第196話 安定の墓穴を掘った俺に頭を抱える師匠
師匠の家でどっかりと座っている男。
次期皇帝アレキ・パールが腕を組んで俺をにらんでいる。
「まだか?」
「まだか、って言われても師匠の着替え終わるまで待って……良くここがわかったというか」
「帝国の力を甘く見るな。半月以上もかかった」
かかってるじゃねーか。
俺が突っ込む前に師匠が寝室から出てきた。
濡れた服は洗濯に風呂に入る時間は無いのでタオルで拭いたぐらいだ。
何時もと同じ服を着てはソファーに座って足を組み替える。
「さて。さっさと不老不死の薬を出せ。魔女め」
アレキが命令をしてふんぞり返る。
「おじさん。不老不死の薬何てあるの思うの?」
「先ほどから何だこの子供は……先ほどもオレに抱きつき邪魔な」
「ふふ。セリーヌっていうの。よろしくね愚かな人間さん」
セリーヌの第3の眼が菱形に開く。
先ほどまでは眼を閉じていたのだろう可愛らしい子供だったが、今は俺でさえゾワっとするほどの力を感じる。
その瞬間座っていたアレキはソファーの後ろに飛び、座っていたソファーを俺達に蹴って来た。
俺は水盾で防ぐと、水盾より前に黒い影が俺達を守っている。
「あら。受け止める必要なかったかしら? せっかちなおじさんソファーは返すね」
セリーヌが黒い影でソファーを投げ飛ばすとアレキはいつの間にか抜いた剣で一刀両断する。
2つに割れたソファーが部屋を破壊した。
「魔女の使い魔か! 斬り殺してやる!」
「わぁ敵ね! 敵なら食べてもいいわよね!?」
いや駄目でしょ。
目をキラキラさせて俺にたずねないでくれ。
「お主ら! ワラワの家やぞワラワの!」
「ふふふ、怒られちゃったわ。ごめんねメルママ。おじさん座りましょ? よく見ると美味しそうじゃないし食べないであげる」
「全くじゃ……アレキよ。そんな薬はないのじゃ」
アレキは剣を構えた茫然とした後に戦闘状態を解いた。
斬られたソファーの半分を手に持って俺達の前に座りだす。
「魔女だろ?」
「魔女と呼ばれてるだけなのじゃ」
「何百年も生きてるのだろ?」
「長寿なだけじゃ」
「そうそう師匠は熟女なだけですし」
「ちっ」
師匠が舌打ちをして俺をにらんできた。
ほわっつ!? 事実を言ったまでだよ!?
師匠の横にいるセリーヌは小さく笑っている。
「もったいぶるな。この事は帝国の……いや俺個人の秘密にしてもいい、少しでもいいんだ。薬を寄こせ」
この期に及んで、売ってくれ。でも。分けてくれ。でもなく。寄こせっていうのは何て言うか帝国らしい。
「今までの事も不問にする。そうだ、狗と魔女。その帝国内での指名手配も解こう」
「え。指名手配されていたの!?」
「当たり前だ。どれだけ帝国に害があるが、前回の地下遺跡でもお前達が居なければ帝国の地盤は固くなった」
「《《でも負けたんだよね》》」
俺が事実を言うとアレキは不機嫌な顔で押し黙った。
「ドアホウ。少し黙るのじゃ」
「え!? 俺が悪い!?」
「ワラワはこれまでも、そしてこれからも自由に生きさせて貰うのじゃ。不死の薬などない」
マジモードのトーンで師匠が言い切ると、場の空気が重くなる。
「あるわよ?」
小さい声で言うのはセリーヌだ。
俺は驚いてセリーヌを見るし、師匠は眉をひそめる。
一番驚いたのはアレキだろう。
セリーヌの肩を掴んで「どこにある!」と口調が荒い。
「痛いわおじさん」
「出せ!」
「もうせっかちさんね。早いのは嫌われるわよ? ねぇベルお兄ちゃん」
「………………俺は回数でしょぶうううう! いっ師匠いま叩きました!?」
後頭部が痛い。
師匠の手には杖が握られている。
「セリーヌ」
「人間ってすごいのよ? 賢者の石って知ってる? 不老不死にしてくれってセリーヌにお願いしてくるお友達がいてね、手を貸してあげた事があるわ」
セリーヌは自慢げに話すけど、雲行きが怪しい。
俺の知ってる知識で『マナ・ワールド』で賢者の石と言うアイテムは知らない。
本編にでなかったか……本編に出せなかったか。
「それはどこにある!」
「知らないわ。でもセリーヌなら作れるわ」
「魔女の使い魔よ! 作れ!」
アレキがセリーヌに命令すると、セリーヌの第3の瞳の瞳孔が大きくなる。
「セリーヌ待つのじゃ」
「魔女よ。邪魔をするな!」
「邪魔ではない、セリーヌその作り方は?」
「あら簡単よお友達10万人の魂だわ。セリーヌ優しいからお友達のために頑張ったの。近くの国3つ分ぐらいかしら? 不老不死にしてあげたお友達も喜んでいたのに……もう一度訪ねて来た時は何故か怒っていたわセリーヌ何も悪い事してないのに、変ね」
うわぁ。
昔俺はナイの事を邪竜と呼んだ事があるが、新の邪竜はこっちかもしれない。
でも、頼まれた事をしただけだしなぁ……この場合セリーヌに不老不死を頼んだ人間の方が悪いのか?
