第208話 現代と違う探索者
見た目はアンジェリカにしか見えないアーカスは嬉しそうにスキップしてる。
本来はアーカスに似てるのがアンジェリカなんだけど、先に仲良くなったのはアンジェリカなので俺としてはそう認識してる。
その後ろで俺との間に入って歩くのがステリア。
俺は一番最後尾を周りを見ながら歩いている。と、言う所。
「なるほど」
俺が呟くと声が聞こえたのか先頭のアーカスが止まり振り返り自然とステリアも振り返った。
「何か思い出したかい? 名前以外で」
「いや。ステリアさんってアンジェ……アーカスさんの後ろを歩くのを見てさ」
「うんうん、私の後ろによく歩くのよ」
「…………まるで僕が悪いみたいな言い方だね。でクロウベル君……僕がアーカスの背後を歩いて不満なのかい?」
「いや? だって、その位置が一番《《尻》》がみえるからでしょ? 恋人なら当然だろうなって、ゆっくり動く時などいいよね」
俺も良く師匠の尻を眺めるのに背後を歩くからわかるのだ。
「なっ!?」
「ええええ!? ステリア。そんな趣味あったの!?」
「ない! 僕がアーカスの背後を歩くのは、君みたいな変なのから守るために歩いているだ! 別にアーカスのお尻を見たくはない!」
あっ。そうだったのか。
俺と同じ尻好きで見抜きしてるのかと思ってた。
「え!? 見ないの!? こんな可愛いお尻なのに!?」
アーカスは顔を赤らめながらもステリアに指をさして文句を言っている。
「可愛いのはわかるよ!?……じゃない。あーもう! クロウベル君と言ってたね! さっさとタルタンにいって冒険者ギルドにいけ。アーカスも冗談はそれぐらいに、先に歩くよ!」
ステリアは大股になりながらアーカスを追い越して先に歩いてしまった。
俺とアーカスは顔を見合わせる。
「もう、守るんだったら最後まで守ってよ。ねぇクロウベル君」
「照れてるんだよきっと」
「おっとなー」
「少年というには年齢が上でオジサンと言うにはまだと思うからね」
「何歳なの?」
「たぶん21か22。でも気分は27歳から29歳。もしかしたら35歳ぐらいかも」
こればっかりは本当に俺もわからん。
クロウベル・スタンとしては21歳。
前世の記憶は27歳前後。
色々足したら精神年齢は30……は過ぎたくないからギリギリ29にしてる。
「………………じゃぁ21で。私が17歳でステリアも同じ歳なの、少し上のお兄さんの方が親しみやすいし」
「うい」
「返事は『はい』のほうがいいよ?」
どこぞの師匠みたいな事を言われた。
何をするのでも情報が無さ過ぎる。
この状況でアーカスの後ろに歩く勇気は無いので、隣に歩く。
「それはそうと、聖都まで歩いて行くの?」
「そうだよ? それに聖都っていっても普通の街だよ?」
そうなの!?
そっか……まだ大きくなる前か。
「えっでも、さっきのって聖王の墓だよね?」
「何百年も前にいたって言われてる聖王様の墓なんだけど……その辺は覚えてるの?」
「え。いや」
一瞬だけ迷った。
過去と思ったがまさかの未来説まであるのかって思ってしまった。
聖王の歴史に詳しくないし、一度途絶えたのか?
