第200話 ごめんって……
アンジェリカから「しっかりデーターを取って来てね」と念押しされた俺達は車に乗り込む。
運転は新米聖騎士のフォック君15才。
現代の車そっくりの作りに俺は感動する、違うとすれば燃料が魔水晶である。
正確に言うとエンジンなども全然違うとは思うけど素人の俺は気にしない。
師匠とセリーヌは荷台に乗る。
運転席と直結した軽トラのキャンピンクカーみたいな感じだ。
「で。では運転します!」
俺は助手席に座ってその運転を見る。
見た感じペダルは2個。レバーが1個。中央にハンドル。
ウインカーや指示レバーなどは無い。
フォック君が思いっきりペダルを踏み込んだ。
ガクンと体が動きメーターが上がって20と、言う数字で固定された。
「おっそ!」
「え?」
思わず叫んでしまった。
いやだってアレだけ前振りあってペダル踏み込んだら普通は100キロとか行くんじゃないの?
それが20で固定された、20も早いよ? 主婦が頑張って全力気味で自転車を走らせたら20キロはでるし。
「ええっと、メーリスさんから預かった操作方法によると、スピードが出るほど衝撃に弱いらしく。聖騎士隊でも馬からの突撃はスピードが上がるほど衝撃がありますし、最高速度が20に固定されてるらしいです」
「ああ、運転中はこっちみないで」
「はい!」
メーリスにしては安全過ぎだ。
操作方法の書かれた紙を見ると、ハンドルの中央部分に魔水晶をいれる穴がある。
『絶対に魔水晶をいれない事』と赤文字で書かれているので、これはふりだ。
メーリス的に『絶対に入れろ』という指示であるが、まだ15歳のフォック君にはその意図は伝わってない。
うん。これ100キロは出るだろうな。
でも俺もまだ死にたくないし、余計な事は言わない。
「どうでしょうクロウベル先生! 乗り心地は!」
「いやあの、先生はもうやめてね。俺の臨時訓練ももう終わった所だし」
俺が訂正すると、背後から女性陣2人の声が聞こえた。
「人間ってすごいのね、魔水晶をこんな使い方するだなんて」
「ドアホウもいよいよ先生なのじゃ。ワラワも呼び方を先生に変えたほうがいいじゃろうなぁ」
「師匠からかってますよね。俺が師匠って呼んで師匠が俺の事を先生って変なんですけど……別にドアホウでいいですよ、聞き慣れてますし」
これぐらいで丁度いい。
突然師匠から俺の事を夫など呼ばれたら熱あるんですか? と聞き返すだろう。
「ボクは先生がドアホウと呼ばれてるのは変と思うんですけど。先生は誰よりも強いし、ボクのような貴族の3男にも優しいですし……アンジェリカ副隊長と結婚すればいいのに……」
「ぶっはっ。何いうの!? 君いいい!」
フォック君は少し頬を膨らませながらも前を向いて運転をする。
「だって、アンジェリカ様は誰にでも優しく、そして強いです。地位もあるのに上の不正には正面から戦います。突然妊娠したのは驚きましたけど……アンジェリカ副隊長がクロウベル先生に向ける視線は親愛の眼です! もしかしてアンジェリカ副隊長のお腹の子ってクロウベル先生なんですか!?」
「ばっかっ! 前を見ろ前を!?」
「え?」
フォック君が俺の方に顔を向けた瞬間、道の真ん中でぼーっと立ち尽くす別馬車がいた。
そりゃそうだろうな、馬の無い馬車が走っているんだから。
俺が横からハンドルを動かし、強制回避。
フォック君はペダルを踏みこんでいるので、そのまま元の道へと戻って行く。
「あら残念。ぶつかると思ったのに」
嬉しそうなのはセリーヌだ。
「相手が怪我したら大変でしょ……」
「大丈夫よ? 証拠を残さなければ良いんでしょう? あの時みたいに。セリーヌ学習したわ」
「クロウベル先生あの時って……?」
