第210話 うわあああああああ! し――
俺は再び聖王の墓へと来ている。
鉄格子の門を預かった鍵で開きその中に入ると、あの朽ちてない聖王が居座っていた部屋の中だった。
違うのはアレだけあった本棚が無い。
殺風景で幾つかの骨壺が置いてあるぐらいの違いだろうか。
「はい。クロウベル君が入りたがっていた聖王の墓。何もないでしょ?」
「無いね」
何か秘宝でもあるのかと思っていたら何もない。
元の時間軸ではあんなにあったのに。
「クロウベル君、僕からも聞かせて欲しいけど、何を探しているんだい? 冒険者ギルドでは時計みたいな事を言っていたけど、君の記憶と関係あるのかい?」
ステリアは布で骨壺を拭いては棚に戻す。
ここで馬鹿正直に秘宝のアイテム使って未来から飛んできました。って言ったらウソと思われるし、本当に思われても色々困る。
「時計に記憶を取られた気がするんだよねぇ……」
「そんな馬鹿な話は聞いたこと無い、嘘だな」
「私もよ、本当の事を話してくれれば助けれると思うの」
うん。
俺の嘘は簡単にばれてしまう。
ここはプラン2でいくか。
「別に嘘と思ってくれてもいいし、だから俺1人で探すから2人は本来したい事をしてもらえば」
「うわっ……助けてくれた恩人にそういう事言う人なの!?」
「アーカス。だから毎回困ってそうだからって変な人を連れてこないでくれって忠告してるんだ」
狭い墓の中で空気がピリピリする。
誰がどう見ても悪いのは俺だ、そうなるように喋ったんだけどさ。
後、アーカスのお人好しさは天然か。
恋人のステリアも大変そうだな。
「1人助けるのも100人助けるのも一緒。その気持ちは大事よ」
アーカスが自信満々に言うと外の様子がおかしい。
変な空気、いや魔力が来ると言うか。
アーカスよりもステリアが外を見始めた。
「アーカス。魔力がおかしい……魔族、魔物か来るかも」
「わかった。じゃぁクロウベル君、ここに隠れていてね」
2人はそう言うと墓を出て行った。
一応俺年上って話したはずなんだけどな、子供か。そして君達は母親と父親かな?
外に出ると顔はライオンで背中に羽の生えているキメランという魔物が5対ほどいる。
当然尻尾は蛇で、他のファンタジーではキメラ。と呼ばれる魔物。
マナ・ワールドでは可愛く『キメラン』って呼び方だけ変えてそのままだ。
俺が見てる間にアーカスは拳を使ってキメランは1体減り、2体減り、あっという間に5体を全部倒した。
その背後ではステリアは魔法を使っているんだけど……『補助魔法』かあれ? ステリアの魔法がアーカスに届くと爆速で動くからだ。
「盗み見かい?」
嫌味たっぷりのステリアが俺に話しかけてくる。
「盗み見だよ?」
俺の正直な答えに、ステリアは目を丸くして口を閉じた。
返り血を拭きながらアーカスが近寄って来る。
「珍しいねクロウベル君。ステリアの事が嫌いで喧嘩しては離れる人多いのよ? 私は好きだけどね」
「俺も嫌いだよ?」
「そうは見えないけど……?」
そりゃ我慢してるからだ。
それよりも。
「戦闘スタイルって格闘なの?」
「剣よ? 使ってないだけで」
だよなぁ。俺の知ってるアーカスは無名の剣二刀流だ。
「アーカス。呑気に話してる場合じゃない、急いで戻ろう……この場所でこの強さの魔物はやっぱりおかしい。街に何もなければいいけど」
「わかった。クロウベル君も行きましょ」
聖王の墓前で別れても結局は街に行かないといけない。
先ほどの問題は先送りで3人で小走りで街に戻った。
街のあちこちから火の手上がっていた。
目の前に出て来た豪炎猿。
火を扱う巨大なおお猿で、その体毛は燃えている。という強敵の一つ。
あんなの、ゲームだから倒せるんであって普通の冒険者や一般人なんて火属性の攻撃で終わりだから。
