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負け悪役貴族に転生した俺は推しキャラである師匠を攻略したい  作者: えん@雑記


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第193話 セリーヌは考えました

 トコトコとセリーヌの後ろを歩く。

 見た感じ本当に10歳前後にしか見えない女の子。

 こんなダンジョンの中に女の子が歩いていると言うのが不思議である。


 そのセリーヌが振り返って俺を見て来た。



「ベルお兄ちゃん、人間なのに珍しいね。セリーヌのこの顔を見ても驚かないだなんて」



 額にある縦ひし形の眼。

 その眼がぎょろっと俺を見てくるのだ。



「オタクはそれぐらい平気だから」



 3つ眼だろうが、半獣だろうが、亜人だって大丈夫。



「ふーん」



 ふーん。って自分で聞いて来たくせに。



「それよりも、魔物多いから俺が前に行こうか?」

「ベルお兄ちゃん優しいのね、セリーヌどうしようかなー。うん、怖いし前にいってベルお兄ちゃん」



 俺が前に行こうとすると師匠から止められた。



「ドアホウ。ああ見えても迷宮主なのじゃ。前を歩かせたほうがいいじゃろ。敵が寄ってこないはずなのじゃ」



 水竜に乗った師匠が呆れかえった声で俺に教えてくれる。



「もうメルママったら、そうセリーヌは迷宮主なの。お友達が欲しいだけなのに……皆にげちゃうのひとりぼっちでかわいそうなセリーヌ」



 可哀そう。

 そうか、ひとりぼっちだったんだな。



「ドアホウ。騙されるなのじゃ、どこの世界にお友達を食べる奴がいるんじゃ」

「メルママは少し怒りっぽいの」

「師匠少し怒りっぽいですよ」



 師匠が黙って杖を出して俺に狙いを定める。



「冗談ですって……」

「まったく……まぁなんにせよ。会えた事は嬉しいのじゃ」

「本当!? だからメルママ大好き」



 セリーヌはとてもうれしそうにスキップする。

 先を歩くセリーヌから少し離れて師匠の横に行く。



「所で師匠魔法使えないのに杖は使えたんですね……」

「保険」



 短く言う師匠は凄い不機嫌そうだ。

 綺麗な顔が台無しである。

 いや、不機嫌な師匠もこれはこれで綺麗である。



「なんじゃ?」

「不機嫌な師匠の顔も綺麗だなって」

「ばっ! …………周りをみておけ、セリーヌが先頭で道を案内してるとはいえ警戒はするべきなのじゃ」

「うい」



 そのセリーヌが小さく歌を歌っている。

 9層。8層。7層。一度も戦闘をしないまま上へと上がる。



「セリーヌ……」

「なーに? ベルお兄ちゃん」

「迷宮主なんだよね? えっと、この後はまた地上に出れないだろうし地下に戻って……1人なのか?」

「わぁ心配してくれるの!?」

「心配と言うか……起こされて俺達に使わされて、またバイバイは何だかなって思って」



 普通に考えると俺と師匠がド畜生である。

 これだったら起こさない方よかったまであるし、セリーヌに血を届けろ。といったナイが一番悪い奴。



「セリーヌお外行けるよ?」

「師匠!?」



 俺はセリーヌに聞くより師匠に聞いてみた。



「んあ? なぜワラワに……セリーヌは竜の中でも神竜に近いのじゃ。ナイと同じにこの迷宮に縛りをつければ外に出る事なんて簡単じゃろ」

「あ、そうなの?」

「うん。それにナイお兄ちゃんの血ももらったし100年は大丈夫」



 十分じゃん。

 少し心配して損してしまった。



「メルママ。セリーヌお外見てもいい?」



 セリーヌが立ち止まると、水竜に乗っている師匠に上目使いで聞いている。



「師匠! 断るだなんて、どんでもない」

「まだワラワ何も言ってないのじゃ! 誰が断るって、ああ? なのじゃ」



 かろうじて『なのじゃ』をつけた師匠が俺をにらんでくる。



「本人の好きにせい。どうせ封印されていたっても破ろうと思えば破れたのに黙って寝てたいだけじゃったのじゃろ?」

「だって、お外は知らない人ばっかりなんだもん。誰かと一緒じゃないとつまらないわ。お友達は食べたらだめって言うから、知らない人ならいいのかなって……怒るだなんて……セリーヌ困っちゃう」

「あははは……」



 あれ。

 この子ってナイよりヤバいか?

