第186話 段々としょぼくなる移動手段
アリシア達が帰った後、俺と師匠は手紙を暖炉に入れて《《燃やす》》。
何所かのヤギさんだって《《読まずに食べた。》》ぐらいだ、俺達も《《うっかり》》読まずに燃やした。
暖炉に残った灰をかき集めて袋に入れて終わり。
「ふう」
「贅沢も終わりなのじゃ……そもそもドアホウがルームサービスを頼むからワラワまで」
「それを言うなら師匠だってどうせ頼むならちまちま1個とかじゃなくて100ぐらい頼むのじゃ! ってガンガン頼んでましたけど!?」
「…………」
「…………」
「言い争いはしてもだめっすね」
「なのじゃ。まぁ怒っているのなら仕方がないのじゃ、ワラワも大事なお願い事があるしなのじゃ」
俺はマジックボックスから竜の血を取り出す。
あのクソ生意気で殺したい古竜ナイの血だ、その妹? に届けるクエストなんだけど半年ぐらい前に頼まれた奴。
急いでないって言ってたし急いでいたら俺じゃなくて自分でなんとかするだろうな。
「ドアホウ、その辺の鍋の上に落とすなよなのじゃ。硬いから割れる」
「俺だってそうそうあっ」
俺の手から滑った小瓶は固い床に落ちる。
割れた!? かと思って時はシーンとなったが割れてはいない……いないよな。
拾い上げて小瓶を調べる限り大丈夫そうだ。
「ドアホウ……」
「師匠が急に声をかけるからです!」
「ほんっとう口だけはワラワを超えるのじゃ……」
もう一度マジックボックスにしまい込むとソファーに座りなおした。
「まぁアリシアも直ぐに出ろって言ってなかったし3日ぐらいは大丈夫でしょ」
「思ったよりも短いなのじゃ」
クエスト処理云々はクウガに任せるとして、レイアラント諸島に行くための事を考えないといけない。
「ハッスルの所に行きますか、師匠は食っちゃ寝していていいですよ」
どうせ、チケットの案内だ俺一人でも大丈夫だろう。
「そこまで言うなのじゃ?」
「え。いや?」
別に悪口を言ったつもりは無い。
師匠がかってに悪口を言われたと思って不機嫌になってしまった。
「着替えるからまってるのじゃ」
「うい」
以前の俺なら覗いただろう。
が、最近はだらしない師匠を見過ぎたせいで覗く気にもならない。
そっと鍵穴に目を近づけると、扉が突然ひらき鼻にぶち当たる。
「いっ!?」
「何ゴロゴロしてるんじゃ……?」
「ローブ羽織るだけなんですね……」
「外にいくだけだしなのじゃ?」
高級宿のメイドさんに部屋の掃除を頼んで街に出る。
久々に外に出た気分だ。
ここ最近は宿から一歩も出ないで終わる日が続いたから、師匠は本を読み。おれはそれを本を読みながら眺めるだけの日々。
ああ、幸せだったな……。
「よし!」
「うおっ!?」
「気合いれただけですので」
酒場『オリオン』その扉を開けると昼と言うのに大変込んでる。
カツンカツンという音が止まった。
「クロウベルさん! メルさん!」
呪われた靴を履いたシアーシャが料理を運んでいた所だ。
「久しぶり。ハッスルは奥?」
「はい」
顔パス感覚でカウンターの奥に行く。
師匠が俺の肩を叩いて来たので振り返る。
「なんです?」
「あのシアーシャは何で踊らんのなのじゃ?」
「誰かか満足するまで踊ってくれたので呪いは軽減されたとか、教会で聞きましたけど?」
師匠の何とも言えない顔で「そうなのじゃ……」と聞いてから扉を開ける。
部屋の中ではハッスルは壁に背中を張り付けて体育座り。
電池が切れた置物みたい。というか意志のないNPCキャラみたいで怖い。
その近くでは金貨や銀貨を積み上げては帳簿を書いているシアーニャがいた。
俺達と目があって凄い嬉しそうな顔で見てくる。
「クロウベルさん! メルさーん! お久しぶりですです。待ってたのに全然お店に来ないし、こちらから行くのはどうなんだろ? って宿に泊まっているし。皇帝様とお知り合いとか一言も教えてくれなかったし、あのドス・ケッベルを退けた皇帝と仲のいいお店。と広まって込んでるし、シアーシャ姉さんは動き回れるようになってお客も増えるし、こんなに儲かってどうしていいかわからないよ!?」
おー。
よく噛まずに言い切った。
「いやぁ。がんばれ」
「短っ!」
「いやだって俺としてはそれしか言いようがない。儲かって良かったな。としか。で……あれは?」
置物になったハッスルを見る。
「店主でしたら、帳簿の計算間違いますしいつもこんな感じですよ?」
いつもこんな感じなのか。
耳は聞こえてるのかな?
