのを見るとお風呂だろ。
「げっ」
「俺の顔を見てゲっはないだろう……」
「そうですわよね。なぜか彼方をみると自然に、それよりもアンジュさんはどこかしら?」
「アンジュなら風呂だよ」
「ふっふっふ、知ってましたの? あのメイド騎士アンジュさんの事を、どんな武勇伝を聞かせて貰えるのかしら、ではごきげんよう」
嬉しそうに横を通り過ぎていく。
「あっそうだ。フランシーヌ」
「なんですの……?」
「色々酷い事いってごめんな」
「…………いいですわよ。この大貴族であるフランシーヌはそれぐらいでは怒りませんわ!」
ふむふむ。
「そう? 実は俺、湯舟で俺もらしちゃった」
「んなあああ!?」
フランシーヌは驚いてメイドと共に走って行った。
廊下の角から爺さんが歩いてくる。
「クロウベル殿、今の話本当ででしょうか?」
「全然」
「少しお嬢様をからかい過ぎではありませんか? 何か恨みなど?」
沢山ある。
大勢の前で俺は漏らしそうになったから。
こっちの世界の話ではないけどさ。
「いや良く言うじゃん、かわいい子には意地悪しろ。って」
「はぁ……所でどちらに、お部屋はあっちですが」
「少し外に。あっアンジュには黙っておいてくれる?」
「当家で持て成しますが不自由がごありで?」
「人に会うだけだよ、朝には帰る」
俺は爺さんの返事を聞かずに屋敷からでた。
馬を駆りて旧市街へといくとフレンダの屋敷が見えて来た。
俺が昔見たときは水も止まり荒れ果てた庭であったが、それなりに綺麗になっている。
途中でかった甘いケーキの入った箱を手にドアノッカーを叩く。
元々は白い肌も今ではほんのりやけている。髪は依然と同じく長く水色、瞳は水晶の様に透明で綺麗な細目。
フレンダが夜分というのに扉を開けて俺の顔を見て来た。
「《《初めましてクロウベルさん》》」
「ああ、初めましてフレンダ」
「まるで《《あの人》》のようですね、風の様に表れて砂の様に消えていく。どうぞお入りになってください」
あの人ねぇ。
どうせクウガだろう。
「まっそれよりもお土産」
「ありがとうございます」




