第212話 剣に隠された文字を見た3人
宿屋の一室。
俺の手足は椅子に縛られており動く事が出来ない。
目の前には師匠とアーカスとクソもといステリアがそれぞれ俺を見ていた。
「オラわくわくすっぞ! これからどんなプレイが待ち受けているのかっ!」
3人とも俺の渾身のギャグに無反応だ。
「あっそうか、元ネタが知らないか」
「突然変な事言うから言葉に詰まっただけよ」
「我は何でこんな変態に助けられたのかなのじゃ。と頭を抱えたくなる所じゃ」
女性2人がそれぞれの感想を言うと、ステリアが2人に向き直る。
「メルさん。そしてアーカスもこのクロウベルさんに固執してるというかお節介かけすぎなんだよ……クロウベルさんだって予定があるだろ」
「彼記憶喪失よ、予定何てあるわけないじゃない」
本人を前にして俺の行動を決めらていて悲しい。
記憶喪失の振りした俺だって予定ぐらいある。
師匠を近くから愛でる事とか。
師匠の匂いを嗅ぐとか。
師匠のスリーサイズの確認とか、目視ではわからないが少し小ぶりなきもする。
「我は助けられた礼にソイツの欲しい情報を探すだけじゃ」
「私はクロウベル君がなんで私の剣を持ってるのか確認したいの」
「アーカス、僕は辞めて置いた方がいいと思うな。君のお節介は毎回ろくな事にならない」
ステリアがアーカスに注意するとアーカスが笑顔なんだけど不機嫌オーラが出て来た。
「私がしたいからするの、文句ありますかしら?」
「口調が怖いよ」
アーカスは俺の方を向くと、横に居たステリアがお手上げのポーズをして何も言わなくなった。
「さぁ! その剣はどこで?」
「知り合いから貰った」
「誰に?」
「言う必要は無いよ」
別に言っても良いんだけど、言った所で誰かわからないだろうし納得するとは思えない。
さらに言うと、会いに行く! とか言い出したらもう、どうやって? って話になるのだ。
「…………教えて?」
「嫌だから断るよ」
「お願い」
「無理だって」
おー。アーカスの顔が近い近い。
縄で縛られてるとはいえ不用意に接近しすぎる、俺がちょーっと顔を突き出したらキスできる距離だ。
「ちゅーしよっか?」
「ぶっは!?」
俺よりもアーカスの後ろにいたステリアが噴き出した。
「アーカス!?」
「ん?」
「突然何を言っているんだ」
「いや。押して駄目なら引いてみな? だっけ? お色気でどうかなって」
「いやぁ、別に脱いだとしても無理かな」
「ひっど。女の子にもてないよ?」
「1人だけモテればいいから」
俺は師匠の方を見ると、師匠はその後ろを振り向いていないはずの人物を探してる。
「じゃぁいいわ。少し見せて、それならいいでしょ? 1本と思っていた剣でも《《同じ店で買った奴かもしれないし》》」
「まぁそれぐらいなら。ってか拘束解いていい?」
「拘束取れるの?」
「取れるよ」
水槍の魔法を唱え手足のロープを切る。
「…………凄いな、精密な魔法だ……」
ステリアが褒めてくれるので、俺もその反応に返す。
「その代わり大きな魔法は使えないけどね」
手足を確認し俺はアンジュの剣を取り出してアーカスに見せた。
「壊さないから触っても?」
「まぁ……良いけど。でも今回だけにして。多分同じ人が作ったんでしょ」
剣なんて同じ人間が作れば同じようなのが出来ると思うし。
俺が昔読んだ漫画は、刀に真打や影打ちとか同じ刀身何本もあったよ。それで誤魔化そう。
アーカスは俺から剣を受け取ると、なぜか距離を取る。
アーカスは俺に背中を見せた。
カチって音がすると、突然横を向いてステリアを手招きしてる。
ステリアも俺に背中を見せて剣を見ているらしい、師匠がその様子を横目で見て眉をひそめ俺を見た。
声に出さないように口で『なるほどなのじゃ』と言っているようにも聞こえた。
もう一度カチっと音がすると、アーカスは振り向いた。
「ありがとう! クロウベル君、私の勘違いだった。この剣は偶然同じような見ためだけみたい」
「でしょ!?」
アンジュが俺にくれた奴だし、売ってもいいって言っていたぐらいだ。
アーカスは俺に剣を返すと黙って顔を見てくる。
「ごめん、好きな人がいて」
「別に好きだから見ていたわけじゃないですー!」
「そうなの!? 俺をじーっとみてるから」
「珍しい顔だなってみていたけよ、ねぇステリア」
「え? ああっ……こんな馬鹿見たいな顔はそうそういない」
「お互い様だな」
なぜに馬鹿にされないといけないのか。俺はステリアに反撃を返したがステリアは無言になる。
真面目な顔で俺を見て泣きそうだ。
「ごめんって、そんな黙るほどとは」
「え? ああ、いや……気にしないでくれ」
「はぁ……」
なんなんだ。
まぁこれで俺の疑いが張れたのであれば問題はない。
大手を振ってアンジュの剣を使う事も出来るし。
「じゃぁ次は、メルさんだね。怪我のほうは? お礼は別に大丈夫ですし」
「何、我を助けてくれた事は感謝するのじゃ。魔法使いなんじゃが魔力が切れての、逃げる途中に転んだのじゃ」
「おっぱいが大きくて?」
俺は師匠に対して可愛いツッコミをしたら場の空気が止まった。
「もう一度拘束かけて森の木の上から吊るしたほうがいいんじゃないのじゃ? 我の里では、頭がおかしい奴はそうしたものなのじゃ」
「木はないけど、宿屋の3階でいいかな?」
「良いわけがない、はい。俺が悪かったです。話をどうぞ」
俺はこの世界では第三者の人間だ。
師匠がアーカス達と打ち解けていって、魔法の話をステリアと楽しそうに話しているのを見ると、ちょっとだけ複雑だ。
師匠って好きだったのかなぁ……ステリアの事。
なんでも師匠は旅をしている魔法使いらしく、アーカスはせっかくだから? と勧誘し始めた。
ステリアはアーカスの言いなりで、どっちでもいいらしい。
「あれ? 俺勧誘されてないよ?」
「…………」
「…………」
「…………」
3人が俺の顔を見て突然に黙る。
なにこれ。
「いや。ホラーなんだけど、3人とも怖いよ」
「ご、ごめん。で、でもクロウベル君はやる事あるのよね? 一緒に行きたかったけど無理かなぁ、ねぇステリア!」
「僕に振らないで欲しい。……そうだな。冒険者じゃないのと一緒にいても金の分売でもめるだけだ」
「確かに。後、分配でもめないからね」
ちらっと師匠を見ると、師匠は腕を組んでは俺を見ている。
「まぁ何となくわかって来たのじゃ。暫く考えをまとめたいからこの街から出ない方がいいのじゃ」
「はぁ……」
なんだろ、この疎外感。




