第221話 謎の無人船
飛空艇が庭に着陸するとそのまま停止した。
何時まで経っても出入り口が開かず誰もが息を飲む。
「ドアホウ」
「わかってます」
師匠が俺の名前を言う前に動き出した。
出入り口の扉まで走って行き、硬く閉ざされた扉を叩く。
それでも開かないので水槍を唱えた後にアンジュの剣で強引に破壊した。
中に入るとかび臭い感じが俺の鼻を襲う。
「誰もいませんね」
耳元で息がかかるぐらいに近い声が聞こえ俺の心臓は止まったかと思った。
「うおおおおおお!?」
「うああああ!? 先生!? て、敵ですか。下がってください!」
俺を押しのけてフォック君が前に出た。
誰もいないとわかると俺の方に振り替える。
「誰もいませんけど……何か見つけた悲鳴でしょうか?」
「フォック君気配消した?」
「いえ? 普通に先生の後ろにいただけですけど」
話を聞くと俺が扉に向かったので後をついて来た。との事。
本当に気づかなくて焦った。
「まぁいいや……俺は右側から見るから左から見てくれない? 迷う事も無いとは思うけど」
「先生の命令ですね!」
「いや、お願い」
わかりました! と元気に返事してフォック君は左側を走って行く。
「さて……」
俺も右側から回るもどの部屋も使ってないのかほこりが凄い。
そして誰もいなく所々壊れている感じがした。
最終的に操縦室に入るが、そこも誰もいなかった……。
「まさにホラー」
誰の返事もないので操縦桿の周りを見る。
赤いボタンが点滅しているぐらいだ。
押したい。
でも俺は押さない。
つい最近、過去に戻れる秘宝のスイッチを騙されて押したばかりだ。
「先生左側には何もありません! あれなんですか、このボタン」
フォック君が俺横に来ると、ためらいもせずに赤いボタンを押した。
モニターが付くと、デーメーデールにある4連砲が上空にむく、物凄い重低音がし目掛けて一気に発射した。
コックピットが大きく揺れ、震度4ぐらいの揺れが収まる。
モニターの外では空の雨雲が全てなくなり聖都タルタンの天気は晴天になった。
俺もフォック君も無言だ。
「先生! ど、どうしましょう!?」
「え……いや。怪我人はいないみたいだから……今度から触らないように……」
やばかった。
4連砲が下を向いていたら聖都タルタンは消滅である。
俺の手で師匠を殺す事になる可能性があった。
「とりあえず。誰もいないし外に出るよ」
「は、はい」
俺とフォック君が外に出ると、妊婦のアンジェリカが笑顔で立っている。
「あれ、お早いお帰りで」
「どうも!! 何所かの誰かか上空に砲撃するから馬車を飛ばしてきましたの!!」
激おこだ。
俺の背後からフォック君が前に出る。
「副隊長すみません。僕がボタンを押したばっかりに危ない事になりました。責任もって除隊でも懲罰、それで足りないのであれば命を持って」
フォック君はもう土下座である。
アンジェリカはフォック君を見下ろすと俺を見てみた。
「最低……うちのフォック君に罪を擦り付けて」
「はい? いや、俺じゃないし」
「アンジェリカ副隊長。僕がやったんです!!」
アンジェリカは静かにしゃがむとフォック君の肩を触ってる。
「うんうん。そう言えって言われたのよね? 大丈夫よ、処刑台に送るのはクロウベル君の方だから」
「ち、違うんです! 先生じゃなくて――」
「大丈夫よ、ほら起って。クロウベル君、今回は天気ぐらいしか変わってないからいいけど、あれが街に言っていたら友人と言えど庇いきれないからね。じゃっフォック君向こうで中の様子を教えて、本当クロウベル君って問題起こすよね……」
俺が起こしてるわけじゃないし、そう怒らなくても。
アンジェリカはフォック君をつれていってしまった。
俺と入れ違いに他の聖騎士隊が飛空艇の中に入って調査に入る。
何人かの聖騎士隊からは「どんまい」など肩を叩かれて奥に消えていく。
一気にやる事が無くなった。
俺はもうする事がないので師匠の所に行くと師匠が「先ほどのは危なかったのじゃ」とだけ短く言う。
「そうですね……」
「なんじゃ、暗い顔をしてなのじゃ」
「クロウベルお兄ちゃん、もてない世界を壊そうとしたのね。暗い、根暗、隠キャなのね」
「いやしないからね……」
暗い顔も何もアンジェリカと同じく師匠やセリーヌも俺がやったと思ってるのだろう。
「でもセリーヌはあの魔力が空に向かったのを見たわ! 凄いのねあれならセリーヌの羽をちょっと傷つけれると思うの」
あれでチョットなのか。
「とにかく撃ったのは――」
「ドアホウじゃないんじゃろ?」
「ふぁ!?」
驚いて変な声が出た。
セリーヌも『あら?』と驚いた顔をして師匠を見ている。
「し、師匠…………」
「声まで聞こえなかったのじゃが、小僧の動きやドアホウの動きを見て先ほどの撃ったのはドアホウじゃない。と思っただけじゃ。それとも本当にドアホウが」
「いやもう、師匠好きです」
「………………安い告白じゃな。で?」
で?
