第224話 大事な事は先に言いなさい
何度かの休憩と宿泊して帝都上空を飛んでいる。
見えるのは帝都グランパール。その近くの平地に飛空艇『デーメーデール』が着陸している。
「飛空艇があるんですけど?」
俺の独り言に戦闘狂のアレキ皇子が横に立つ。
「だから言っただろ。オレが王国に来る時にすれ違いになった。と。アレに乗ってる聖女であれば父の病気も良くはなっていなくても悪くはなってはずだ、もし悪くなっていたら処刑に」
何を言っているんだコイツは。
そんな事をしようとするならクウガが黙っていないし、クウガが黙るなら俺がアリシアを連れ出すわ。
『コメットⅡ改』はぐるっと旋回して空き地に留まるとうなりを上げて着陸する。
直ぐにアレキ皇子は出て行った。
俺は何も言われずに放置、残った兵士はあちこち点検し始め、俺のお尻を心配してくれた兵士と目が合った。
「あの。外に行かないんですか?」
「…………これって俺放置されてる?」
「多分ですけど……はい」
ふう……なんなんだあのクソ皇子。人を拉致しておいて用が済んだらポイだ。普通の人間なら怒るよ?
このまま俺が船にいると作業の邪魔らしい。
「一応聞くけど、王国に帰る時船使える?」
「申し訳ありません。許可がないと勝手に発進は出来ないのです」
「だよね」
があああ。
っとにあのクソ野郎。
勝ってに王国に帰れってか? ふざけるのも対外にしろ。
『コメットⅡ改』を降りて体を動かす。
そういえばこの世界エコノミー症候群とか気圧問題どうなんだろう。
上空に行けば空気が薄いのはわかる。
まぁいいか。
難しい事を考えるのは俺じゃない。
化学よりも魔法が発達してる世界だしなんとかなるんだろう。
さて……俺も城に入るか。
止められるかと思ったら案外止められなく、たまに睨んでくる兵士はたぶん前回の遺跡での戦いで敵だった奴だろう。
ここに長い時間いたら刺されそうなので足早に歩く。
って俺も城の中に詳しいわけじゃないので、比較的安全そうな兵士に声をかけてサンの場所を聞いた。
教えて貰った部屋の前に立ちノックをする。
部屋の中で物音がすると扉が直ぐに開いた。
「珍しいですわね。ノックをする人がいるだなんて……あら。貴方でしたか」
「よう」
少し髪が伸びたかな? お腹がしぼんだサンが出迎えてくれた。
「あれ。もう生まれた?」
「ええ、立ち話もなんですし。部屋でどうぞ」
「どうも」
サンのプライベートルーム。大きな食器棚に絵画、テーブルとソファー。奥の扉が寝室への入り口か。
特に変わった所もなくベビーベッドもない。
あれ、もしかしてその最悪の考えがよぎる。
「……暗い顔してますけど、子供は無事に生まれてますわよ」
「あったりまえだろ! うん、信じてたよ」
「嘘が上手いですわね。今の時間は乳母と共に外ですわね」
嫌味たっぷりの言い方だ。
「で。今回はなんですの? 飛行船ですか? 水の中に入る船です? まさか星を飛ぶ船を持ってこい。などと言いませんよね?」
「何もないけど?」
「嘘ですね。貴方が関係してわたくしの念願の夢は叶いましたけど、それ以上にトラブルを持ってくる。さぁ遠慮せずに言いなさってくださいまし、返答によっては打ち首にしますので」
途中まで良かったセリフに最後おかしい文章がついてる。
サンを思わず二度見するも、笑顔で黙っている。
「っとに何もない。ってか今回は俺が拉致られたほうだし。サンの馬鹿兄貴に」
「ああ…………いましたね。そんな兄も、いっその事死んでいてくれると良かったのですが『コメットⅡ改』を私物のように使いイライラしていた所ですの」
「そ、そう……」
俺はここ最近に起きた事をサンに伝える。
皇帝の病気を治すのに秘薬を探し、その秘薬を手に入れた事によって帝国に来た事をまとめて話した。
話し終わる頃に扉が開くと、鍛冶師メーリスが赤ん坊を乗せたミニベビーベッドを押して帰ってくる。
