第226話 クウガ流イケメンの口説き方
帝都在住2日目。
部屋はどこでもいい。とサンに伝えたらクウガと相部屋となる。
そのクウガは豪華な部屋で寝泊まりしていた。
天幕付きのキングサイズのベッドに大きなテーブル。
毎日取り換えられるシーツ。
常にある新鮮な果物に常温でも日持ちする酒とパン。
もちろんこれも毎日取り替えてくれるとの事。
「サービスやばいな」
もしかして、毎日女の子も日替わりでつくんじゃないの? と思ってしまうほど。
「あの……僕も一般兵士と同じ部屋でいいって言ったんですけどね……」
「結婚はしてないとはいえサンの赤ちゃんの父親だもんな。一般兵と同じ都はいかないだろ、まぁこれじゃクウガの好きな女遊びも出来ないな」
「ええ、お掛けで毎日部屋を抜け出すのが大変で」
「え?」
「え? ……冗談です冗談」
「お、おう」
深くは聞かないでおくか。
ハーレムの呪いが解かれても、クウガの性格がダメなのでは?
現にクウガはしまった! という顔をして頭を横に振る。
「それよりも、メルさんとの仲はどうなったんですか!」
「それ聞く?」
「はい!」
嫌味の無い笑顔だ。
逆に殴りたい。
「現状維持」
「やっぱりプレゼントなどしないと……一度も無いって」
「おまっ! ど、どこでその話を!?」
俺がプレゼントをしてない話なんて3人しか知らない。戦闘狂の皇子とサン。あとは横に居たメーリスだけだ。
皇子アレキにはあれ以来あってないし、クウガあってるとは思えない。と、すると犯人は2人。
その2人とも忙しいからと公務などにでていったきりだ。
会う時間なんて無いはず。
「え!? ええっと風の噂で」
「そういえば昨日の夜部屋にいなかったな……俺がソファーで寝てたら扉が」
「気のせいです。気のせいのしてくれたら僕が色々考えますが」
「気のせいだな」
細かい事は考えなくて良さそうだ。
近くのソファーに座って鼻歌交じりに果実酒を開ける。甘い匂いが鼻まできては、氷で薄めて俺とクウガの分を作った。
「じゃっクウガ先生よろしくお願いします」
「先生って……。まずはデートですかね」
「はい却下ー!」
「ええ!?」
まったくもって話しならない。
陰キャが好きな女性を口説くのに1番最初にデートってもう終わってるしつんでる。
「デート前にする事あるだろ!?」
「ええっと、えっちですかね?」
「はいツーアウト!!」
デート前に出来るはずがない。
どんなイケメンだって無理な物は無理なはずなのにコイツ不思議そうな顔をしている。
「で、でも……その僕なんて気づいたらデートして気づいたらベッドに居ましたけど」
「どんな能力だよ! 世の中の男が全部それだとおもうな!」
いやまてよ。
「何ですか、その顔は」
「それってハーレムの呪いだったんじゃないの? 今でもできるとは限らないだろ、証拠が見たい」
「別に今したいわけじゃないですし……」
これだけモテない俺を煽っての言い訳か。
「ほう逃げるのか」
「逃げるって、クロウベルさん……」
俺とクウガが口バトルしてると部屋がノックされた。
クウガのほうが代表して「どうぞ」というと給仕服の女性が入って来る。
四角い眼鏡をしていて髪をまとめた30代前半に見えるメイドさん。
きつい言い方で「失礼します」というとテキパキとシーツや果物を取り替えていく。
見事な動きからベテラン。それもメイド長クラスの動きだ。
その動きを見とれているとメイドさんが立ち止まる。
「どうなされましたかお客様」
「いや。知ってるメイド長を思い出して」
「そう……ですか。その方に笑われないように動かなければなりませんね。少しうるさいでしょうか失礼します」
模範のような回答だ。
出しゃばりもせずに相手を褒める。
俺はクウガの腹を肘でつつく。
クウガは俺の顔を見て小さい声で「なんですか?」と聞いて来た。
なんでもなにも。
「呪いのせいじゃなかったらアレ落としてみて」
「…………クロウベルさん。女性をアレ呼ばわりはだめです。それに僕は――」
「女性陣には俺は一切話さない。たとえバレても俺が庇えば」
「………………わかりました」
何がわかったんだ。
精々呪いの力が無くなって軽蔑されればいい。
そんな都合よく。えっちとデートなんて出来ないっていうの。
クウガはメイド長さんのそばに行くといきなり抱きついた。
「お客様。お客様にはサン様。アレキ様。アリシア様。など沢山の人がお待ちしています。このようなメイドに抱きつかれてもメイドとしての仕事も出来ません」
「僕だって抱きつくつもりは無かったんだ。でも、そこにいる親友が僕なら貴方を落とせ。と」
うんうん。
俺が悪者か。
メイドは俺を見ては表情を崩さない、プロだな。
「では、お離れになってください」
「そうしたい。でも……でも……ごめん。《《今だけは本気なんだ》》」
よし!
