第214話 時の城
部屋に1人っきりになった。
最初は俺とステリアが一緒だったのに、俺がうとうとしていたら部屋から出て行った。
きっとアーカスの部屋に行ってやる事をやってるのだろう。
いやいいんだけどさ……俺も師匠とイチャイチャしたい。
と、言う訳でベッドから出ると誰もいない廊下を確認して部屋を出る。
師匠の部屋は三つ隣だったはずだ。
まだ正式なパーティーじゃなく部屋は別に取ってある。
俺は小さくノックをする。
別にこれは夜這いではない、今後の事を相談したいだけなのだ。
返事が無いのでもう一度ノックをする。
鍵穴から部屋を覗く。
ドアノブを静かに引っ張ってみる。
扉に耳をあてて中の様子を聞いてみる。
「………………何か聞こえたのじゃ?」
「それが全然って!? 師匠! っとメルさん!?」
口癖でつい師匠呼びをしてしまう。
「いや、それよりも何で師匠が廊下に。ほわっ!? 部屋にいないんですか」
「………………」
師匠は俺の質問に答えずに黙って俺の顔を見ている。
「あの? 嫌いにならないで!?」
「ん、ああ……用があるのじゃろ? お主が部屋をノックしてる時から見ていた」
「だったら早く声をかけてください」
「どうするのか気になってなのじゃ」
師匠は部屋の鍵を開けると俺を個室に招いてくれた。
部屋の中は俺の泊っている部屋よりも狭い1人用である。
ベッドが1個に姿視の鏡。テーブル。水差しぐらいしかない。
あと杖や本。小瓶に食べかけのパンや飲み残しのスープの器などが床に落ちている。
「汚っ……まぁそれもそうか。あの俺の座る場所作るんで触ったらダメな奴だけ教えてくれれば」
「…………」
「師匠?」
「……メルと呼ぶのじゃ。その辺の奴は触っても平気じゃ。あとそのビンは毒薬。その短剣は売り用の奴」
「うい」
小瓶は並べ、短剣や杖も丁寧に机の上に置く。食べ残したスープは捨てるとして、食べかけのパンは俺が食べた。
捨てるにはもったいない。
丁度小腹が減っていたし床に落ちてるやつだし大丈夫だろう。
「で、メル……さん。この辺に秘宝が取れるダンジョンないですかね?」
「深夜に尋ねてきてそれなのじゃ……」
「それ以外に無いんですけど。アーカス達じゃ知識に乏しそうだし。俺が知ってる師匠なら何か知ってるかも。と」
なんていったって魔女なんだし。
師匠はベッドに座ったまま腕を組んで瞑想し始めた。試案してるのだろう。
「レイアラント大陸にある迷宮に古い神竜がいると聞いた事があるのじゃ」
「却下で」
それ絶対にセリーヌ。
手を繋いで遊ぶにはいいが、あんな邪竜に相談してもいい結果が見えない。
「むぅ」
「色々あってそこの竜とは関わりたくないんです。はい」
「なるほど……なのじゃ。お掛けで行く気が失せたのじゃ……であれば時の城がこの辺にあると言う。それであれば何か――」
「ああああああああああああ!!」
「な、なんじゃ!?」
俺が大声を出したら、部屋の扉が突然開いた。
師匠の部屋の中に倒れ込んではいるアーカスと、その後ろでは頭をかいては肩を落とすステリアがいる。
「あいたたた……な。何突然大声を上げるから扉あけちゃったじゃないの!」
見た感じ覗きをしていたアーカスの逆切れである。
ちらっとステリアを見ると俺と目が合った。
「すまない。廊下でのぞき見してるアーカスを見つけ、引っ張ろうとしたのだが、先に扉が開いた」
「てへ」
アーカスは舌を出して謝る。
「だ、だってええ。メルさんの部屋にクロウベル君が入ったのが見えたんだもん。部屋を掃除したと思ったらメルさんがベッドに座るし。その……なにするのかなぁって、いよいよと思って」
何がいよいよなんだ。
まぁアレよね、男女燃え上がる奴。
「何もせんのじゃ! さぁ我は寝る。出てけなのじゃ」
察しのよい師匠の言葉で俺もアーカスも部屋から追い出された。
アーカスからコレからって時にごめん。と謝られたけど、別に期待するような事はたぶん起きなかっただろう。
「ムードじゃないし……それよりも話に聞いていたより思いっきりどすけべなのはわかった」
「!? ち、違うし。ちょっと興味があっただけよ。ねぇステリア……あっいない!?」
ステリアなら先に部屋に戻ったのが見えたよ。
