第202話 偉い人に会うにはそりゃそうだけどさ!
前線基地から車で走る事5日目、やっとゴールダンが見えて来た。
街の大きさは比較的大きいが施設は少ない。
ゲーム内では宿屋が2つ。
街の中央に闘技場。
周りに冒険者ギルドと武具屋があったぐらいの街。
「と、まぁ俺が知ってるのはこれぐらいですかね。実際にはもっと色々あると思いますけど」
「さすが先生物知りです」
「先生じゃないからね。《《聞いた話》》だから中はどんなのか知らないけど」
「聞いたなのじゃ……?」
俺が前世で知っている情報を『聞いた』と前置きしたのに師匠がジト眼で見て来た。
「師匠何か問題でもあります?」
「今の所はないのじゃ。なに、《《いつものように本で読んだ。》》じゃないんじゃなと思っての」
「ふふ」
毎回同じだったら怪しいでしょうが! と既に手遅れ気味なので何もいわない。
俺の事を信頼してくれてるフォック君は時速30キロペースで街兵の所まで横付けをする。
馬の無い馬車なので周りの注目度は抜群だ。
フォック君は命令書とハンカチに包んだメダルを見せて馬車小屋に案内される事に。
その間に俺達は街に入る手続きをして門の前で待ち合わせ、俺達が終わる頃フォック君も走って来た。
「さて……行きますか」
「ついて行きます先生! 聖王様に会って…………ええっと何をするんです?」
「先生は違うからね。白の書を見るための宝物庫の封印された魔法の解除キーを貰う事、そして君は車のデーターを持ち帰る事」
「わかりました先生!」
何時ものやり取りをして街中に入ると人込みが凄い。
見るからに強そうな冒険者風の男から、色気むんむんの女性。成金風の太ったおっさんは露店で値段交渉をしてるから商人か?
ちょっとした祭りを思わせるほどの人だ。
「師匠はぐれないように」
「ワラワは子供かっ! なのじゃ」
「じゃぁベルお兄ちゃんセリーヌと手を繋ぎましょ」
「え。嫌だけど」
セリーヌの提案を断ったら空気が固まった。
「ドアホウ……」
「いやだって、見た目は可愛いけど中身は可愛くないし……俺より強いよね」
「クロウベル先生何言っているんですか。こんな小さい子がクロウベル先生より強いわけないじゃないです。ボクと手を繋ごうよ」
フォック君はセリーヌの正体知らないし小さい子供と思って手を握り始めた。
セリーヌは俺に向かってあっかんべーをして挑発してくる。
セリーヌ正体はアンジェリカには教えているがアンジェリカは周りに広めてないし、空気を読める古参聖騎士は何かを感じて何も言わなかったもんな。
「まぁ本当にはぐれないように」
闘技場に着くとさらに人が多い。
近くのスタッフらしき人を捕まえる。
「命令書はこれ聖王に会いたいんだけど」
「聖王……様ですか? すみませんクエストバイトなので何もわからず、受付に行ってください」
「了解」
人込みをぬいながら受付に行く。
「人がいっぱいいるわ。何に並んでいるのかしら?」
「セリーヌさん。これは闘技場に出る人の列と思うよ」
「命をかけて戦うのよね? 何がおもしろいのかしら?」
その問いにフォック君は名誉のためさ! と言うが俺に言わせれば、本当に何が面白いのか。と同意する。
「まったくだ」
「あれ、先生も否定するんですか……?」
「もっと安全に生きたい派なので」
闘技場しかない。という人間がいるのもわかる。
借金や契約など個人的な事などで、でもまぁ闘技場に出るぐらいの人間であれば、もっと楽に稼げる方法があるだろうに。
この列に並んでいる奴の大半は力自慢でしょ? いくら回復魔法がある世界といっても死ぬからね。
亜人のスタッフがいるので声をかけようとすると、横入りはするな! と怒られた。
「並ぶか……」
「ワラワ達はあそこの店にいるのじゃ」
師匠が指さしたのはオープンカフェ。冷たい飲み物や甘い物を食べている観光客らしき人がいる場所だ。
うわ、ずっる……俺もフォック君に並ばせて休もうかなって考えていたら、セリーヌがフォック君の手を握って去って行く。
1人残された俺は1時間以上並んでやっと亜人の受付前についた。
「現在ですとCグループが開いています。参加者希望の人は――」
「聖王に会わせて」
「聖王様……ですか? 受賞式の日でますので優勝頑張ってください」
「いやそうじゃなくて命令書があって」
「では命令書を見せてください」
「あっ」
フォック君に命令書とチケットメダルを渡したままだった。
「無いのであれば後ろが使えているので」
強制的に列から放り出されて師匠達の所に戻る。
事情を話フォック君から命令書とハンカチに包んだメダルを貰って……再度並ぶ。
並ぶ事1時間やっとさっきの亜人の受付の所に戻って来た。
「これがチケットとメダル!!」
「確認します……申し訳ありません……この紹介状となると私は冒険者ギルドの臨時クエストのスタッフなので詳しい事は……あの、冒険者ギルドに行ってもらえますか?」
ふざけんなあああああああああああああああああああ。
てめえ、裸にひん剥いて転がすぞ、聖王の爺さんに会うってだけで何時間時間を無駄にしないといけないんだって!