「よーし! フォック君。もう少ししたら休憩しよう! そうしたら訓練でもしよっか!」
「本当ですか! ボクがんばります!」
話をそらす事に成功した。
下手に突っ込まれてセリーヌが人間を食べちゃってます。とかバレたくはない。
セリーヌの事だ、今度はフォック君を物理的に食べようとするかもしれない。
一応はアンジェリカからの預かりの人だしな、生きて返さなくては……。
2時間ほど運転してもらい適当な所で休憩する。
女性陣……といっても師匠だけであるがパスタを作ってもらい、その間に訓練をする。
師匠のほうから『味見なのに全部食う馬鹿がどこにおるのじゃ!』と叫び声が聞こえてくるあたり大変なんだろう。
「じゃっ。フォック君いつでもどうぞ」
「いきます! クロウベル先生!」
「いや、先生じゃないからね?」
訂正もむなしくフォック君は俺に攻撃を仕掛けてくる。
若い時のクウガそっくりだ。
ゆえに向かってくる場所がわかるのだ。
手や足を狙ってきては力をそぐ戦い。
「裏で攻撃してきて」
「っ!? わ、わかりました」
聖騎士隊の鎮圧のための攻撃が表。
聖騎士隊の殲滅のための攻撃は裏。
今度は急所を的確に狙ってくる。
逆にまだがむしゃらに剣を振って来るほうが予測がつかなくて怖い。
全部回避して最後にフォックス君の頭に軽くチョップして終わりだ。
「ま、負けました……」
「と、言う事で先生呼びはお終いって事で……」
「わかりました先生!」
うん。全然わかってない。
目をキラキラさせては俺を見てくるので思わず視線を逸らす。
俺はそんなたいそうな人間じゃないからね? 本当自分の幸せ優先だし。
昼食を作っているはずの師匠の所にいき昼食をたべ、昼寝の後に出発だ。
「あの。こんなのんびりしていて良いのでしょうか?」
「運転はつかれるし、仕方がない」
「じゃぁクロウベル先生と食後の訓練は!?」
「もっとない! 昼寝でもして」
1人絶望した顔をしてるが休息は絶対にいる。
そんな感じで5日を過ぎたあたり、ゴールダン前線基地が見えてきた。
ゲーム序盤で行ける場所であり、血気盛んな男達がいる要塞。案の定要塞前で、いかにもマッチョ前衛に止められた。
「馬の無い馬車……? 魔法使いか? この要塞に何の用だ」
「はいこれ命令書」
事前にもらった命令書を見せる。
中身は『聖王に用があるから聖王にあわせるようにしてね、馬の無い馬車は聖騎士の試作機なので壊さないように。聖騎士副隊長アンジェリカ』と署名付きだ。
「命令書は見た。が……通さない」
「…………なんで?」
「わが要塞は力ない奴は通さない決まりなのだ」
あー…………そりゃゲームだったらそうだろうよ。
「先生を侮辱する気か! ボクが挑戦する!」
「小僧! 勝負だ!」
いやあの。
ゲーム序盤で来る場所に、ゲーム終盤で挑んだらそりゃ瞬殺よ?
ボタン連打でも勝てるイベントだ。
まず、フォック君の攻撃を前衛がかわし、前衛の攻撃をフォック君が受ける。そして負ける。
「は?」
「がっはっはっは。また出直すがよい」
え。いやなんで?
……もしかしてだけど、この前衛ってクウガのレベルに連動してるとか?
クウガが強くなるとこの前衛も底上げされてるのかもしれない。
「さぁ次はどいつが勝負だ」
「ここは私の出番と思うの」
セリーヌが一歩前に出た。あっまずい。
「師匠!」
俺が叫ぶと師匠は慌ててフォック君の眼を手で隠した。
いや。そうじゃなくてセリーヌを止めてって!
俺が前を向くと前衛が消えていた。
「わっなんですか! あれ……前衛の人がいない……ですね。クロウベル先生、先ほどの人はどこに? セリーヌさん前に出ると危ないですよ?」
「…………よし前に進もう!」