「たっだいまーってアレ、久しぶり今日は何の用? 新しい武器の制作? それとも新しい武器の発案? 良いのあったら教えてよ、君の考える武器ってどれも斬新で面白いのよね」
「紹介しますわね。乳母のメーリスさんです」
「ども! サンさんの右腕ならぬ再就職した乳母でーす」
なんとも明るいテンションだ。
「ええっと、おめでとう?」
「ども! いやぁ色んな武器発案していたら色々問題あったらしく困っていたんだ、以前見せた爆裂剣あるでしょ? 使い手が悪いのに爆発事故起きちゃってさー、じゃぁ魔石銃の試作品だしたらこれも暴発して、大問題まいったよ」
確かに俺の知ってるゲーム内でのメーリスは、銃や大砲。魔法使いをしのぐ武器をドンドン開発していたもんな。
ゲーム内ではクウガ達しか使ってないが、実際はそうもいかないだろう……。
「まぁいいや女性2人もいるんだ。2人とも何が欲しい?」
「何ですか突然、頭に虫でも湧きました?」
「はいはい! お金!」
うん。人選を誤ったみたいだ。
1人は辛辣で1人は現実主義すぎる。
俺はマジックボックスのポーチからミレニアム金貨を1枚取り出すとメーリスの手に乗せる。
「え。うわっまじで?」
「いや、欲しいんだろ?」
「そうなんだけど……本当にくれるとは。うわぁ別なの頼めばよかった……」
「欲しいのをあげたんだ、少しは嬉しく」
「逆にどん引くよ。あっでもこれは返さないけど」
メーリスがポケットに金貨をしまうのを確認してサンが俺に話しかけてくる。
「何のたくらみです?」
「実は俺が師匠に何もプレゼントを贈った事が無くて……女性の意見を聞きたかったのと、2人には世話になってるし何欲しいかなって」
「貴方……あれだけメルさんに好きだ好きだ。と言っておいて何もアプローチしてませんの?」
兄妹揃って俺を攻撃しなくても。
「はい。すみません」
「……別に怒っているわけではありませんわ」
「釣った魚には何もあげないってやつー? あっでも君はまだ釣ってもいないもんね」
メーリスが追い打ちをかけてくる。
「いや本当にごめん」
「私に謝っても……って事でサンさーん。何か意見ない?」
「なぜわたくしですの?」
「クウガ君からお土産もらって嬉しそうだったし」
突然の爆弾発言にサンの顔が一瞬赤くなる。
直ぐに真顔になってメーリスの方を見た。
「貴女だって貰っていましたわよね」
「うおっと、私が貰ったのって珍しい魔石だし……」
「わたくしだって、レア鉱石から作ったスパナですわよ、それをメーリスさんが貰って嬉しいとは思いませんけど」
さすがは、種馬クウガである。
アフターケアというか天然のたらしである。
この勢いなら、メーリスとも子供が出来るんじゃないかな。
「でも、本当に欲しいのないの?」
「そうですわね……帝国の世界征服」
「こわっ」
「この子が大きくなり領土問題は避けたいですからね」
あの皇女サンが優しい顔で改造ベビーベッドの中の赤ん坊を見ている。信じられない。
「貴方……いま信じられない。って言おうとしましたわよね? 何ですか、わたくしが平和を望むが信じられないと?」
やっば。
「お、怒ってる?」
「いいえ? 質問してるだけです。今さら貴方が何を言おうが怒っても仕方が無いので怒りません」
「あっ本当? 怒られるかと思って黙っていたんだけど、王国でデーメーデール見たいの飛んで来てさ。中は無人だったんだけど2号機作った?」
サンの手からカップが落ちる。
大理石っぽいテーブルの上に落ちてヒビが入ると真っ二つに割れた。
俺の体をメーリスが捕まえる。
「え? メーリス何?」
「いいからいいから。サンさーん準備できたよ」
「ありがとうございます」
サンの手には鉄も飴細工みたいになる特性グローブがはめられている。
「なんで今嵌めるのかなー……」
「先に言っておきますが、娘がいるので静かにしてくださいね」
「おっ娘なんだ……」
世間話でピンチを切り抜けたいがサンは俺のこめかみをアイアンクローすると力を入れて来た。
いいいいいいいいいっ死ぬ! 死ぬ!! 頭われるって。