「昔この無実の罪で捕らえられたタルタン王子。その最後のお墓があそこ。私とステリアはそのお墓の掃除」
なるほど……。
「あっ、ステリアさんが前で待ってるわ」
「呼び捨てでいいと思うよ。クロウベルさん」
「………………いや君で呼んで」
今の年齢が上としても、未来の英雄……いや過去? 英雄からさん付けはムズかゆい。
「変なの」
ステリアと合流し俺がアーカスの左側を歩くと、ステリアは一度アーカスの後ろについて、すぐにアーカスの右側へと移動した。
要らない事を言ったかもしれん。
ゆっくり尻が見れただろうに、まじでごめん。
だってステリアは俺の方をにらんでくる、思わず斬ってしまいたい衝動に駆られて困る。
あの顔いやだからね。
ナイの顔というか……鏡で何度もみた俺の顔なんだよ。
要らない事まで思い出す。
「僕の顔を見ては視線をさけるけど、何か不都合な事があるのかい?」
ステリアは少し不機嫌な声で俺に聞いて来た。
「ステリア。そういういい方はよくないよ?」
「っ! 僕が悪かった」
おお。素直に謝った。
「よろしい。で……クロウベルさ……君。何で?」
「その顔見てると昔読んだ絵本に出て来た非道を尽くした魔族の顔と似ていて、ついね。ごめん」
適当にそれらしい事を伝える。
「うわぁ……ごめんね、うちのステリアが」
うちの……か。
仲がいい事で。
「アーカス、謝らなくていい。まるっきりこっちが被害者だ」
「そうそう。俺は謝らないけどアーカスさんが謝る事じゃないからね」
「…………うわぁ息ぴったり」
「「違う」」
俺とステリアは同時にアーカスにツッコミを入れた。
それがおかしいのかアーカスは嬉しそうに笑って歩く。
半日ほど歩くと街が見えて来た。
俺が知っている聖都よりも全然近くにあって尚且つ小さい。
街を守る壁はこの時代でも健在で、それよりもちょっとした戦争でも起こすのかってぐらいに設置型の武器が置いてあったりする。
「もしかして戦争でもするの?」
「え?」
「ん……本当に覚えてないのか、知らないってわけはなさそうだし。アーカス」
「魔物だけじゃなくて魔族とも戦うのにこの辺にしては設置型の武器は少ないぐらいよ?」
あー……魔族戦争か。
そういう戦争があったとかなかったとか。
この時代は亜人も魔族とみなされていた時代だっけかな……。
もちろん違うし迫害を受けてない亜人もいたらしいけど。
アーカスもステリアも門番に軽く挨拶して中に入った。
「え?」
「ん? 入らないの?」
「入っていいの?」
何所の街でも入場料がいるんだけど、俺払ってないし、アーカスもステリアも別に通行書を見せていない。
「入ったら?」
「どうした、そこの青年。タルタンに入らないのか?」
「え。いや入りますけど……」
入場料がないのか。
同じタルタルの名前の付いた街でも俺の知ってるタルタンと全然違い、小さい小さい冒険者ギルドに案内された。
「さぁ、ここが冒険者ギルドだ。使い方は受付に聞いてくれ。じゃっアーカス僕達も次の場所に行こう」
「どうも」
俺が手をあげてステリアに挨拶すると、ステリアも手をあげて挨拶をした。
さて俺が冒険者ギルドに入ろうとすると、背後でステリアの小さい悲鳴が聞こえた。
振り返るとステリアは背中丸め左手で押さえてしゃがんでる、その後ろでおそらく蹴ったのであろう、綺麗に蹴りの姿勢をしたアーカスがいて、その足を下す。
「え。恋人喧嘩?」
「よーし、次は君だね」
「は?」
アーカスは俺に突然殴りかかって来る、左からの左右連続の攻撃、それをかわすと回し蹴りをして、それもかわしたら、軸足を変えて俺の頭への上段回し蹴り。
駒のように動き俺殺す気だ。
全部かわすと、間合いを取った。
いつの間にか何人かのギャラリーが出来ているから冒険者って暇人だ。
「信じられない……」
「俺も」
「全部かわすだなんて」
「俺を殺そうと――え?」
妙な間が出来た。
「もう一度聞くけど俺を殺さない?」
「何で殺すのよ!?」
アーカスは戦闘状態を解いて俺をジト目で見て来た。
背中が痛そうなステリアがアーカスの横に立つ。
「ほら、彼は1人でも大丈夫そうだよ……君の攻撃をかわすんだ」
「ステリア。それでも! 記憶が混乱してる人をギルドに渡してさぁさよならは良くないわよね? そこのクロウベル君も記憶が混乱して街の入り方も知らないのに、よく1人で過ごそうとしたわね……お金だってないんでしょ?」
「あー……ない」
この時代の金なんぞ1銀貨もない。
「飽きれた……本当に」
がっくりと肩を落とすアーカスにステリアは困り顔で俺を見る。
俺にふられてもなぁ。




