第234話 お嬢様に取り囲まれた先で
「で……名前なんだっけ?」
近くに来た貴族の女性は俺を見ては目を吊り上げている。
その度にドリル上の金髪が横に揺れて少しうざい。
「聞いてませんでしたのこと!? ここは『フランシーヌ』が経営する大事な店ですわ!」
そういえばそんな名前だったな。
が、俺がそれを認めたらなんだが負けた気分になるので、少しからかうか。
「フランシーヌの店とは聞いたけど、それがおもらし娘の名前か知らないだろ?」
「お、おもらし何てした事ありませんわ!」
「2年ちょっと前のスータン水着大会ってあった?」
周りがざわっとしだす。
フランシーヌが少し遠くを見るような目になった。
「ありましたわね。わたくしが1位の奴ですわ」
「そこで下剤入りのケーキなかった? それをたまたま食べたとか」
「そ、そそそそんな事あ、あるわけないじゃないですの!? なんですか、貴方もしかして、あの女から何か聞いてますの!?」
あの女がどの女かわからない。
候補としてはミランダか? でもフランシーヌがミランダの事を『あの女』と呼ばない気がする。
「あの女とは?」
フランシーヌが俺に顔を近づけて小声になる。
「アリシアとかいう女ですわ。いえあの女は喋らなくてもお喋りなミーティアって子もいましたわね……」
「……2人の名前は知らないし、そんな人物は聞いてないがこの街の情報屋から聞いた事がある、とある貴族様の失態として」
「ちっ」
フランシーヌが俺から顔を離すと、それでも勝ち誇った顔で見下ろして来た。
「まぁいいですわ。寛大なフランシーヌは許してあげますわ、困りますのよメイドを連れた男がお店で暴れまわっていると聞いて、どうやら勘違いでしたのよね」
ふむふむ。
なるほど……フランシーヌが経営する店でアンジュが暴れたから、その店を確認しにフランシーヌが護衛を沢山引き連れて来た。と。
でだ。
《《俺の身事な交渉術で》》フランシーヌは店で暴れていた事を不問にしてやる。と。
それは約2年ぐらい前に起きた水着大会でフランシーヌが優勝したが……向こうの歴史と同じくフランシーヌはちょっと漏らした可能性があるからだ。
アリシアの名前が出てくるって事はだ。
解毒の魔法など使われたのだろう。
「さぁ、も、もう店を出なさい。不問にしますから」
「…………いや」
「え?」
フランシーヌが驚いた顔をした。
そりゃそうだろう、俺が拒否したんだから。
俺は立ち上がる。
「そう。店で暴れていました! この『漏らしたかもしれない』貴族様のお店で暴れてました。大変もうしわけございません!! 罰金はいかほどでしょうか! もしかして『かもしれない』だけでつかまえ――ごっふ!」
俺の頭が固い物で叩かれた。
思わぬ攻撃だったので舌を噛んで、思いっきりしゃがむ。
振り返るとアンジュだ。
「申し訳ございませんフランシーヌ様。暴れていたのは私、アンジュと申します。この方はこの街で会っただけの旅人ですので、連れて行くなら私だけでお願いします」
俺の事をかばってくれたのだろう。
でも、何も叩く事無いじゃん叩く事、絶対にアンジュの剣で叩いたよ!? アンジュが剣をしまう所みたもん。
ほら、周りもドン引きしてるしさ。
「アンジュ別に俺をかばわなくても」
「誰ですか? 名前を呼ばないでください。さぁフランシーヌ様行きましょうか……先ほどの話は大変興味深い話でした」
俺の事を本当のクロウベルと……こんな馬鹿な話を信じてくれたか。
「え!? ええ……」
フランシーヌは俺の方を見ては助けを求めてる。
頃合いか。
「アンジュさ無理だって。まぁどの道合うとは思っていたんだ、フレンダに会いたいし」
「なぜそこでフレンダの名前が出るのです?」
「え。占い師だろ?」
「いいえ? 趣味で占いはしてるようですが」
あっ。
そ、そうか別に占い師だけど流行ってないって奴か。
向こうでは人気の占い師になっていたぶん、こっちでも占い師してるのかと思ってた。
「フレンダの知り合いですの?」
「いいや」
「…………なんなんですか! 本当に!?」
フランシーヌの横に1人の老人が立った。
他の人と同じく私兵の1人だろうけど、なんだろう。こっちを見る目が厳しい。
「フランシーヌお嬢様お耳を」
「なんですの爺や」
