第194話 洗脳されていた……?
「思ったよりも美味しくなかったわ。やっぱり友達じゃないと美味しくないのね。あらメイママにベルお兄ちゃんどうしたの?」
ええっと。
どうしたの? と言われてもな。
「まぁうん……食べちゃったならしょうがないか、ねぇ師匠」
「ワラワに振るななのじゃ……いったじゃろ。セリーヌはセリーヌで危ない奴じゃと」
「セリーヌの事をは話してる?」
元々迷宮ダンジョンなんて死と隣り合わせだ。
それに俺達を殺そうとしてきた奴が食われた所で痛くもかゆくもないが、あまりの衝撃でちょっと思考が止まっただけ。
「セリーヌその、美味しくないなら、もう人間は食べない方がいいよ」
「そうね、次はそうするわ」
「以前も言った事があるはずなのじゃ……」
と、言う事は絶対に忘れてそう。
いや忘れたふり?
「さて、セリーヌ。そこの2人を治してくれなのじゃ」
「メルママの頼みなんて何百年ぶりかしら。断っても良いんだけど今日は気分がいいの」
セリーヌはまず最初に首筋の切れ目に指を突っ込んだ。
指先に青い血が付いており、次の瞬間には首筋の傷は消えている。
その青い血を黒魔石になりかけの2人にかけ始めると急激に人間の色に戻って行く。
「治ったら、どんな味がするのかしら」
「まてまてまて、食べちゃだめだからね」
「わかってるわベルお兄ちゃん。でも美味しそうよね」
これ以上食われてみろ。
後味が悪すぎる。
「で。どれぐらいで戻る?」
「3年ほどかしら」
「ながっ!」
思わず突っ込む。
セリーヌが俺のツッコミにきょとんとして「すぐだよ?」と言って来た。
ああ、そうか竜の時間で言えば3年なんて一瞬なんだろうな。
ここから集落にもどって、貴方の村の巫女は3年後に戻ります。って言うの? 嫌だよ。
「セリーヌよ。3時間にせい」
師匠が淡々とセリーヌに命令する。
その言葉を聞いたセリーヌは不満顔だ。
「メルママ無理よ」
「師匠それはさすがに……納期の10倍ぐらい短くは」
「なに。どうせ中抜きして時間を稼ぐだけなんじゃろ?」
うーん。
中々答えにくい事をぶっこんできた。
実際に3日で出来る仕事を5年かけてやり続ける人たちがいるからなぁ。
「ワラワは帰るが、ドアホウはここに3年いてもいいのじゃ?」
「え。いやですけど?」
「ベルお兄ちゃん。セリーヌを置いていくの?」
「え。いやそれは……」
右手に水竜に乗った師匠。
左手に上目遣いに俺を見てくるセリーヌ。
究極そうな二択で正解は1つしかない。
「セリーヌ。3年後また来るから、待っていてくれる?」
「…………ベルお兄ちゃん。優しいかと思ったのにそうでもないわ」
確実にセリーヌから見て俺の好感度が下がった。
「師匠のせいで俺の信頼度が!」
「元から無いから安心するのじゃ。セリーヌよ外に行けば美味しいものあるのじゃ。先ほどのワラワへの暴言、それで許してやってもいいなのじゃ」
「むぅ……セリーヌよりメルママの方が弱いのに……」
それはそう。
竜と魔女。
普通に考えたら竜の方が勝つ。
勝つと思うんだけど……師匠の強きは崩れない。
ナイの時もそうだったけど、切り札があるのかもしれない。
「試すか?」
師匠が淡々とセリーヌにたずねている。
「ええっと、セリーヌ。この場合先に言うけど俺は師匠側につくからね」
「むう……わかったわ。皆セリーヌの事が嫌いなのね。セリーヌ少しいい子にするから好きになってくれるかしら?」
「いい子じゃったらな」
「本当!? じゃぁいい子になるわ、お友達は多い方がいい者」
先ほどスルガを消したセリーヌの影が形を変える。
黒い影が死神のカマのようになりセリーヌの手首を斬り落とした。
「はっ?」
俺達の見ている前でセリーヌの手首から青い血がどばどばでると、黒魔石なりかけだった2人にびしゃびしゃふりかかる。
先ほどまでマネキンだった2人が静かに呼吸するほど回復しだした。
「これでいい? メルママ」
「十分じゃ。ほれ」
師匠は水竜から降りると両手を広げた。
ハグをする体制だ。
「メルママ!」
走るセリーヌは師匠に抱き着きぐるっと一回転する。
ここだけ見てると、何て微笑ましいんでしょ。
まるで妊娠が発覚して男に捨てられた元ヤンキー娘が成長し、育児のために黒髪に戻して娘に対してスパルタ教育してるようにしか見えない。
「バースト!」
師匠が俺に杖を向けて一撃を放す。ギリギリで回避した、あっぶねええ!
