第184話 ぐーたらな自堕落生活
ストームの街に着いて半月。
実はまだレイアランド諸島には出発してない。
豪華な宿に泊まっていて俺は寝ていたソファーから起き上がる。
高い部屋なだけあって、なんと宿なのに3DK、風呂トイレ別という始末。
よくある? スイートルームと言うやつだ。
一泊だけで金貨何十枚で済むのかってぐらい高そう。
それはそうと俺は師匠が寝ている寝室を欠伸をしつつノックをする。
「うん。今日も返事がない」
別に師匠は寝起きが悪いわけではない。
冒険者もしていたので外や夜営では普通に起きる。
が、何もない時は自堕落なのだ。
サービスで置かれている紅茶を入れ、これまたサービスで置いてあるパンを口に入れた所で寝室の扉が開いた。
だらしない恰好の師匠がとことこと歩くと、俺が寝ていたソファーに座る。
その胸がバインバイン揺れて痛そうだ。そのうち取れるじゃないの?
普通の男なら興奮するだろうが、俺みたいな師匠マニアになると平常心を保ってられる。
「師匠、重そうですし支えましょうか?」
「…………朝から殺すぞ」
「うい」
軽いスキンシップの後に師匠は俺がいれた紅茶を飲む。
手が差し出されたので、《《ウインナーを挟んだパン》》を手渡した。
師匠が何か言いたそうな目で俺を見てるが、俺は悪くない。
置いていったのは高級ルームサービスの人だから。
一口で8割ぐらいウインナーを食いちぎった師匠は紅茶で口の中をすっきりさせると欠伸をしだす。
「自堕落っすね」
「何もする事がないからなのじゃ。暇なら冒険者ギルドでも行って来たらどうなのじゃ?」
「師匠は?」
「行くわけないなのじゃ。あのサンから滞在予定だった部屋を好きに使っていい。と言われておるのに外に行く事も無いのじゃ」
「俺が言いたいのはそういう事じゃなくて、そんな恰好でいるといくら俺でも」
師匠の魔力はまだ戻らない。
黒髪ロングのままで出る所は出ている。
そんな師匠と半同棲状態なので俺としてもモンモンもんなのである。
「ああ…………ワラワと体を重ねたいのなのじゃ? 確かに今ドアホウに襲われたらワラワは抵抗できないのじゃ」
「またすぐそういう事を、俺を挑発して」
「事実なのじゃ。ワラワがまぁいいか。と思って前にチャンスを与えても手を出してこない癖によく言うなのじゃ」
イラ。
そういう事じゃない。
「俺はチャンスを貰って腰を振るんじゃなくて、ムードが欲しいんですムードが! 事務的なのは嫌なんです」
「…………それ本人に言うのがもうすでにムードも何もないのじゃ」
「うぐ」
しょうがないじゃん。
異世界転移した後の恋愛なんて押せばすぐ終わる。って思っていたのにそうならないんだから。
「落ち込むな。実際ドアホウはよくやってる。だからこそチャンスを与えた……それに襲うなら1回ぐらいは許してやってもいいのじゃ」
「…………襲いませんけどね!」
襲っていいよ。っていう女性を襲えるほど俺は鬼畜ではない。
俺は紅茶を一口飲んでは師匠をもう一度見る。
大きな胸とお尻。
甘い匂い。
細目であり透き通るような瞳。
「あの、セクハラはします」
「やっぱり、死んだ方がいいんじゃ?」
師匠が冷たい一言を言うと部屋が突然あけられた。
スイートルームの扉がノックも無しにだ。
皇女サンから使うなら好きにどうぞ。と言われて使っている部屋をノックなしに入る馬鹿は1人しかいない。
「おはようございます! いい天気で……うわっすみません!」
クウガが扉を開け閉めて消えていった。
なんで? と思っていると師匠が立ち上がる。
「ワラワがちょっと薄着なぐらいだからなのじゃ、いうて奴のほうが恋愛は上手いなのじゃ。ワラワはともかく、ああやって頬を赤面して扉を閉められるとちょっとキュンとなるじゃろうな」