「おーい、ハッスルのおっさん……頼んでいたレイアラント諸島行きチケット欲しいんだけど」
「ぬおおおおおおお!! ゲキハッスル!!」
ハッスルが立ち上がると雄たけびを上げる。
この状況でもシアーニャは帳簿をにらめっこして手の動きを止めない。
「待っていた。このハッスル、英雄にチケットを渡すのを」
「英雄じゃないからチケット早く頂戴」
「むぅ。取られそうな店を救ってくれた英雄を英雄と言わず何という、そう答えは英雄」
相変わらず話聞かない。
「呼ばれても困るんだけど……でチケットを」
「チケットなどない! ぐぬぬぬぬ!?」
俺は無言でハッスルの首を絞める。
お前がチケットをくれるからってがんばったんだろかい!
「お客さーん。店主を殺されても困るんで」
割と冷静なスターニャがさすがに止めて来た。
げほげほとハッスルが咳をすると、また小さく体育座りになった。
自分の要はおわったとばかりで何なんだ。
「じゃぁどうしろと」
「チケットというかですね。かの地は今禁止区域になっていて、そこに行くには罰則は無いんですけど、命の保証がない。と言う意味で……」
「え? じゃぁそのこの依頼しなくてもよかった?」
「はい!」
元気に答えるスターニャを見て俺はもう一度ハッスルを見る。
目線を合わせない。
「おまっ!」
「ぐはっはっは。普通は依頼を聞く前に町の話を聞くものだ。なぁスターニャよ」
「そうなんですけどね……本当はお客さんが問題を解決できない場合、私達もそっちに逃げようかって話してましたし……。これ馬車とそこまでの荷物です。護衛は付きませんが大丈夫ですよね?」
俺はてっきりワープ装置か自動で運んでくれる馬車みたいなのを期待したけど自分で行くのか。
「定期便は?」
「もちろんないです」
笑顔でいうスターニャから師匠はチケットを受け取る。
まっこんなもんなのじゃ。って言うと内ポケットにしまう。
そこは胸の間に挟んでほしい。
「勝手に行けっていうなら俺の苦労はいったい」
「で、でも本当に感謝してるんですよ。そもそも私達と同じ耳の長い人の踊りてを探してましたし……」
「ああ、そうだ! 同じ種族にしろ。とドスケッベルがうるさかったからな! 馴染の街兵が耳の長い女が入った。と聞いて」
ああ! あの街兵か。
師匠が賄賂を渡した奴、それで情報が漏れたのか。
「なんぞその目はなのじゃ」
「何も」
「でもお客さん。あの皇女様と知り合いなんですよね? 皇女様に送ってもらうと思っていたので声かけなかったんですけど」
…………ああ! 確かに。
宿に泊まらないでサンが帝国に帰る時に送ってもらえばよかった。
自堕落な日々ですっかり忘れていたわ。
――
――――
酒場『オリオン』を出て指定された馬車屋に行く。
話は通っておりホロ付きの馬車が用意されていた、ラクダでなく馬であり、いつでも使っていいとの事で外に止めてある。
馬車屋からは、あんな危険な場所に行くのは何か悪い事をしたのか? と心配されたが、特に話す事も無い。
「後は……クウガに挨拶ですけど」
「しなくても良さそうなのじゃ」
それはそう。
クウガは知人であって仲間ではない。
「まっでもアリシアには挨拶ぐらいはするなのじゃ」
「ですね」
アリシアは知人ではなくて仲間である。
この差は大きい。