「そ。それじゃおやすみなさい」
アーカスは俺から逃げるように部屋に戻って行った。
俺もとりあえずは戻るか。
明日の行き先は決まった、さすが師匠である。
師匠が言った時の城。
それこそが、ナイが住んでいた蜃気楼の古城だろう。
あそこには色々な本などもあったし秘宝の一つや二つあるかもしれない。
しかも、師匠が竜の存在を言わなかったって事はあの城は現在誰もいないはず。お宝が取り放題ってわけだ。
俺は部屋に戻るとすぐにベッドにもぐりこむ。
――
――――
翌朝、俺は皆が起きる前に湖にいきボートを出して奥に行く。
前日まで、いやさっきまでは。
「さぁ乗り込むぞう! って気合入ったんだけどなぁ」
なんせ古城の入り方がわからない。
近くの陸地にボートを繋いで1日ぼーっとする、気づけば周りは霧に囲まれていた。
「おっと……これはこれは、来たか?」
アンジュの剣を腰に付けもう一度湖の中を進む。
俺が思っていた方向に先ほどまでなかった陸地が見えると立派な古城が見えて来た。
さすが師匠である。
俺がすっかり忘れていた場所を覚えているとか。
島に渡って一歩目で出て来たカイザーアイの群れを斬り倒す。
…………霧の中で切り倒す。
1人馬鹿な事を考えながらの戦闘だ。
飛んでる大目玉なんだけど、以前に戦った事あるし、割と余裕だった。
前に見た時よりも壊れていない城へ入るとまっすぐに宝物庫に向かった。
場所はナイと一緒にいた時に行った事があるので道も迷わない。
廊下にある左右のたいまつがゆらゆらと明るさを照らしている。
誰もいないのに大層なお出迎えだ。
俺1人しかいない廊下をコツコツと音をたてながら歩き宝物庫の前まで来た。
当然というか鍵がかかっている。
「おかしいな。前に来た時は壊れた鍵で開け放題だったのに……おかげで宝は既になかったし」
アンジュの剣を取り出しては鍵穴に突っ込む。
それはもう強引に。
「鍵穴が『らめえ』って言っている。『もうねじ込んであるハッハッハ』はっは……さて壊れたかな」
アンジュの剣を引き抜くと扉はそのまま開いた。
宝物庫に入ると宝石、魔力の感じる武具や装飾品がある。
下手に触って呪われたくないので目視で銀時計を探すが見当たらない。
奥の方の小瓶を持ち上げては戻したりしてゆっくり探すと突然に大きな魔力の流れを感じた。
思わず上を見る。
天井の向こうがわ、そして城が左右に揺れ始めた。
「地震か!?」
城の中で地震はやばい。
とりあえず、魔力の感じない金貨袋をマジックボックスに突っ込むと俺は慌てて廊下を走る。
その間にも壁に掛けてあったたいまつが廊下に落ち光を失っていく。
「やばいやばいやばいって」
必死で中庭にたどり着くと大きな城ならぬ尻があった。
思わず顔をつける。
「ひゃっ」
師匠は乙女らしい声を上げると背中をピーンとして固まる、直ぐに背後の俺を見ては、ため息をついた。
「あれ。不感症とか……?」
「お主、まずは手相を見せるのじゃ」
「はぁ?」
尻から顔を離して立ち上がり師匠に手相を見せる。
俺の手を優しく触る師匠の指に見とれていると、師匠の掛け声とともに俺の指3本がバキっと音共に反対側に折れた。
「っ!? うおおおおおおおおおおおおお!?」
師匠の手を振りほどくとあまりの痛さと衝撃に地面をゴロゴロ回る。
強制的にもう一度反対側へ戻し必死に『癒しの水』の回復魔法を連続で唱えた。
「なんじゃ……回復魔法使えるのじゃ?」
「はぁはぁはぁ……初歩ですけどね!! 何するんですか師匠!! いやメルさん」
「こっちのセリフじゃ!! 行方不明になって3ヶ月以上。突然に尻を触るとか、なんじゃ? 何がしたいんじゃ?」
え? 3ヶ月?
「いや今朝ついたばかりですけど?」
「むぅ?」
師匠が唸ると、遠くから何か落ちる音が聞こえた。
振り向くと大量の剣をもったアーカスで俺の顔を見ては驚いてる。
「クロウベル君!? ど、どこにいたの!? え? もしかしてずっとここに!?」
「アーカス。メル。これを見てくれ、ボスの部屋の奥にあった……何かの卵っぽい…………クロウベル君か?」
ステリアも俺の顔を見ては驚いているが、師匠の事を呼び捨ての仲になってる方のを知って俺の方が驚いた。




