第206話 朽ち果てた聖王……?
聖王の墓前に来た。
聖都から車を走らせること1日。大きな湖のほとり……ってか、ここナイの城が浮き出た湖だな。
そこ湖の近くに地下に通じる迷宮があった。
元々は普通の墓だったらしんだけど何代も前の聖王が魔物化してしまい奥のほうから迷宮になって来た。とかなんとか。
そんな裏設定知らないけど、ここのボスは『朽ち果てた聖王』というやつでエナジードレイン系。簡単に言えば体力吸収などを使ってくるボス。
弱点はアンデッドなので火。あと元聖王なのに光魔法にも弱い。
レアアイテムとしては壊れた聖杯が手に入る。
使うとパーティー全員のHPを下げるというアイテム、使い道はない……縛りプレイ用か。
さぁこの預かった鍵を開ければ迷宮に入れる。と、言う所で準備をする。
今回入るのは宝物庫の鍵を持ってる師匠と俺。
セリーヌとフォック君は車で待機。
「フォック君は車があるとして、セリーヌが留守番って珍しいな」
「セリーヌこの湖に用があるの。久々にお兄様に会いたいわ」
「…………呼べるのか?」
「呼べるわよ」
何の事がわからないフォック君だけ、はてな顔だ。
セリーヌの兄というのはナイの事で、この湖にナイもしくはナイの蜃気楼の城を呼ぶらしい。
「まぁ……そのほどほどに」
「レディですもの、無茶はしないわよ」
セリーヌと話していたら師匠がさっさと鍵を開けて迷宮に入って行った。
「酷くない? これ、俺置いていかれるよね……じゃっ本当に無理はしないで。フォック君危なくなったら逃げてね」
「先生何を言っているかわからないですけど、セリーヌちゃんは絶対に守りますので」
あっうん。
まだセリーヌ正体しらないもんな……セリーヌが本気だしたらフォック君は指先一つで死ぬからね。
誰からの記憶も残らずに消えるからね。
「じゃぁ。師匠おおおおお! 1人で行かなくてもっ!」
――
――――
急いで師匠の後をついていって迷宮ダンジョンの中に入った。
光源が見えないのに廊下も明るく、時折広間に出てはいくつもの道に分かれている。
師匠は迷う事も無く先に進み、途中で出てくる迷宮魔物を杖で倒していく。魔法が効きにくい敵は俺が前に出て剣を使って倒していく、の繰り返し。
「ドアホウこの先に見える5個の道。どれが正解なのじゃ?
「…………なぜ俺に」
「一番知ってそうだしなのじゃ」
いや、知ってるけどさ。
ここで俺が正解の道を当てたら、何で知ってる? って思われない?
「全く分かりませんけど」
「ふむ……じゃぁ中央の道いくのじゃ」
「あっそこの先に即死ガスがでますけど」
「じゃろうな、ワラワは知ってるのじゃ」
師匠が俺の顔を黙ってみては眼を細くする。
騙したな! 師匠!?