この街に入って6時間ほどたらいまわしされて、冒険者ギルドいけ? ふざけんな。
「あ、あの……聞こえましたか?」
「え、ああ聞こえていたよ。忙しい所わるかったね。冒険者ギルドいくわ」
何とか笑顔で返答して亜人の受付を後にする。
オープンカフェではフォック君が居眠りをして、その膝の上でセリーヌがちょこんと座っている。
向かい側に師匠がケーキをフォークでさしては食べている俺と目が合った。
「一口下さい」
「………………ほれ」
師匠は食べかけのケーキをフォークでさして俺に突き出して来た。
そのまま食べると甘みが口に広がって行く。
「わぁ…………」
セリーヌが俺と師匠を見て両手で顔を隠した。
何か見てはいけないのを見た子供のようだ。
「セリーヌ何が見えた?」
「どうしたのじゃ?」
「ふふ、何でもないわ何でも。でもセリーヌとても良い物が見れたの」
「なんなんだ……」
セリーヌ事だどうせろくでもない事なんだろうな。
近くの給仕さんを呼んで今食べたケーキと軽食を頼む。
直ぐにお代りのケーキが来ると師匠はまた食べだした、あの……それ俺のなんですけど。
「で? 次はどこじゃ?」
「話聞こえたんですか?」
「聞こえなくても、恐ろしいほどに笑みを浮かべるドアホウを見ればわかるのじゃ。どうせ直ぐには会えなかったんじゃろ? ドアホウが甘い物を欲しがってるなど珍しいしなのじゃ」
「師匠おおおおおおおおお」
「泣くな暑苦しい!」
「それもそうか」
セリーヌが「変わり身の早さにセリーヌ驚きよ」と突っ込んでくる。
泣きまねを辞めて軽食をつつく、確か『王者のパスタ』とかそんな名前だった気がするパスタだ。
数種類のチーズを絡めたパスタで海鮮の塩味が利いていて旨い。
「あちこち並んだ挙句に冒険者ギルドにいって詳細を聞いて下さい。だそうです」
「まっ妥当だろうなのじゃ。食べたらそこの小僧を起こしていくとするかのう」
「ですね」
今さらギルドに早く向かっても知れてるし。
俺も少しの休憩だ。
王者のパスタを食べた後、フォック君を起こして冒険者ギルドに向かった。
「先生が並んでいるのに寝てしまって申し訳ございません……」
「先生じゃないし、別にいいよ運転疲れてるだろうし」
「先生……」
じゃないからね。と言って4人で歩く。
「じゃっ行ってくるから皆はその辺の店で」
「わかったのじゃ」
ほど良く臭い冒険者ギルドの中に入り、手前にいた若い女性ギルド員に命令書とメダルを見せ説明する。
「大変もうしわけございませんが、この命令書が本物であるか確認するためにお時間を」
「………………何時間?」
受付嬢は6本の指を出す。
6時間か……無茶苦茶きれそうだけど6時間で終わるならまぁいい。
宿を取って明日には帰れる。
「6時間ならこの宿とって戻って来るよ」
「いえ6日です」
「………………」
「………………ひっ」
俺は満面の笑みを浮かべたつもりが冒険者ギルドの受付嬢が小さい悲鳴をあげた。
不思議だなー…………。
俺は受付嬢に命令書とメダルを渡して席を立つ。
師匠達の所に戻るのに、あれだけ込んでいた冒険者ギルドの中に道が出来た。
「おっと、避けてくれるだなんて。ちょっと前通るよ」
師匠達が待つ店にいくとフォック君が駆け寄って来た。
「先生、ずいぶん嬉しそうですけど聖王様はどこに」
「んー…………どこだろうねー」
「あれ、先生が先生って呼んでも訂正しない……?」
今すぐに冒険者ギルド。いやこの街を破壊したい衝動を抑えるのに必死になる。




