第232話 元剣星、最後に慌てる
フユーンの街から徒歩で半日。
やっと共同墓地についた。
ここにある転移の門でとりあえずどこかに飛ぶ、飛んだ先で近くの街にいって帝国もしくは何かありそうなのを探す。
希望としてはスータンの街にいって占い師ミランダを訪ねたい。
あの子なら何か知ってそうだし……もしかしたら俺の事を未来予言していたマリンダの手紙がある可能性もある。
さらに! ここで飛べばクウガだって俺の後を直ぐには追って来れないだろう。
共同墓地につく頃には夕暮れになっている。
誰もいない門を抜け歩いていると俺が知っている共同墓地よりも墓がめちゃくちゃ多い。
中には見知った名前もあり、俺のせいで死んだ可能性があると思うと、何とも言えない気分になる。
「まぁ死んで当然よ……極悪人は」
俺が転移の門に行こうとすると1人のローブ姿の女性が見えた。顔はフードをかぶっており顔は見えない。
女性と解るのはその細い丸みを帯びた体付きだから。
俺が目指すのはあの人よりもさらに先にある墓。
できれば転移の門は見られたくない。
普通の男が墓の中にある地下室に消えたら、見てる方はびっくりだよ。
もう通報案件で騒がれるの間違いない。
と言う訳で邪魔である、少し会話して追い出すか?
「あの、お参りですか?」
「ええ…………」
俺は墓の名前を見る。
墓は四角い正方形の石に名前が刻まれている普通の奴だ。
「あっ」
思わず声がでてしまった。
『スタン家の墓』と刻まれているからだ。
その隣で壊されている墓はもう言わなくてもわかる、たぶん俺の墓。
フードの女性は前を見たままに墓に向かって話しかける。
「お暇を貰ってあの人の思い出をめぐってましたが、少し帰るのが遅かったようです。大きくなられましたね、そして死んでください」
振り向きざまに俺の首を跳ねようとする《《アンジュ》》。
俺も剣で防御するとその顔が驚いた顔になった。
「な、なぜその剣を……それにこの動き」
「アンジュに貰ったって言ったら信じる?」
「私の名前を……本当に偽物ではなさそうですね」
俺が剣を引き抜くような形で首を守っている。少しでも力を抜けば動と首がサヨナラ満塁ホームラン。
いくら俺が多少回復魔法使えるって言っても吹き飛んだら俺は死ぬ。
アンジュも力を弱め次の攻撃に仕掛ければいいのに動きが無い。剣と剣がぶつかり合ったままだ。
「死者の眠る墓地。クロウベル坊ちゃまの悪霊と言う事でしょうか……いえ、これは私の心が弱かったから。安心してください。スタン家の悪夢は私が終わらせます」
アンジュがひとたび飛ぶとフードを脱ぎ捨てた。
俺の視界が一瞬とぎれるとメイド服を来たアンジュがスタン家の墓の上に立っていた。
「…………普段からメイド服着てるわけ? 普段着あるよね? 街で浮かない?」
「元剣星アンジュ参ります」
話をする気は一切ないらしい。
殺気のこもった攻撃が俺に飛んでくる。
一撃、二撃。
俺は回避していくと周りの墓が壊れていくのが見える。
「ちょ、これ修理するの大変なんだよ!?」
「………………」
この世界でも墓は高い。
魔物や動物に掘り起こされないように結界を張ったり、盗賊が来ないように管理したりだ。
「あれ?」
「………………!」
アンジュが俺の疑問に答えるわけもなく剣を振っては後方にさがり別の角度から飛んでくる。
いや。
うーん……。
その剣を俺は斜めにして回避する。
一つの疑問を口にする。
「アンジュ……もしかして弱くなった?」
「っ!?」
アンジュの動きが止まり、遠くにある墓の上に着地した。
メイド服に剣。
日本のオタクがみたら泣いて喜びそうな、その姿だけでご飯3杯はいける。
俺はメイドオタじゃないのでご飯1杯が限界だけど。
よく考えれば、アンジュは元剣星なだけで元だ。
俺は裏アーカスや、過去アーカスと本気で死にそうな訓練をさせられた。
