第199話 あるべきはずの移動手段
がんばれ俺! という事でアンジェリカの屋敷に一泊する事に、1階は聖騎士隊の共同スペースになっているので、中央の階段をあがり住宅スペースへと上がった。
俺達が客間に入る前に赤ん坊を抱いたシスターフレイが出迎えてくれた。
アンジェリカの妹で、男好きの危ない妹だったはず。
赤ん坊の父親は浮気に走ったクウガの子だ。
「久しぶり」
「そちらこそ」
「姉から色々聞いてるわよ、面白い人生ね」
何も面白くはないわ。
手渡されたシスターフレイの子を抱き上げながら、白の書を見に来た事を簡単に話す。
「白の書です? 城の地下にあると思うけど封印されてるし聖王様しか開けれないと思いますけど」
「ここに来る時にアンジェリカに聞いた。でその聖王バルチダンは出張中なんでしょ?」
「戻ってくるまで1年……下手したら1年半ぐらいかかりますが」
「それも聞いた……あちこち巡礼するとか。馬車の手配がつき次第俺と師匠が迎えに行くよ。鍵って詠唱でしょ? 俺がダメでも師匠なら覚えれるだろうし」
自由に使える馬車をアンジェリカに手配してもらっている。
馬車なんて馬車屋で借りれば直ぐなんだけど、無料になるならそれに越した事は無い。
変な事をいうようだけど、馬の世話とか旅に慣れてる馬とか世話しやすいとか色々比べると値段も違うし。
アンジェリカに頼めばいいのが来るでしょ。
「はい。子供を返すよ」
「よかったですねーレイ。未来の旦那様ですよ」
「…………女の子なの?」
「そうよ? 紹介しなかった?」
名前も今聞いた気がする。
これでアンジェリカの子供がアスカだったら、もうアレである。
「とりあえず未来の旦那にはならないし。俺には師匠がいるし。その頃には俺はおじさんだよ?」
「そうでしょうか? この子が14才になる頃は彼方はまだ30代ですよね? 変な男に引っかかるよりは身元ハッキリしてますし」
昔の知識が強くて妻は1人まで、という考えが先に来るだけで……双方が同意していれば何人でももてるからなぁこの世界。
「身元ハッキリしてる男を捕まえておいてくれ」
「あらレイが振られてしまったようですね。母として悲しいです……では後ほど食事会で」
片手をあげて別れる。
アンジェリカが俺を見てニヤニヤしてる。
「計ったなアンジェリカ!」
「何のノリかしら?」
「………………なんでもない」
女性にしかも前世のノリを言ってもわからないのはしょうがない。
「子供だからさ」
可愛らしい声で、ツッコミが入った。
驚いて声の主セリーヌを見ると、小さくほほ笑んでる。
え? ええ!?
ツッコミ嬉しいけど、困惑しかない。
「セリーヌ良く知らないけど、昔来たお友達が教えてくれたのよ? 意味はよくわからないけれど、あってるかしら?」
「ああ。そういう事か……うん。あってる」
日本のアニメ知識有るのかと思った。
この世界転生者というかチート知識持った人間は過去にもるからな。俺も別に1人とは思ってないし。
「よくわからないけど、納得してるならいいわ? 屋敷は前と同じ好きに使って、馬車は早ければ4日ぐらいかしら」
「そんなかかる?」
「かかる」
断言されてはしょうがない。
それまでは屋敷でゆっくりするしかないか。
「じゃぁ師匠。一緒に風呂行きましょうか」
「なんで、ワラワとドアホウが一緒に何じゃ……」
「あれ。メル様とクロウベル君ってまだ……」
アンジェリカの『まだ』という疑問に師匠の口元がむ。っとなる。
「まだ。という意味がわからんのじゃ」
――
――――
丁度四日目の朝。
共同食堂で朝食を食べているとアンジェリカの部下から馬車が届いた。と伝令を受けた。
と、言う事は臨時の講師も終わりとなる。
招かれたとはいえ俺も師匠も自堕落に暮らすわけじゃなく、俺は聖騎士の訓練相手になり、師匠は魔法の先生として聖騎士を鍛えていく。
セリーヌはメイドや女性騎士のおもちゃとなって着せ替えさせられては食べ物を貰っている癒し系だ。