「使い魔よ…………製造はしなくていい。その石はどこに?」
「そこまではセリーヌ知らないわ。でもせっかくの永遠の命だったのに、最後は石を取り出して死んじゃったって別のお友達が教えてくれたわ。いきなり斬りかかって来るんだもの、食べちゃった」
場がさらに重くなった。
「と、言う訳じゃ。その賢者の石とやらもまがい物。そもそもなぜ不老不死をなのじゃ?」
「ちっ……別に不老でなくてもいいんだ。父が病気なのだ……しかし、不老の方が帝国にとっても大事。普通に考えてそうだろう」
「あっ。案外普通の理由だった」
「貴様! この狗め殺されたいのか!」
お手上げのポーズで殺されたくないアピールをする。
「もう義弟義弟ってうるさいクウガに頼めよ。クウガに頼んだら自動的にアリシアがついて来るだろうし、病気ぐらい治すでしょ。こんな熟女で知識だけの痴女……師匠の所にくるよりもうううううううう!?」
俺の問いは途中で叫び声に変わった。
後頭部に硬い物が当たったかと思うと大きな魔力が感じられたから。
体を床に伏せると家の中が真っ白になった。
数十秒やっと眼が慣れると俺の横では黒い影が俺以外の3人を守っている。
「……失明するかと思った。あの当たったら死ぬんですけど……」
「ベルお兄ちゃんも賢者の石必要かしら?」
「いや、いらないんけど……師匠?」
「ワラワも一言多いぐらいなら許そうなのじゃ。さてドアホウも言う通りアリシアには聞かなかったのじゃ?」
アレキは言いたいくないのか、最初は口を閉ざしていたが十数秒待つと口を開いた。
うん。もったいぶらずにさっさと話して欲しい。
「…………義弟と聖女。その他の仲間は現在行方不明だ」
「は?」
「狗め……お前は知っていたのでないか? 北に眠るらしい迷宮にいきまだ帰っては来ない」
「ああ!」
ラストダンジョンだ。
クウガも強くなったなぁ、やっとそこまで行けるようになったか。
そこで黒い思念体みたいのを倒しハーレムの呪いを解くはずだ。
「ちっ。やっぱり狗の……いや魔女の入れ知恵か」
「いうてワラワは関係ないのじゃ。ドアホウの頭の中までワラワは管理してない。このドアホウは時々ワラワも驚くほどの知識を持っているのじゃ」
「照れるなぁ」
師匠の横にいたセリーヌが「さすがベルお兄ちゃんね」と拍手してくれる。
「褒めてないのじゃ。じゃぁ王国の聖王にでも頼むのじゃ」
「すでに手は尽くしてある。が、呼吸は弱く以前のような元気は」
「ってかさ」
俺はアレキに話しかける。
「なんだ狗め」
「皇帝が死んだら何がダメなの?」
アレキが固まった。
え? 俺何か悪い事いった?
「血も涙もない狗め」
おかしい。
このアレキだって散々人の命を使ってきたはずだ。
それなのにここまで言われる意味がわからん。
「ドアホウも屋敷にいた兄が病気なら同じことをするのじゃ?」
「え。スゴウ兄の事。いやしないけど……あっ、確かにアンジュだったら助けるか」
心の中で訂正しよう。
この悪魔のような皇子も人の子だった。というわけだ。
「不老不死の薬はないのじゃが……万能の薬なら」
「あーラストエリクサーです?」
ゲームでよくある究極の回復アイテム。
ゲーム内でよく使われる回復アイテム名前ランキングで第3位ぐらいで使われる名前『エリクサー』それの上位版『ラストエリクサー』。アリシアの回復魔法ではないが瀕死の状態でも一瞬で回復する。
ちなみに2位が『やくそう』1位が『ポーション』という俺の分析結果が出ている。
「あれ。皆黙ってますけど?」
「いや、もう何も言うまいなのじゃ」
「すごいわ。エリクサーならまだしも、ラストエリクサーの存在を知っているんだなんてセリーヌびっくり」
うん、墓穴ほったっぽい。




