第187話 黒魔石がめっちゃほしい
レイアラント諸島。
昔は大きな大陸だったらしいけど、度重なる地震などで諸島になったといわれる迷宮群でもある。
草木よりも岩が多い地形で、うっすらと雪が積もっている場所もあるぐらいに寒い。
その近くにある集落前に俺と師匠は《《徒歩》》でついた。
なんで徒歩かって……。
「まさか……馬が食われるとはなのじゃ」
「師匠なんて丸のみされましたもんね……」
「足だけなのじゃ!」
砂漠地域を抜けるまではよかった。
平原に変わったと思ったら大きなスライムの群れが襲って来た。
1匹ならまだいいよ? 師匠なら俺が守る! って思ったんだけど馬までは無理。
危険を察知して勝手に逃げるし、師匠がそれに捕まってるし。
俺はスライムの群れと戦ってるので追いかけれないし。
追いついたら馬車がスライムに食われており師匠もスライムプレイになりそうだった。
服だけ溶かすなら俺も黙って見ているが肉まで溶かすとなると大変なので師匠を助けた時には馬も馬車も終わっていた。
戻るも地獄進も地獄。
というか、うん。禁止地域になる理由がわかったよ。
その後もオーガの群れとか、小さい迷宮ダンジョンから魔物があふれていたり。
師匠に言わすと地面と迷宮の境目があいまいになっている場所があるのなのじゃ。と物知り顔で言っていたので、実は俺もそう思ってました。と返しておく。
そんなこんなで10日ほど夜営を繰り返しやっと人が住んでいる場所についたのだ。
大きな柵があるので人は住んでいるのだろう。
雰囲気的にナナの村に似ている。
誰もいないので村の中に入っていくと人影が見えた。
手を上げ敵意がない事を示すと相手の男性も近寄って来る。
「やぁ……こんな場所に良く来たね。冒険者かな?」
「そんなような、宿が欲しい。後この辺の地図」
「宿は無いよ? 我々は遊牧民だからね、地図と言っても手書きの奴でいいなら……」
「あっもしかしてドー族?」
俺の一言に男性はびっくりした顔になり、師匠は「なんじゃ?」と聞き返して来た。
「引きこもりの師匠は知らなくて当然として、竜を神としてあちこちに移動する遊牧民ですよ」
「凄いな! ボク達の事を……何者なんだい?」
ゾワっとする気配がする。
前を向くと宿を聞いた男性が笑顔なのに殺気を放ってる。
やべ。
密教だったか?
「普通の冒険者。迷宮群にあるお宝を取りに」
「そうなのかい? いやそういう事にしておくと言った所か、宿は貸そう……が変な事をしないでくれよ?」
念押しされてしまった。
後ろにいた師匠に無言で腰を叩かれた。
大きなサーカスみたいなテントに通されると中は温かく、お爺さんがふがふがいってる。
長老のマスケード爺さんだろう。
ふがふが言っていて、その隣にいる女性が通訳をするというゲームならでは爺さんである。
「ふが!」
「良く来たな旅の者。と、言っています」
「ふがふが!」
「我は長老のマスケード。竜の神に導かれしものゆっくりするがよい。と言っています。あっ私は通訳のマスカット。と言います」
セミロングで眼鏡をかけた堅物そうな20代前半女性が頭を下げてきた。
「ふが」
「…………もう、お爺様ったら」
マスカットは、赤面し長老の頭を思いっきり叩く。
何を言ったんだ何を。
「さ、長老の挨拶もおわった。空きテントを用意させてある、東の地から来たんだろ? 命があるだけでも儲けものだ」
遊牧民のテントに入れられて、案内役の男性も消えていく。
俺と師匠は各々に腰を下ろすと一息つく。
「で、相変わらずドアホウは変な所に詳しくて」
「いやー俺だって、まさか密教とは」