その豪炎猿がなんと3体。
その下には女性がうずくまっていた。
「アーカス! 俺が右」
「…………左。と……ステリア!」
「大丈夫。真ん中は僕が縛る」
変態発言をするステリアは置いておいて、アンジュの剣を出し豪炎猿の炎をかき消す。
死ぬ。
人間なんてすぐに死ぬからね。
「水影」
俺は水影を出して豪炎猿の注意を引き、その心臓部分に剣を突き刺した。剣先に硬いのが当たったのでこれが魔石だろう。
手首をひねって魔石を粉砕すると距離を取った。
豪炎猿は叫びながら炎を撒くので水魔法で消化する。
めちゃくちゃ地味な作業で左側を見ると、1匹目は既に死んでいて中央に影縛りをかけられた豪炎猿がわめいている。
その首をアーカスは横一閃で斬り落とした。
ステリアの魔法属性、闇属性が使えるのか珍しい奴だ。闇属性なんて魔族が得意としてるって習った事があるのに。
魔物を倒した2人が歩いてくると、アーカスは予備動作無しで俺に斬りかかって来た。
過去の、いや未来での裏アーカスの戦いを思い出す。
「なっ!? こ、殺すきなら俺も――」
「出してみなさいよ! その剣は何!?」
「はぁ?」
アーカスを蹴ろうとして回避された。
俺はアンジュの剣を見る。
うん、いつものアンジュの剣だ。
アーカスを見る。
アーカスもアンジュの剣を握りしめている。
うん?
「うん。目の錯覚だよ」
俺は剣をマジックボックスに直ぐにしまった。
見られては駄目そうなのを見られた。
「なわけないじゃない! この剣は世界に1本しかないのよ!? 何で同じの持ってるの!?」
「ま、まて見間違いだよ!? 剣なんて柄と刃があれば全部剣! 兵士が持ってる剣だってデザインは一緒でしょ?」
「じゃぁ見せなさいよ」
「…………やだ」
絶対に見せたくはない。
なんでアンジュの剣が過去のアーカスが持ってるとか、俺が知るわけないだろ。
確かにアンジュの剣って刃こぼれもしないし、あの剣聖アンジュが現役の時に使っていた。って言っていたから性能は良いと思っていたけどさ。
「ステリア」
「はぁ……仕方がない。影縛り」
俺の体が動かなくなる。
目線だけ何とか動けると俺の体が縛られた。
うおおおおおおおおお!
「あのね。俺は一般人だから影縛り使われるとうごかな……おお、ゆっくりでも動ける」
必死でアーカスとステリアから逃げようと、一歩一歩前に歩く。
俺の隣に呆れ顔のアーカスが並んだ。
「どこの世界にステリアの影縛り受けたままそんなに動けるのよ……」
「全然話変わるんだけどさ」
「どうぞ」
「この影縛りでドスケベな事した?」
アーカスの顔がみるみる赤くなると、俺の腹に限界を超えそうな痛みが襲った。
地面から足が離れて影縛りの魔法も解けた。
後は逃げるだけ、逃げるだけなんだけど……オロロロロロロロロ。
「ご、ごめん!」
「アーカス、やり過ぎでしょ……助けた女性引いてるよ」
「ここは怖い街なのじゃ」
俺は今朝食べたスープを地面に出しながら振り向いた。
だって、目の前には師匠がいるんだもん。
「師匠おおおおおおおおおおおおおお!」
「な、なんじゃ!?」
「見た目全然かわらない年増な師匠じゃないですか。会いたくなかったけど、会いたかったです。こんな過去から尻がでかいんですか? あっ胸もですね。触っていいですか? あっもう触ってますけどハリは良さそうですね」
「な、なんじゃ!?」
師匠はうろたえると、俺の体が再び拘束された。
ステリアだ。
俺は気合で体を動かして師匠へと近寄る、ステリアも必死なのか両手を使って魔法を唱え始めた。
「うう。この状況を私が何とかしないと駄目なの……?」
遠くでアーカスの声が聞こえた気がした。