師匠が寝室へと戻ると、控えめなノックの後にクウガが扉を開けた。
「おはようございます、クロウベルさんって……あの薄着のメルさんを見たのは事故ですし、剣を閉まって貰えると助かるんですけど」
「急に素振りしたい気分になっただけだ。ちっ」
「いま舌打ちしましたよね!? あのクロウベルさん!?」
勢いをつけてソファーに座りなおす。
俺が師匠を好きだって言っているから、クウガは師匠に手を出さない。
手を出さないが、師匠から誘われたらクウガはホイホイと手を出しそうで嫌だな。
それで師匠を嫌いにはならないけどさ……。
「してないよ? で、皇帝代理代理のクウガ様は何の用で」
皇女サンが帰った今、クウガは皇女サンの代理として街を駆け回っている。
さすがは皇女を孕ませた男だ、アフターケアもばっちり。
「あの怒ってますよね……? ケッベルファミリーが仕切っていた店などの処理が終わったって話ですけど」
「良いんじゃない?」
「他人事ですけど……一応この宿に泊まってるお二人にも責任はあるんですけど」
「俺はクウガを信じてるからクウガに任せるよ」
即座に言うと「これだからクロウベルさんは……」と何か諦めた言葉が返ってきた。
寝室の扉が開くと先ほどよりも厚着になった師匠がクウガに挨拶をする。
「扉越しに聞こえたなのじゃ。よくやったなのじゃ」
「改めておはようございます……まだ魔力戻らないんですね……」
師匠の髪の色みてクウガ心配する。
クウガに何で髪の色が黒いんですか? と質問された師匠は普通に教えたらしい。
「なに心配は無用なのじゃ。ドアホウもいるし問題はなかろうなのじゃ」
「おお、愛されてる俺!」
「……信用してるだけなのじゃ」
師匠が先ほどの場所に座るとお茶を入れてはクウガに手渡す。
クウガも断ればいいのにそれを受け取って座りだした。
「ありがとうございます」
「飲んだら帰ろよ?」
俺がそう言うとクウガは困り顔になっていく。
「そうしたいんですけど……伝言です。レイアラント諸島行きのチケットの手配が終わったので店に来てほしいと」
「ああ。店って酒場『オリオン』であってる?」
「あってます」
俺達がハッスルの悩みを解決した翌日。
俺達が皇女の知り合いだった。と言う事で美人姉妹から丁重な礼を受け。さらにはハッスルも『任せてハッスル!』 と、キャラが変わったようにチケット手配に力を入れてくれた。
そのチケットがようやく終わりそうなのだ。
「もう少しかかると思っていたのじゃが早かったのじゃ。ドアホウ後で取って来るのじゃ」
「師匠は?」
「寝てるのじゃ」
「太りますよ。魔力のせいか知りませんけど失って半月。体重が増えてます」
「………………そんな事はないはず……マジなのじゃ?」
俺が頷くと、クウガが俺の膝を軽くたたく。
「え。なに?」
「クロウベルさん、女性に言っては駄目な言葉です。そもそもメルさんは痩せすぎなんです」
「そ、そうなのじゃ?」
「これ以上痩せると不健康的ですよ」
師匠がにっこりすると『ほれみろ』と俺を見てくる。
「いや、あの勝ち誇ってますけど事実は事実で、すぐに豚のように。まぁそれでも俺は好きですけど……たぶん」
クウガの意見もわかるが、ここは師匠の事も考えて事実を言うべきだ。
「ぬおお! ドアホウは女心がわかってないのじゃ! たぶんってなんじゃたぶんって」
「じゃぁ言わせてもらいますけどわかっていたら師匠とイチャラブの関係になってますけど!」
「あの!」
クウガが大声を出すので俺も師匠も言葉を止める。
「なんじゃ?」
「なに?」
「十分イチャイチャしてますよね。逆に僕とアリシアはそういう関係にならないし……」
別に師匠とイチャイチャしてるつもりは無いがクウガの何かに触れたようで、落ち込みクウガがネチネチしだした。