「クロウベル先生とお別れは寂しいです」
俺の隣で悲しい顔をしてるのは、聖騎士の若きエース。フォック君15歳。
貴族の三男坊であり茶髪の美少年だ。
初日に俺が大浴場にいた時に先に入っていて、女性と思って謝ったらちゃんと股間に男のシンボルがついてた。
その後、アンジェリカに笑われ師匠にため息をつかれ土下座した結果なぜかなつかれた。
まぁこのフォック君女性に見えて実際に訓練をしたら強い。
もちろん強いと言っても俺よりは弱いし、クウガにも負けるが他の聖騎士より強かったりもする。
「まぁフォック君も頑張って……」
「あの副隊長に聞いた所、クロウベル先生はメルさんの弟子になるのに家も地位も捨てて土下座して頼み込んだと聞きました」
若干違うけど概ねあってる。
土下座したっけかなぁ……地位も別に最初から捨ててたし。
「結果的にね」
「あのボクが聖騎士を辞めたら弟子にしてくれますか?」
「しないからね?」
フォク君は絶望した顔になりしょんぼりする。
そのフォク君。別の聖騎士に呼ばれて場を離れる事に、最後に握手をして先に別れた。
他にも食事をしてると、俺を先生。と、からかっては別れを惜しむ聖騎士達と会話する。
午後になると、授業を終えた師匠と甘い物を詰めたカバンを背負ったセリーヌと合流して馬車屋に向かう。
馬車屋で馬車を借りるのに馬車で行く。
このままこの馬車で進めばよくない? とふと考えるが、街の中で移動する馬車と外に行く馬車は作りが違うので仕方がない。
馬車屋の前にアンジェリカが待っていた。
俺も最後に降りて握手をする。
「お待たせ」
「いいのよ。クロウベル君の驚く顔が見れるなら」
意味ありげの言葉だ。
「ほう。ドアホウの驚く顔?」
「セリーヌも見てみたいわ。ベルお兄ちゃん驚く事ないんだもん」
「あるからね? じゃぁ馬車の用意は」
アンジェリカが小さく笑う。
「これを見て! これが貴方達の馬車よ!」
馬車屋の扉が開くと見覚えのある物が出て来た。
簡単に言えば大きなホロのついたジーブ……軽トラみたいな感じか。
さすがに全く同じとはいかないけど、どう見ても車。
運転席には今朝別れたばかりのフォック君が乗っていた。
「あれ。車じゃん」
大きくてをあげて紹介してくれたアンジェリカの動きが止まる。
「ドアホウ……」
「うわぁ……セリーヌも見た事ないのに……」
え? 師匠もセリーヌも俺に対してなぜか冷たい。
手を大きく下げたアンジェリカが俺を見ては落ち込む。
「情報は漏れてないはずなのに……何で知ってるのよ……誰よ漏らしたの」
「え? ああっ!! 車何て初めてみた!」
「いやもう、車っていってるじゃん……」
フォック君が運転席から出てくると俺の前に走って来る。
「副隊長! どうです! 先生驚きました!? あれ……」
「漏れたのはフォックじゃなさそうね」
「え。誰が情報漏らしたんですか!? 規則違反です!!」
「そうね。減俸……いえ除隊に……屋敷に戻ったら懲罰隊を組んで……」
やばい。
話が大ごとになって来る。
「まったまった、誰からも本当に聞いてないって。ええっと鍛冶師メーリスから構想聞いた事あるんだよ」
嘘だけど。
「なんだ……そのメーリスさん。あとサンさんとの協力で作った試作機よ。空飛べるなら地上用も作って欲しいって頼んだの。いきなり実践に導入するのはこちらも困るし、御者もつけるから使ってきて」
「クロウベル先生のためにボクが運転します!」
俺も運転できそうだけど、ここで出来る。って言ったらまた問題起きそうだな……今回は妥協するか。
確かに普通は飛行機の前に車だよな、そもそもあっても良さそうなのに自転車も見た事がない。
「いやぁ凄いうれしいよ」
「クロウベル先生あまりうれしそうじゃ……ボクが嫌いなんでしょうか……副隊長ボクを除隊にしてください任務の一つも出来ないようでは今後――」
「嬉しい! 嬉しいから。な!? いやぁ嬉しいな!!」