いや、好きです。って言ったら『で?』は俺も困る。
「もっと好きですよ」
「…………ワラワはあの飛空艇の中の様子を聞いているんじゃが!」
「ふふ」
師匠の息が荒い。
そんな興奮しなくてもいいのに。
「ああ! 中は誰もいなかったです。使われていた様子もなかったですし……自動運転ですかね? 俺が知ってるデーメーデールには無かったような」
「はよ説明しろなのじゃ……あの小僧はともかくアリシアは無事でいてくれるといいのじゃが……」
「ですよね」
クウガはまぁ仕方がないとはいえ、アリシアは幸せになってほしい感はある。
メインヒロインだし……。
メインヒロインなのに現実の人気投票では別に1位じゃないし。
幼馴染属性の聖女だけじゃ人気は少ないのだ。
明確なランキングは開催されなかったけど、上位は師匠はもちろん上位にいたし、皇女サンなども上位にいる。
すっかり成長したけど1年前のノラやミーティアなどもまぁまぁ人気。
「ゲームそのものが風呂敷広げすぎて倒産したメーカーだしな」
「…………突然何の話をしてるのじゃ?」
「いえ、独り言です」
「今の聖女は『アリシア』って言うのは覚えたわ。きっと可愛い子なのよね、セリーヌ会って見たいわ」
セリーヌは会ってみたいと言い出すし、心配なのは俺も同じだ。
「見にいきます?」
「どこにじゃ?」
「北の迷宮」
ラスダンだ。
現在行方不明のクウガ達が多分いる場所、無人で飛空艇が戻ってきた以上取り残されてる可能性も高い。
「移動はどうするのじゃ?」
「明日くる皇子の船を奪って」
「人間の事良くは知らないんだけど、奪うって悪い事じゃないのかしら?」
十分人間の事を知ってるセリーヌがからかって言ってくる。
「別に正義に生きてるわけじゃないからいいの」
「じゃぁセリーヌも悪い事していいのね!」
「あっそれは駄目」
「なんでなのかしら?」
規模が違う。
「セリーヌの悪い事って人を食ったりでしょ?」
「人だけじゃないわ、本気をだせば街の一つぐらいいけるわ!」
凄い嬉しそうに喋る。
「余計にたちが悪い」
「先ほどの魔力砲ならセリーヌ、メルを守れるわ!」
「それは嬉しい。なら誤爆しても大丈夫! ってなるかーい」
俺のノリツッコミをセリーヌにぶつける。
セリーヌは「ふふ、ベルお兄ちゃんは面白いわ!」と喜んでくれた。
そのまま師匠の方を見る。
「なんじゃ?」
「いえ」
「ああ! ドアホウは面白いのじゃ」
師匠のトーンは無茶苦茶真顔である。
「辞めて」
「ふっ」
師匠が鼻で笑った。




