第220話 今までウソは付いた事ないです
無事聖都に戻りアンジェリカの屋敷へと戻る。
俺にできる事はこれで終わり、帝国へはアンジェリカ経由で連絡を入れて貰い数日後には戦闘狂の馬鹿皇子が来るだろう。との事。
小雨降る中俺は庭先に座っている。
別に地面に座ってるわけじゃなくてちゃんとテーブルとイスがあっての場所だ。
その目線の先では雨の中練習している隊員をぼーっと眺めてる最中だ。
「あら、クロウベル先生。練習には参加しないの?」
振り返るとすっかり安定期に入ったアンジェリカが俺に声をかけて来た。
俺は知らないけど動き過ぎだけどな。
普段は君で呼ぶのにサボってる俺を見ての先生呼びだろう。
「雨降ってるし」
「降ってるわね……え! まさかそんな理由で参加しないの!? 一応ここにいる間は師範役してるのよね!?」
「風邪引きたくないし」
「大丈夫よクロウベル君なら絶対にひかないから」
どういう意味だ。
に、してもアーカスと似てる。
お腹が大きい所以外アーカスだよ本当。
「ここで綺麗なアンジェリカと一緒に見てるのが一番いいよ」
「何? 口説いてくれるの?」
「口説いて欲しいなら口説くよ」
「はえっ!?」
お姉さんぶっていたアンジェリカが変な声を上げた。
突然に小さい声になる。
「だ、だってクロウベル君ってメル様一筋よね」
「だって師匠振り向いてくれないもん」
「ほう、それは良い事を聞いたのじゃ。ワラワの肩の荷も下りる」
突然の声に振り替えると師匠が俺の横に立っていた。手にはティーカップを乗せたトレイを持っている。
「嘘です! 嘘!! 捨てないで師匠!!」
「離すのじゃ! 離せっ!! のわああ! こぼれるし、そこは殺すぞ!」
腰に必死にしがみ付いて離れないようにすると、最後には脳天に痛みが飛んで来た。
「いっ!」
見ると杖を持った師匠の息が荒い。
「飽きれた。クロウベく君はメル様といるのが丁度いいわ……ちょっとだけ期待したのに、じゃっ私は忙しいから書類仕事してくるわね、どうにも帝国の皇子様、飛空艇で飛んでくるらしいのよ……それの打ち合わせ」
飛行機という物が無いし、空飛ぶ物体が飛んで来たら一般市民は驚くもんな。
アンジェリカが席を立つとその場所に師匠が座る。
トレイに乗った2つのパンのうち1個を俺は手に取って口に入れた。
「ドアホウも普通の人間相手の方が良いじゃろうに……」
「俺みたいな変態は師匠が一番いいんですよ」
「言葉に引っかかる言い方なのじゃ、ワラワとて変態が好きなどではないのじゃ?」
俺は師匠が変態な方が好きなんだけど、黙っておこう。
耳が長くて何百年も生きて魔法通なだけで十分変態な方に入るんだろうけど。
残ったパンは師匠が食べ小雨の練習を見ては時間をつぶす。
泥だらけのフォック君が走って来る。
「先生今の見てくれましたか!」
やべえ。
全然見てない。
「見てたよ。その強い一撃だった」
「ですよね! 先生から教わった踏み込みを意識しました」
「うん、教えた事ないけどね」
「先生の動きを見てました!」
「そ。そう……」
嬉しそうにフォック君が俺に報告してから戻って行く。
「師匠確認したいんですけど、フォック君は男の子ですよね?」
「……なにを」
俺はフォック君の動きを見たまま師匠に話しかけている。
線がほそく他の隊員に背中を叩かれては転びそうになって笑顔が見えた。
「いや、俺が過去から戻ってくる前は男だったんです。で……戻って来たら女の子になっていたらどうしようかなって」
「十分男じゃろ。確認したいなら触って来るのじゃ」
「それやったら俺変態ですよね?」
「元からじゃ?」
酷い話だ。
「まっこれで帝国に行けばひとまずはやる事終わったかな?」
「何がおわったの? セリーヌ知りたいわ」
いつの間に来たのかセリーヌが横に来ていた。
俺が気付かないわけじゃなくて、気配を消して来たのだ。
師匠も一瞬だけ驚いた顔をしてたし。
テーブルが高いのか少し跳ねてテーブルの上を見ている。
師匠がセリーヌを抱きかかえると自らの膝に乗っけた、まるで親子のよう。
「そこは姉妹じゃろなのじゃ」
「まだ何も言ってませんけど!」
「セリーヌがお母さんね。メルギナスそんなに歳をとって孫はまだかしら?」
セリーヌがママ役をするのを見ると微笑ましいが、実際年齢順でいうとそうなんだろうな。
「誰が孫じゃ誰の!」
「痛いわ! セリーヌの頭が取れちゃう」
師匠のこめかみ攻撃を受けてる竜の化身と見ると笑える話だ。
雨が段々と本降りになって行く、それでも兵士の訓練は終わらない。
雨音が激しくなってくるので、ぼそっと言ってみる。
「師匠俺と子作りしません?」
「良いのじゃ」
「まぁだめっす――」
俺は慌てて師匠を見る。
師匠よりもセリーヌと眼が合う。
「なんだセリーヌの声真似か」
「いやワラワじゃよ。前も言っているのじゃがドアホウが本気でワラワの事が好きなら短い人生じゃ」
「…………ムードが無い、師匠が俺の事を好きになってほしいんですけど。事務的な行為は嫌なんですけど」
これじゃ素人なんちゃらと同じである。
やっぱり愛が欲しい。
お金払って遊ぶのと違いないからね、むなしいよ全く。
「なぜワラワが切れられるのか謎じゃな。そこまで言うならワラワを惚れさせてみるのじゃ」
どうやって?
