第191話 悪い奴ほど善人を演じる
怪我したスルガを手当てして事情を聴く事に。
「で。この先にマスカットがいるって事?」
「巫女であるマスカットは大事な存在だ。それなのにこのダンジョンに来たという事は、マスカットの両親を探しに」
「でも、もう死んでるんだろ?」
身もふたもないが、死人を探すのはちょっとな。
「いや。黒魔石になっているはずだ」
スルガは断言し俺を見る。
「この先に2人が入って行くのを見た。きっと遺品を探しに、くそ! こんな事になったのも、きっと黒魔石の話を聞いてだろう。旅人よお前のせいだ」
あれ? 2人が入って行くのを見たのに何でお前はここに居るんだ。と、言うツッコミは言わない方がいいのかな?
まぁ足斬られてるし……周りに魔物気配もしないし罠かな?
ちらっと師匠を見ると、師匠は口を曲げて変な顔だ。
助けに行け。と言った割に無言になっている。
じゃぁ俺の好きにしていいって事で。
「ええっと。じゃぁ頑張って」
ここはもう突き放す。
だってだよ? 助けてくれって言うのになんで文句を言われないといけない。
それに俺は一度は助ける! って提案したけど集落でやるからって言われたんだよ? 確かに部外者だしな。って思って身を引いたのに。
立ち上がろうとするとスルガが俺のズボンから手を離さない。
伸びるんだけど。
「まぁまて旅人よ……お前達だって黒魔石が欲しいだろ? ここに来たという事はそういう事だろ」
「でも元人間なんでしょ?」
欲しいと言えば欲しいが、大きい黒魔石が元が人間だったかも。と言われると欲しくはない。
それに目的が違う、ここにいるドラゴンに会いに来たんだ、金目的ではない。
「人間以外の黒魔石もある! そこの女性よ本当に見に行くだけでいいんだ、頼む!」
「まったく……師匠はここに残って俺が見てきますよ」
「…………ワラワも行くのじゃ」
珍しいな。
まぁ来るなら来るでいいか、万が一は無いと思うけど師匠の今は一般人以下だ。
スルガが治療されてる時に、うっかり手が滑って師匠の胸を触ったなど事故があっても困る。
そうそして師匠は赤い顔をして、誰も見てないなのじゃ……と言っては服をぬい……口に出してないのに師匠の目が冷たい。
「急に真剣な顔になったと思ったら黙り込んで怖いなのじゃ、何か気になる事あったのなのじゃ?」
「え? まぁ特に」
「ふむ」
足が無くなったスルガを置いていく。
大丈夫かな、と思いつつもスルガも『俺を気にせずに行け!』と言うので4層目の階段を降りる。
カツンカツンと音がすると師匠が小さい声で俺に話しかけてきた。
「おそらく罠なのじゃ」
「はい?」
途中で足を止めて振り返る。
いつになく真面目な顔。
「アレの足。ポーションをかけたのじゃが古い傷なのじゃ、表面を少し切っただけじゃな」
「え? じゃぁ」
「普段は義足じゃろな」
「え。でも俺達を騙す理由って」
「見られたくない物……この先に向かわせたいのじゃろ」
あー……?
「今から戻ります?」
なんだったら少々痛めつけてもいい。
「なに。部屋が見えてきたなのじゃ」
師匠がそういうと体育館ぐらいの大きな場所に出た。
「やっば」
まず目に入ったのが魔石というか魔水晶か? クリスタルの部屋というか遠くの方に下る階段がみえたぐらいで取り放題という状況。
ナナの村で見た魔水晶の部屋よりも大きく鍛冶師メーリスが見たら泣いて喜ぶだろう。
っと。
空間に揺らめぎが見えた。
俺はアンジュの剣をマジックボックスから引き抜いて、何もない空間を横一閃に切り込む、同時に師匠を守るように『水盾』を詠唱した。
何もない空間に手応えがあると、空間から宝石に似た魔石がボロボロと落ちた。
ゆっくりと姿を現した魔物が魔物が床に崩れていく。
「ほう……よくわかったの」
「…………あの、関心するのはいいですけど知っていたら教えて欲しいんですけど。これクリスタルゴーレムですよね?」
「名まで知らぬなのじゃ」
ゴーレムシリーズ。
世間一般では魔石で自動化した人工したのをゴーレムといって。これももう現代の技術では再現不能な魔物、よく遺跡とかに眠ってる。
大小さまざまであり、俺が斬ったのは人間の2倍以上の高さだ。
クリスタルゴーレムはそれの強化版で『マナ・ワールド』では隠しダンジョンに出てくるはずの奴。