「…………まぁ今さらじゃがワラワと2人の時以外は気をつけるのじゃぞ」
「うい。そうします」
「返事は『はい』じゃろに」
その後も師匠が若干道を間違えつつもボス部屋前まで来た。
普通のゲームならこの辺に回復スポットがあるんだけど、当然ない。
ゲームしようというか、今の部屋から隣の部屋に扉があるわけではないのに先が見えない。
師匠に言わせると、そういう仕様が多いらしく、逆に見渡す事が出来たら迷宮ボス何て攻略し放題じゃろ。と言われた。
確かに、遠くから狙い撃ちできるもんな。
世界は上手く回ってると言うか……。
「さて……宝物庫に来たわけじゃが……いるんじゃろ? 迷宮ボスが」
「いますね。朽ちた聖王」
「仕方がない……やるとするのじゃ!」
師匠は先の見えない隣の部屋に突撃する。
俺もその尻……じゃなくて背中を追ってボス部屋へと滑り込んだ。
直ぐに水盾を詠唱し、師匠の前に発動させる。
水槍を唱えると、本を読んでるおっさんへと攻撃をしかけ……。
「は? おっさん!?」
「うおおおおおおおお!? な、なんだね! 君達は!? ホーリーシールド!」
俺の水槍が光の壁にさえぎられ消えた。
部屋全体をみると、小さい図書館のようにも見える。
部屋の中央に丸いテーブルとイス。
それを囲むように本棚が並んでいて、俺の魔法攻撃をさえぎったおっさんは、はぁはぁしながら俺と師匠から距離を取って様子を見て来た。
「…………朽ちてない聖王?」
「む。わたしを討伐に来たのか!? 聖都はどうなっている!? ここは聖王の墓だぞ!? も、もしや聖都タルタンは既に滅びて……?」
どうみても普通のおっさんだ。
ここが聖王の墓という迷宮じゃなければ、日曜大工が好きな定年が近いおっさんにしか見えない。
師匠は構えていた杖をそのままに朽ちた聖王……朽ちてない聖王に話しかけた。
「ここにおった、4代目元聖王はどうしたのじゃ?」
「ああ。出て行ったよ?」
「出て行けるの!? 迷宮ボスだよ!?」
「わたしがいるからね。ここの迷宮管理をしてる一応元聖王という所だ、久々の来客だ。さてお茶はまだあったかな」
元聖王は嬉しそうに奥の部屋に消えた。
ここから出は奥の部屋がどうなっているか見えない。
「ドアホウ……」
「いや、俺に文句を言われても、まさか朽ちてない元聖王がいるとは、めっちゃ生きてるように見えましたけど、死んでるんですよね?」
その朽ちてない元聖王のおっさんが、カートを押して戻って来た。
ティーカップにティーポットが置いてある。
あれを飲めと? 毒が入っていたら困るな。
「君達が良ければ飲んでもいいが、この体になってから味がわからなくてね。自前の飲み物があるならそれを飲むとよい。さて、この元聖王に何の用かな?」
「…………白の書」
「おお! なんて懐かしい名前だ。しかし残念だ宝物庫には鍵がかかって――」
師匠は黙ってネックレスを胸の隙間から取り出すと朽ちてない聖王へと見せた。
「ふむ。それは鍵だね。もしかして聖都タルタンの聖王を殺したのかね?」
淡々と言う、朽ちてない元聖王から殺気がこぼれてくる。
「殺してないわ! 借りてるの!」
「なるほど! これは失礼した……宝物庫の鍵は代々受け継がれているからね、それを持ってる君達は何者かと思ったよ。最後の元聖王として全力で戦わないといけないか。と思ってね」
冗談じゃない。
朽ちた聖王ならまだしも、攻略方法がわからない奴とは戦いたくないし。
生きてるように見える奴と殺し合いも出来ればしたくない。
「いやぁ長生き……いや。長死にはしてみるもんだね」
「あの……名前は?」
「何、朽ちた聖王でいいさ。生きてるように見えるが死んでるからね、それに後何百年もすれば立派に朽ちるからね。さて……ではさっそく取りに行こうか、君達生きてる人間は時間が大切なんだろ?」
うん、すごいフレンドリーなボスだ。
こういうボス好き。
ぶっちゃけると……俺は別に戦いは好きじゃない、痛いの嫌いだし、気持ちい事の方が好きだ。
師匠の方も警戒はしてるが戦う気はないみたいだ。
「無いとは思うのじゃが、攻撃して来たら」
「ああ。しないしない、その杖は昔見た事あるからね……いづれ朽ちるとはいえ、灰にはなりたくない」
朽ちてない元聖王についていって大きな部屋の前についた。
扉には大きなドクロの眼が書かれていて。
「悪趣味な絵ですね。師匠」
「………………そ、そうじゃな」
「はっはっは。そうおもうかい? この扉は結界になっていて、その昔1人の魔女が作った扉なんだ。その魔女のデザインと聞いてるよ。こんな悪趣味な扉を作った美的センスを聞いてみたい」
「え?」
俺は師匠をみてしまった。
プルプル小さく震えている。
確か風の噂で宝物庫の鍵は師匠が関係してるとか聖王が言っていたような。え、じゃぁこの扉って。
「いや。よく見るとドクロカッコいいかも。右目の部分にその魔石嵌めるんですよね」
「そ、そうなのじゃ! そうじゃろ。よく見るといいデザインじゃろ!?」
師匠が嬉しそうなら俺はそれでいい!