威力は小さいが確実に怪我をする魔力だ。
師匠は杖から魔石が落ちるとすぐに別の魔石へと交換し始めた。
「うおお!? 師匠!?」
「ドアホウ、変な眼でワラワとセリーヌを……いやワラワを見てなかったのじゃ?」
師匠の感が鋭い。
「微笑ましいな。ってだけですよ……貴重な杖の魔力を俺に使わなくても」
「どうだがなのじゃ」
――
――――
ピッタリ3時間。
とはいかなかったが半日程度で2人は元の人間に戻った。
2人とも迷宮主で第3の眼を持つセリーヌを見ては慌て暴れはしたが、攻撃をしてこないとわかると何とか落ち着いた。
俺達5人は地上に出て握手をしている所だ。
「助かった……オレの無礼を詫びたい」
「いやいいって。部外者は部外者だし。それに結局探したけど《《スルガさんだって見つからなかったし》》」
そういう事にしておいた。
俺の隣にいる子が食べました。とは絶対に言えない。
「元々出戻りの奴だ。魔石を盗んで逃げたのだろう……金が無くなったら戻って来る、気にするな」
永久に戻ってこないよ。
「あの……どうも」
短く礼を言うのはマスカット。
なんでも、長老の通訳ばっかりをして自分の事となると口数が少ないらしい。
そのマスカットの手には大きな黒魔石の入ったカバンを大事そうに抱えている。
「いや。ついでだし、それに良かったな両親の遺品だろ」
「……うん」
2人が人間に戻るまでに周りを物色したらあった。
お土産にもらおうかとセリーヌに元が魔物であっただろう黒魔石を詰めて置いたら、意識が戻ったマスカットがカバンに飛びついたのだ。
ああだ。こうだ。と話を聞くと両親の物らしくそのまま渡す。問う事に。
「しかしジルと名乗ったほうが必死に代金を渡そうとしてドアホウ断ると、娘のほうが脱ぎだしたのは驚いたのじゃ」
「セリーヌ、人間の交尾みたかったわ」
「……………………恥ずかしい…………」
無料で渡す。って言うのに大混乱したマスカットは金を受け取らない俺に対して体で払おうとしたのだ。
俺が断るとジルのほうも、男のほうがいいのか? とか脱ぎだすし結構大変で。
「それより、本当にドー族の集落に戻らないのか?」
「用は終わったし。近くの転移の門を起動させて帰るよ」
「そうか……また集落に寄ってくれ何か礼をする……オレでよければ一肌脱ごう」
「私も……」
物理的に脱がないで欲しい。
それだけは念を押しておく。
俺には師匠がいるし、師匠に見向き去れなくてもまず男には走らない。
ジルとマスカットは俺達が乗って来た馬に乗せて帰らせた。
残ったのは3人だ。
俺と師匠が歩くと、当然の様にセリーヌがついて来る。
俺と師匠が休憩すると、当然の様にセリーヌが座って俺の作る食事を待っている。
師匠の道案内で遺跡にいき、壊れた転移の門に魔力をいれ、複数の転移の門を使い師匠の家へとついた。
当然の様にセリーヌが師匠の家に入り、ソファーに座り込む。
「ベルお兄ちゃん難しい顔してどうしたのかしら?」
「なに。元からドアホウはあんな顔じゃ」
当然のように3人でいるけど俺って催眠にでもかかったのか……?