「知っている事を話すのなのじゃ」
と、言われても。
「少ないですよ。遊牧民で竜を神とあがめてるぐらいで……あちこちにいて道案内的な」
他は……。
「あっ!」
「なんじゃ!?」
「黒魔石……いや。なんでもないです」
別の所で久々にあった長老が、黒魔石を自慢していたはず。
最初にあった時には持っていなくて『英雄になった時にはこの黒魔石で武具を作ってやる』と通訳の女性が話してくれた事を思い出した。
「黒魔石。あの皇女の手紙にもあったやつなのじゃ。ワラワもしばらくは見てないなのじゃ」
「貴重なんです? やっぱり」
「まだ魔法使いが多かった時代は一欠けらで城が買える。と言われていたのじゃ」
めちゃくちゃ高い。
「魔力の質が違うのじゃ。中に貯められた魔石は普通の魔石の数十から数百と言われておる。それがあればワラワの魔力も戻るかもなのじゃ……」
「本当です?」
「可能性だけなのじゃ。さて……飯の時間は一緒に取ると言っておる。それまで寝るなのじゃ」
毛皮の敷物の上に師匠が寝転がる。
俺は真ん中の囲炉裏っぽい奴に火をつけて中を暖かくしてあげる。
黒魔石か。
師匠の胸を見ながら考える。
黙って見ていたら、師匠が目を開けて俺を見た後に背を向けた。
俺は黙って尻を見る事にする。
師匠が上半身を起こして俺を振り返ってみた。
「ドアホウ……」
「なんです?」
「視姦が酷い」
師匠がちょっとキレてる。
「せめて見抜きって言ってもらえません?」
「意味は同じなんじゃろ? 襲うか外いくかどっちかにしてくれ……面倒なのじゃ」
「…………外行きます」
俺がテントを出ようとペロンと出入り口の布を開けたら遊牧民の子供達が走って逃げる。
あっぶね。
子供達は旅人を見に来ただけだろうけど、その子供たちに大人の階段を見せる所だった。
ぶらぶらと散歩をする。
遊牧民全体で50人ほどか?
羊みたいな家畜もいるし、魔石保管してる人もいた。
あれを売って生活してるのだろう。
「黒魔石か……欲しいな」
師匠の魔力が戻るなら戻してあげたい。
師匠本人はいづれ戻るって言っているけど旅の途中で歯がゆそうな師匠を何度もみた。
この遊牧民が、ゲームで出た遊牧民なのは、通訳爺さんがいるから間違いないとして。
近くにいる子供を呼び止める。
「なーに、えっちなお兄ちゃん!」
「……えっちじゃないからね? 黒魔石って知ってる?」
「しらなーい。魔石ならジルさん」
ジル。たぶん魔石を磨いていたスキンヘッドの人だろう。
子供にお礼を言ってジルのそばに行く。
「何だ兄ちゃんさっきから俺の前を」
「っと、ジルさんだよね? 魔石の事で聞きたいんだけど……」
マジックボックスから途中で倒した魔石を見せる。
街に売れば結構な値段する大きさ。
「おお、なかなかいい大きさだな……街に行けば高い値段をつけるだろう」
「あ、そうなんだー」
こっちは棒読みである。
「旅の途中で黒魔石って話聞いてさ、これがその黒魔石なんかじゃないかなって聞きたかったんだ」
「…………大きいが大きいだけだな。昔こぶしぐらいの黒魔石を見た事があるが、魔力の質が違う」
「この集落には?」
「あるわけがないだろう……」
今持ってないって事はこれからとるのか?
「迷宮にないかな?」
「…………辞めとくんだな、何人も戻ってこない」
一瞬にして興味をなくしたのか魔石を磨き始めた。
選択を誤ってしまったか。
場合によってはこの魔石を渡すつもりだったけど、この流れで渡したら喧嘩になりそうだ。
「ん。心配ありがとう」
「命を粗末にするな」
少し怒られて俺はその場を後にした。