いまだ殴られろ。
メイド長は銀色のトレイを持ってクウガの顔近くまで持っていく。
なるほど、あれで殴るつもりだ。
殴られるはずのクウガはそれでもメイド長をまっすぐに見てると、メイド長はクウガの顔とメイド長の顔が隠れる位置で銀色のトレイを止めた。
2人の顔はその銀色のトレイの顔に近づくと俺からは2人の顔が見えない。
見えない。
ぜええええったあああいキスしてると思う音が聞こえるが銀トレイが邪魔で見えない。
銀トレイが下げられるとメイド長の顔が赤い。
「大丈夫。彼が秘密にしてくれる。と言っているけど……全責任は僕が持つ」
「これ以上ですと姫様やアリシア様に嫌われてしまいます」
「魔王も倒した僕だよ? 僕はきっと貴方より子供だろうけど……その僕が貴方に惹かれたんだ……ダメかな……」
ここでクウガ俺をちらちらと見てくる。
俺は黙って立っていたのだがメイドさんはクウガを殴る様子はない。
メイドさんも俺を一瞬見た後にクウガの胸に抱かれて横を向いてしまった。
あーーーーーーー!
なるほど。俺が邪魔なのか! やっとわかったわ。
「う、そ、そうだ。クウガ俺ちょっとアリシアに話あるんだったわ! 多分……数時間は帰って来ないから」
「アリシア様でしたら城下町にある教会にいらっしゃると思います。往復で4時間はかかるかと」
「……どうも」
メイドさん詳しい場所まで教えられて俺は廊下に出される。
外に出された俺は扉を《《本当にゆっくりと力を入れて押すと》》、なんと鍵がかかってるじゃありませんか。
さすが出来るメイドである。
俺としてはもう4時間は時間をつぶすしかない……アリシアに会いに城下町に徒歩で向かった。
「ちくってやろ」
アリシアにチクるのではなくてサンにチクるのだ。
そう、俺は…………。
「貴方、何をちくる? 作るの間違いでしょうか?」
「うお!? サ、サン!?」
俺の背後からサンの声が聞こえたのだ。
あまりにも唐突で心臓が飛びてるかと思った。
「何ですか、人をお化けのように。これでも忙しいのですから……1人歩く貴方を見たので近くに来ただけです。所で……クウガさんはご一緒じゃ?」
「ああ、クウガだったら」
言葉を飲む。
俺がここで『クウガがメイドを抱いてます』と言っても誰も特はしない。しいて言えば俺の心が晴れるぐらい。
しかしだ。
メイドさんを口説け。と言ったのは俺で、最終的に俺が罰を受ける可能性が高い事に気づく。
天才か、俺……。
「あの。クウガさんがどうなされました? まさか《《また》》……そうならないように熟練のメイド長に世話をさせてますが」
「また。の意味がわからないけど……瞑想中だわ。俺との訓練で俺が勝ったからリベンジするのに魔力を練ってる。神経使う作業だから部屋を出て来た」
一瞬疑いの目を向けたサンをまっすぐ見ると、サンは小さい声で『そうですわね』と呟く。
「疑って申し訳ないと思いますわ。貴方もクウガさんにも謝罪を」
サンが俺に頭を下げて来た。
いよいよこのウソがばれたら俺の命が危ない。
「それよりも、まだ忙しいのか?」
「ええ。こちらの都合で王都に行く日をずらしてもらって申し訳ありませんわ。アリシアさんに会うのでしたらこれを。城下町で使える食事券ですわ」
思いのほかご褒美をもらった。
嘘をついてまで貰っていいか迷うが、ここで迷ったそぶりを見せると嘘がばれる。
「ども」
「…………何か変ですわね」
「なななな! 冷酷と思っていたサンからチケットを貰って驚いてるだけだ!」
「…………まぁいいでしょう、ではお気をつけて」
サンが俺から離れていく。
寿命が1年ぐらい減った気分だ。
これ以上城にいると大問題が起きそうで俺は逃げる。
久しぶりにアリシアの顔で見るか。