フランシーヌが俺を見た後にアンジュをじっと見ている。
「わかりましたわ。どうぞフリク家でごゆっくりを」
「断るよ」
「誰も貴方にいってませんわ貴方に! こちらの女性に言っているのです!」
怒られてしまった。
俺はアンジュを見ると、アンジュはすっと席を立つと俺を見て来た。
「では、知らない人。ここでお別れです」
アンジュはあくまで俺を知らないふりをする。
「コイツも連れて行きますわよ!」
「コイツ呼ばわりじゃなくて俺にも名前があるんだけど」
「あらなんですの?」
「クロウベル」
フランシーヌは何もいわなかったが、横に居た《《爺や》》と呼ばれた爺さんは俺の顔を凝視する。
なるほど……俺の事しってるのかな? まぁ二つ隣の街だしな知ってる可能性もあるだろう。
「変な名前ですわね。どこの田舎者なのかしら」
「お、お嬢様!」
「何かしら爺や」
爺さんが少し慌てている。
ちょっと様子見てみるか。
「ふーん。名前を馬鹿にされるとは……暴れて良い?」
俺の一言で無表情の奴、笑うやつ、爺さんだけが笑っていない。
フランシーヌのほうは「暴れる? この人数で何を言っているのです?」と不思議そうな顔だ。
ちなみに本気であばる事はない、なんだったら名前で馬鹿にされるのは昔からよくある。
「まっいいか。俺とアンジュに何か危害があるなら本気を出す。この約束であれば」
「爺や、本当に連れて行ったほうがいいのですの?」
爺さんが小さくうなずく。
爺さんに連れられて貴族の馬車に乗せられる。
私兵見たいのは馬車の周りで徒歩。俺とアンジュ、爺さんが同じ馬車でフランシーヌは別の馬車に乗せられ進んでいる。
フランシーヌを守るための別馬車だろう。
と、言う事は何かあれば爺さんの命を持っても俺を止めるつもりだ。
横に居る私兵も護衛じゃなくて俺達を止めるため。と考えると納得がいく。
ある程度進むまで俺もアンジュも無言だ。
俺はカーテンの隙間から街並みを見る。
だって話す事ないし。
俺だって若い女性相手なら気分もいいよ? 師匠の事が好きといっても男だしさ。でも爺さんにじっと見られて怖いよ。
それにこの爺さん俺の事知ってるみたいだし、なんだったらアンジュの事も知ってるくさい。
アンジュも無言で俺の隣に座っているしアンジュだけ連れて行ってくれればよかったんだけど。
「一応言うけどアンジュが嫌いなわけじゃないからね」
「……突然何を」
「一応の言い訳、メイド服姿で一緒にいると目立つのよ」
「これが私の正装ですので」
爺さんの方が口を開く。
「やはり、アンジュ殿でしたか……。高名なメイド騎士に無礼をお許しください」
「騒いだのは事実です、どんな処罰も受けましょう」
メイド騎士ってなんだメイド騎士って。
「処罰だなんて……しかし。この方は……その」
「真のクロウベル様です」
「俺はロボか何かか?」
ろぼ? と言って首をかしげはじめた。
そりゃそうか。
何て説明したほうがいいかなぁ……『パラレルワールドから来ましたクロウベル君でーす』うん、アンジュみたいに関係があるならともかく初対面の相手にそれはない。
「弟だよ」
「「弟?」」
2人の声がはもった。
思い付きで考えた答えだ。
「ほら、俺の親父って女癖わるかっただろ? その……まぁそんな感じで……俺と同じ名前の兄が住んでいた街を見に行った帰り」
自然だ。
凄い自然な言い訳だ。
「なるほど! それでしたら納得がいきます。あなたの兄はフユーンの街の領主までなられた方でしたが……最後は」
「処刑台でしょ、聞いてるよ」
しかも怪しまれない。
「わたしも首だけになったあなたの兄を見ました。いやはやそっくりだったので、おっと喋り過ぎましたかな」
普通血縁者にそんな話する? だから貴族はって言われるんだよ……いや、それだけ酷い事をしたからか。
「この街では何を……?」
兄に変わってこの街を占拠しにきた。と、冗談を言おうとして辞めた。冗談が通じなく馬車の両脇から攻撃されても面倒だし。
「観光と探し人。迷惑はかけないよ」
「では、街にいる間屋敷をお使いください」
爺さんはそう言うと凄い満足そう。
「じゃぁ5年ぐらいいていい?」
爺さんは凄い嫌そうな顔になった。
アンジュが咳払いをして、俺を注意する。わかってるって……。
「冗談だからね」