 ナイはあれもあれで人間を下に見て人間の命なんて簡単に見捨てる感じはしたが、ちゃんと亜人などを守ってるみたいだし。



「そうだ! メルママ。ベルお兄ちゃんなら食べて良い?」

「………………いいの――」

「待った待った待った! 本人いるからね!? 師匠ちょっと許可ししょうとしたでしょ!? 駄目だからね!?」



 セリーヌは驚いた顔で師匠を見る。



「ワラワは『いいのじゃ。と、でも言うと思ったのじゃ?』と言おうとしたけじゃ。セリーヌ、昔にも言ったのじゃがワラワが決める事ではないのじゃ。ただ人間は怖いぞ」



 子供を諭すように言う師匠にちょっと見とれてしまう。

 セリーヌは口を小さくして、うーん。と唸り始めた。



「そうね。セリーヌ人間に殺されたの思い出しちゃった」



 中々にヘビーな過去だ。

 あれか? 前に師匠が言っていた転生みたいなものか? だから姿が小さいのかもしれない。



「メルママ。着いたよ?」

「流石に敵が出ないと早いなのじゃ……そこの中央に……見えるなのじゃ?」



 中央部分に黒魔石に変わりそうなマスカットとジルがいるはずだ。

 師匠が透明マントをかけてその姿は見えない。


 現に俺の目視では全く見えない。気配を探ろうとしてやっとわかる感じだ。


 セリーヌの第3の眼の黒い部分が大きくなる。



「あれね」



 セリーヌはぴょこぴょこ歩くと透明な布をはぎ取る。

 布は茶色になり炭のように崩れ落ちると、その下から人間の形をした黒魔石が出てきた。


 いや、まだ完成はしてないはず。



「なんだその娘は!?」



 突然の声が聞こえ俺は声のありかを見る。

 地上に出る方の階段部分に驚いた顔のスルガだ。


 影に隠れていたのだろう。

 思いっきりぴんぴんしてる。



「おお! 2人とも無事だったんだね。ええっとその子は何かな?」

「メルママ。あの人はだーれー?」



 セリーヌは師匠に聞くが、師匠は何も言わない。

 返事が無いのでセリーヌは俺を見る。


 えー俺の役目なの?

 こういう役目嫌なんだけど……マジックボックスからアンジュの剣を出して腰を落とす。


 殺気を感じたのかスルガは俺の間合いから外れた。



「な、なんの冗談だろうか旅人さん。ボクはその2人が心配で探していたのに突然出てくるだなんて……何か魔法かな? 早く助けないと、まだ間に合うと思うんだ」



 白々しいもほどがある。



「脚は?」

「脚……? ああ、これかい? 実は義足で……いやぁ魔物に襲われた場所に戻ったらあったんだ」



 人の好さそうな笑みを浮かべては近寄ろうとしてる。



「面白い模様をつけた可愛い女の子だね……どこにいたんだい? 他の冒険者の子供かな?」

「セリーヌの事?」

「ああ、そうだよ? セリーヌっていうのかい……こっちに来ないか?」



 セリーヌは俺達に何も聞く前にスルガの方へ歩いて行った。

 近くにいくとスルガはセリーヌの腕を引っ張り首筋に黒い短剣を突き付ける。



「動くな!」



 俺も師匠も別に動いてはいない。

 でも、これ以上は動かない方がいいだろう。



「あら。セリーヌ人質になったのかしら?」

「ああ、そうだ馬鹿な子供だ。どこから見つけたか知らないが、動けばこの子を殺す」

「わぁどうしよう。メルママ、ベルお兄ちゃん、セリーヌ人質になったようだわ」



 スルガの声は緊迫しているが、人質のセリーヌは可愛らしい声をあげて楽しんでいるようだ。


 どうしたものか。


 とりあえず要求を聞いてみるか。

 悪党に人権なんてない! と思うが俺とて毎回血なまぐさい事はしたくはない。



「要求は?」

「そこの黒魔石だ。どうせお前達もそれを狙っているだろ……こっちに前回は失敗したからな、今回こそ成功させる」

「前回……?」

「マスカットの馬鹿親の事だ。肉体がまだ残っていて全然取れなかった」



 うーんゲス。

 でもまぁ金が目的なら話は早い。

 不本意であるが金を渡せばお互いに争いはしないのだ、払える分なら払って追っ払おう。


 ここまで単独で潜れる実力はあるんだ、なかなかに強いとは思うし。



「そこの女動くな!!」

「きゃっ、首筋が痛いわ」



 師匠が杖を手にしようとした所、セリーヌの首に黒い短剣が少し突き刺さる。



「ねぇ……人間さん。セリーヌお腹減っちゃった」

「ちっ人質は喋るな」

「メルママはママ。ベルお兄ちゃんはお兄ちゃんなの。《《外にいる人間はお友達。》》お友達は食べちゃダメって言われたの、じゃぁここにいる、貴方はなーに?」



 あっこれ。

 駄目な奴だ。

 声に魔力があるというか俺の体が固まる。



「腹が…………減ってる…………のか?」



 スルガの顔がぎこちない。



「おま、その模様……なっうご。動いた! 眼!? なんだお前!」



 額の第3の眼。入れ墨と思っていたのか動いたんだそりゃ驚くよね。

 確かに入れ墨を入れる事で魔力をあげる技があるもんな。



「自己紹介まだったかしら? セリーヌって呼んでね。お友達になりましょ、貴方のお名前は?」

「ばっ誰が友達になるか、人間に化けた魔物かっ!」

「なっ!? セリーヌ!!」



 俺は思わず叫んだ。

 セリーヌの首筋に黒いナイフが思いっきり刺さり薙ぎ払われる。

 人間で言えば致命傷、直ぐに傷を治さないと死ぬ、死ぬというのにセリーヌの傷口からは血が出てこない。

 斬られた傷だけが見えスルガが一歩二歩と下がる。



「セリーヌわかったかも、迷宮にいるお友達になれない人間ならいいって事よね」



 セリーヌの影がぬっとでるとスルガを一瞬で飲み込んだ。

 スルガは悲鳴すら上げない間に影の中に消え沈黙だけが残る。



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