魔石に化けて、近寄って来たのを魔石に変えては仲間を作る。
宝部屋などにいたりする魔物。として攻略ページで見た。
弱点は物理。
魔法は逆に通りにくく吸収、もしくは反転されやすい。
「それとも。俺と一緒に死んでくれる気でいたとか?」
「ドアホウが死んだらワラワは骨を拾って埋めるか係じゃ」
「死にませんけどね」
といっても、現状不透明な再生スキル? だって完璧とは思えない。
「それよりもアレをみたほうがいいじゃろな」
師匠が真面目な顔でいうので前を見直す。
丁度真ん中らへんに大きな黒水晶が2つある。
両方とも人間の形をしていて……その顔部分は見覚えがある。
「…………あれって」
「…………そうじゃろうな」
無言のまま見つめると足音が聞こえてきた。
師匠と目配せして少しだけ隠れた。
「さて。馬鹿な冒険者はどこかな大きな音も聞こえたし……黒魔石。黒魔石……っと」
俺の目には足がついているスルガの姿見える。
飛び出そうとするのを師匠が止めてくれた。
「死んだか? おっかしいなぁアレにやられると黒魔石になるはずんだけど。ええっと……マスカットとジルはっと。まだ完全硬化はしてないか……あと2日もしたら完全に持って帰れそうだ」
胸くそ悪い話である。
あれだけ善良そうに見えた人間がここまで黒いとは。
スルガはポケットから煙草を取り出すと火をつけて周りに煙を撒く。
その煙は魔力をともなっていて魔物除けの効果だろう。
「しかし、いい時に冒険者が来たな。あれもこれもあいつらに擦り付けれる」
スルガが背後を見せ階段を登っていた。
暫く俺も師匠も無言を貫き、安全を確かめてから小声で話す。
「殺します?」
「殺した所で意味はないじゃろな」
それなんだよな。
良くて行方不明扱い、しかもよくよく考えればこの迷宮の地下4層まで来れる実力はある。
「こっちは1人素人ですもんね。戦いになるとちょっと不利か」
「ワラワが足引っ張ってると言いたいのじゃ?」
「むしろ俺が引っ張りたいです」
「それだと意味が変わるじゃろが……どれ。このまま素通りするのが一番なのじゃが」
師匠は人間の形をした黒魔石の前に立つ。
おもむろに触ると俺を見て来た。
「触ってみるのじゃ」
「セクハラになりませんかね?」
と、いうのは師匠はマスカットの胸を触っているからだ。
「男の方を触れ」
「それはそれで嫌なんですけど」
ジルだった物に触る。
触った所で冷たく硬い感触しかない。
「マジックボックスに収納してみるのじゃ」
「…………あれ? 入りませんね。これぐらいであれば入るはずなんですけど」
「マジックボックスはまだ、この物体を生きてる。と認識してるのじゃ。近くに落ちてる魔石なら収納できるじゃろ?」
師匠の言う通り落ちてる魔石の欠片はマジックボックスに入った。
「生きてるんですかね?」
「あの男もまだ数日かかる。と言っていたのじゃ」
「治るんですか?」
「何とも……ワラワは知らんのじゃ。迷宮主であるセリーヌに聞いてみるしかないのじゃ」
うわ。役に立たない。
「ドアホウいまワラワの事を役に立たない。と思ったのじゃろ?」
「全く」
口に出してなければセーフ。
「少しは師匠らしい事をするかなのじゃ」
師匠はマジックボックスから透明なビニールっぽいのを取り出すと2人にかぶせた。
物体が消え見た目には何も見えない。
「え、なにそれ透明マントじゃん」
「…………名前は違うのじゃ。見えざる布じゃな、なにレアアイテムの一つじゃ。ドアホウが死んだらワラワはこれをまとって」
「逃げると」
師匠が頷く。
「欲しい。師匠これ欲しいです!」
「駄目なのじゃ!」
これさえあれば覗き放題じゃん。
男の夢、別に師匠しか興味ないけど男の夢アイテムである。
他に男の夢アイテムとしては催眠スマホに時間停止アイテム。
これが男の三大欲求アイテム! と俺は思ってる。
「欲しいですって」
「こうなると思ったから黙っていたのじゃ……どうせワラワを覗くとかじゃろ?」
「そんな変態な事しませんって」
「じゃぁ何に使うんじゃ?」
「………………隠密で皇帝を殺すとか?」
「物騒じゃな、ますます譲れん。というか、これ一度使うと再度使うのに20年はかかるのじゃ」
ダメじゃん、20年も待ってられない。
「さて早く地下に行くぞなのじゃ」
「うい」