それ以外にもクウガと戦ったりノラと稽古したりと経験値は上がっている。
「私では亡霊を抑える事はできませんか……サンドベル。私に力を」
アンジュが剣を両手に持って顔の前にかざす。
あっやばいこれ。
一度だけ見せて貰った事がある。
空間を斬る技。
よく達人で空気を斬る。と、いう技があるが、アンジュのはその上、空間そのものを斬る。
防御不能の絶対奥義。
今考えれば、裏アーカスに借りた剣。あれも空間の切れめが見えたしその系統とだろうな。
効果範囲は扇のようになっていてアンジュから前方に広がる。
「亡霊よ! スタン家は私の命を持って」
「待って」
「待ちません!」
やっと返事をしてくれたと思ったらこれだもん。
俺は腰を落としてアンジュの剣を握りしめる。
理論上は俺も同じ技をできるはずだ。
だって逃げれる場所ないもん。
ジャンプ、人はそんなに高く飛べません! はい無理。
地面に穴掘る、間に合わない。掘ってる間に動と体が離れる。
腰を落としての居合切りの構え、アンジュの魔力を正確に読み取らないといけない。
アンジュの周りの空気が揺らいで見えると剣先に乗って居合切りを放ってきた。
俺も同じタイミングで剣先をふるう。
少年漫画であれば見開きで次回へ続くシーンとなるだろう。俺もアンジュも剣を振り切ったまま固まり、数秒遅れてアンジュが立っていた墓石が崩れ落ちる。
俺の周りは左右の墓石が綺麗に真っ二つに斬れただけで俺自身は平気だ。
アンジュが斬る。という技なら俺のは未熟で破壊。と言った所か。
アンジュの方を見ると墓石から落ちて仰向けで上空を見ている。
力尽きた。という感じ。
「こっちは、平気だよな……」
おそるおそる腰を曲げる。
知ってる? かの有名な漫画は悪党は斬られた感覚がわからなくて、1歩2歩歩いた時に胴と体が崩れて落ちるのよ。
俺だっていきなり『ひでぶぅ』となって死にたくない。
もしくは数歩歩いて後ろを見ると腰からしたが残ってるとか。
一応『癒しの水』をあちこちに唱える。
「大丈夫かな……」
アンジュが空を見ている。
その場所に歩いて行くと俺を見ているのに俺を見てないような目だ。
「亡霊でしょうか……死んだと聞かされてますし。いえ……もういいです。私の体、命であれば好きに」
「いや。アンジュの体っても見た目若いけど、今っていい年だよね、だったら師匠のほうが」
「はぁ!?」
アンジュが突然に起き上がって俺のズボンを掴む。
俺がしゃがむと胸ぐらを掴んできた。
俺が15歳の時点でアンジュの性格な年齢は知らないけど30手前としてだ。そこから5年たってるし、なんだったら親父の愛人だよ?
さすがにママとは呼べないがスタン家の裏の家長よ。
5年前の記憶が戻った直後ならともかく、死にそうなほど叩きのめされた相手にさぁ抱きなさい。と言っても無理があるよ。
いや、本当に見た目はわかいけど……やだよ俺だって。
「女の私に恥をかかせるんですか!?」
「その前に俺の先生だからね」
「意味がわかりませんが……」
「それよりも、周りヤバくない?」
俺とアンジュが立っている周りの墓がやばい。
崩れるか斬られている。
「ど、どうしましょうか!?」
「いや、俺に言われても俺が壊した墓石はアンジュが乗ってた奴だけだし。殆どアンジュが壊したんだけど」
「そ、それは……その……そうです。亡霊と戦うのに仕方が無かったのです……」
共同墓地の出入り口に人影が見える。
「うわああ! 墓石が壊れている!!」
麦わら帽子をかぶったおっさんが驚いた声だ。
まだこっちには気づいていない。
「逃げよう」
「し、しかし!」
「じゃぁ俺は逃げるけど、アンジュこれ全部弁償かぁ。何十年かかる知らないけど頑張って」
「そ、それは……」
俺は倒れたアンジュに手を差し伸べると、アンジュは迷った末にしぶしぶな感じで俺の手を握った。




