第189話 集落傷害事件! 犯人は……
客室用のテントに師匠と戻る。
囲炉裏っぽいのに火をつけて体を温めなおしながら師匠をみた。
厚手の毛皮に包まると毛皮の中から先ほどまで着ていた衣服を外に出す。
当然、外に抜き散らかした衣服はそのままだ。
「器用な……」
「ふぅあったか……なんぞ文句あるなのじゃ?」
「別に……あっそうだ。黒魔石の話した時に変な空気になったんですけど、なんでかわかります?」
毛皮のままゴロゴロ動く師匠はもう師匠の威厳なんてこれっぽちもない。
「んーそこは知らんなのじゃな。どれ久々に授業なのじゃ」
いもむし師匠がぐるぐると火のそばに寄って来る。
器用に俺の横まで回ってくると火にあたりながら説明してくれそうだ。
「と言っても短い。魔石は魔物から出る……例外もあるがまぁこれが基本なのじゃ。黒魔石は不思議と人から出る事もある。まぁこれも例外ありじゃがな……だからワラワは遺体を聞いたのじゃ」
「確か、あった……と言ってましたね」
「回収した。とは言ってないのじゃ。可能性として黒魔石になっていたとかそんな所じゃろ。それにあの小娘の怒りようもう口に出さない方がいいじゃろうな」
師匠はそれだけ言うとゴロゴロと回転して一番暖かい場所で丸くなる。
俺も寝袋みたいな毛皮に包まると久しぶりの寝床に感謝しつつゆっくり寝る事にした。
うーん。
諦めるか。
判断が早いよ!? とアリシアになら言われそうだけど、俺だってそんな元人間の黒魔石から魔力を吸い取る師匠は見たくない。
別の手を考えるか……魔力ねぇ。
あっ!
俺の魔力はどうなんだろ?
「師匠、師匠!」
「んあ……?」
眠そうな師匠が俺を見て口を閉じる。
「吸ってください」
「…………出来るかなのじゃ! 馬鹿言ってないで寝ろなのじゃ」
駄目か。
師匠が背を向けてしまった。
まぁ、さっさと薬渡しに行くか。
俺も目を閉じて寝る。
一瞬師匠にセクハラ仕様か迷ったけど、毎回するわけにはいかない、本気で嫌われたくないし。
周りがごそごそしだして目が覚めた。
テントの中は少しだけ明るく目の前に白い師匠の足が見える。
上を見上げると師匠が欠伸しながら着替えをしていた。
ちょっと舐めたい。
と言うのは口に出さないで俺も体を起こす。
「おはようございます師匠」
「んー」
おはよう。と返事を貰って俺もさっさと身支度をした。
ちょっと先に外に。と断ってからテントから出た。
子供達は遊んでいて、女性たちは仕事をしている。
男性の姿も少なく俺に「旅人さんごゆっくり」と挨拶をされると少しムズかゆい。
別に泊りに来たわけじゃないからな。
魔石を磨いているジルがいる所にいくと、無口な男が今日も魔石を磨いてた。
「…………何の用だ」
「何のって暇そうな人ここしか知らないし」
「帰れ」
俺は近くに座ると魔石を磨いている作業を眺める。
布で丁寧に拭いた後に、粉を撒きさらに磨いていく、特殊なやすりなのか魔石の輝きが増えていくのが面白い。
俺もこういう作業で食っていきたい。
喫茶店ならぬ、喫茶魔石。
「ふう……本当に何の用なのだ?」
「え。いや、本当に見ていただけなんだけど……地図欲しくて。この辺にある迷宮ダンジョンのある場所。長老に貰おうとしたけど『ふが』しか言わないし。俺を集落に招いてくれたも探したけど見当たらないし」
「ああ。スルガの事か狩に出ている時間だ。この辺の迷宮で言えばこの地図をやる」
ジルは待ってろ、と言うと一度テントに戻って俺に手書きの地図をくれた。
集落を中心とするとその周りに迷宮が8個ほどある。
「多くない?」
「オレが磨いている魔石は、この辺からとったものだ」
「じゃぁあの。ドラゴンいる迷宮はない?」
「……無い」
一気に不機嫌になったジルは魔石を磨き始める。
「まぁまぁこれあげるから」
俺はマジックボックスから大きな魔石を出す。
ジルはちらっと魔石を見ると険しい顔になる。
「おまえら冒険者は金を見せたらなんでもなると思っているらしいな。マスカットの両親もその言葉で……長老は歓迎しているようだが俺は歓迎しない。帰れ」
怒らせてしまった。
だが、待ってほしい。
帰れ。と言われて帰れるなら帰ってる。
「いや。どう帰れと……ここからストームまで何日かかるのか。そもそも足もない。船だってない。徒歩で帰りたくない。せめて転移の門の場所知らない?」
「…………はぁ。転移の門というのはまた古い遺跡の話だな。お前がその遺跡を治せるとは思えないが、ここと、ここにある」
「どうも」
それだけ聞ければいいか。
不機嫌なジルに礼を言って師匠のいるテントに戻ろうとすると、通訳のマスカットがテントから出てきた。
一瞬こっちを見てびっくりした顔になったが、すぐに走り去っていく。
俺そんな嫌われる事した?
テントはあけ放たれていて俺は中を覗くと長老が血を流して倒れていた。
「は!?」
――
――――
集落の一大事。
長老のテントには全員がいて……いや通訳のマスカットだけがいない。
師匠が長老の体に毛布をかけ、顔にも白い布をかぶせる。
長老は「ふが」というと白い布を鼻息で飛ばした。
「このように軽く頭を打って斬っただけじゃな」
「ふがふが!」
「…………おい! 誰か通訳しろなのじゃ」
師匠が諦めた声で言うが、誰も答えない。
だって通訳のマスカットがいないんだもん。
凄いのが誰一人長老の言う事がわからない。
「長老の言葉は神の言葉。その言葉を理解するのは代々1人だけなんだ」
「ふがふが!」
長老は胸から1枚の紙を出した。
古臭い紙で俺に渡すと開いてくれとジェスチャーをしてくる。
俺はその紙を開くと先ほどジルに貰った地図と似ている、違うのは赤丸で1個しるしが追加されている、先ほど貰った地図にはない。
ジルがその地図をのぞき込むと「まさか」と呟いた。
「何あるの?」
「…………マスカットの両親がいた場所だ……黒魔石のある洞窟」
「ドアホウ」
師匠が俺の名前を短く言う。
たまに俺の本名はクロウベルなんだけどってのを忘れそうになるが俺の名前を言っている。
「まぁそうなりますよね。宿の礼って事で俺が見てきますよ」