「師匠好きなタイプは?」
「嘘をつかない奴じゃな」
「じゃぁ俺っすね」
目の前に杖があった。
先端から魔力があふれている。
「み、水盾・連!!」
両手を前にして水盾・連を発動させる。
椅子に座っていた俺であるが中庭に吹き飛び両手を前にしたまま固まる。
水盾で防ぐのではなく斜めにして魔力を上空に吹き飛ばした。
雨雲が晴れて青空が見えた。
屋敷のほうからアンジェリカが走って来ると師匠に激怒してるのが聞こえてくる。
「先生凄いです!!」
俺の方にはフォック君が走って来た。
あっぶね、本気で死ぬかと思った。
「え? ああ……い、いついかなる時でも不意な事は起きるから」
「勉強になります!」
飛んで行った雨雲が再び集まってくると小雨が戻って来る。
えぐれた地面は聖騎士隊が直し始めたので、師匠のいた場所へと戻る事にした。
「あの。俺死にそうなんですけど」
「死ななかったじゃろうに、それにラストエリクサーがあるじゃろ?」
「ここで使いたくないですし……あれ、アンジェリカ書類仕事しにいったんじゃ」
俺が椅子に座ると息を切らしたアンジェリカが笑顔で怒りだす。
何事かと思って走って来たっぽい。
「あのね……いやもういいわ……イチャイチャするのは良いけど問題は起こさないで欲しい……これから教会にいくから、何かあればフレイを呼んで頂戴」
疲れ切った顔に変わったアンジェリカは他の隊員とともに馬車に乗って屋敷から出ていく。
「ふふ。2人とも怒られたのね」
「全く師匠のせいです」
「ぬかせなのじゃ。ステリアのほうがよっぽどいい男じゃったな」
イラ。
俺の前世の顔でアーカスの彼氏。
師匠と名前で呼び合う仲になっていて魔法が得意な奴。
アーカスが有名すぎて名前しか残ってないが賢者と言われたとかなんとか。
「もしかして師匠ってアーカスがいるのにステリアを寝取ったんですか?」
「するか! ワラワを何じゃと」
「セリーヌ思うの、このままだったら2人ともまた怒られるわよ?」
セリーヌが突然指をさした先にアンジェリカの妹、シスターフレイが柱の影から顔を半分だして、ジトっと見ていた。
俺と師匠が椅子に座りなおすと、その顔がゆっくりと消えていく。
「大声は辞めましょう」
「どの口が……まぁそうじゃな」
「ふふ、子供みたいだわ」
外見が一番子供のセリーヌ言われると少し恥ずかしい。
よく見ると庭先にいた残った聖騎士達も俺達の動きを見て訓練を中段していた。
椅子に座りなおしたら突然に訓練を再開したのだ。
空のはじに黒い点が見えた。
段々と大きくなると練習していた聖騎士達もざわめき始める。
飛空艇『デーメーデール』にそっくりだ。
「飛空艇じゃな」
「あっ俺の身間違いじゃなかったか……ってか」
小型飛空艇はともかく『デーメーデール』はそれなりにでかい。
ゆっくりと旋回すると庭先に降りようしてきた、もう地上では聖騎士や屋敷の人が大慌て。
柱の向こうにあった部屋からシスターフレイも慌てて出てくると「何事!?」と叫んでいる。
「ふうん。これが人間の考えた空飛ぶ船なのね。弱そうだわ」
「強い弱いの話じゃないし」




