第174話 師匠の1人ぐらい守る事できらぁ!
師匠の家。その住居スペースで黒髪の師匠は普通にお茶を飲んでいる。
『私、魔女を辞めて普通の女の子になります!』宣言を食らった俺はとりあえず家に戻りましょう。と、師匠と一緒に戻ったのだ。
ソファーに座る師匠の前に俺はお茶を出して正面に座る。
一口お茶を飲んでから俺を見て来た。
「最後まで黙っていようかと思ったのじゃが……まぁ今のワラワは魔力は一切ないのじゃ。そうじゃのう普通の人間と変わらんのじゃ」
「普通のって」
そんな師匠を旅に行かせるのはさすがに不味いか。
仕方がない治ってからいくしかない。
「治るのっていつなんですか?」
「わからんのじゃ。前回は3ヶ月ほどかかったのじゃ。その前は数日じゃったのじゃ。元々一度魔力がゼロになった事があっての……不定期であるがたまになるのじゃ」
不定期過ぎるし地味に長いな。
あれ……魔力がないって言ってるって事だ。
これって男性が質問しにくい女性特有のアレと関係あるんだろうか? この世界の宇宙は太陽はあっても月がないのだ。
地球ではその月の引力が関係してなんちゃらほんちゃら……。
女性は子供が出来やすくなったり生命の神秘に一役買っている、でも地球にはない魔力という力が多いこの世界では地球の常識が通用しないし考えた事もなかった。
「…………もしかして妊娠率もアップしてます?」
「…………この状態で聞く質問なのじゃ?」
「ですよね」
師匠はカップを置くと足を組みなおす。
「上がってるはずじゃ」
「おふう」
思わず変な声が出る。
思想は魔女かっこエルフであって子供が出来にくい。と聞いた。
それなのに今だったら子供が出来るのだ。
思わず唾を飲んでしまうと師匠と目が合う。
「興奮するのは構わないのじゃが、ワラワに抵抗できる力はないのじゃ。まさに捕らわれた女じゃな」
「やだな。俺が狼みたいじゃないですかぁ」
思わずその胸と尻をみてしまう。
ばいんばいんのむっちむちだ。
見えない妖精が俺を手招きしてる気分になってくる。
「ちょっと顔洗ってきます」
ソファーから離れて外にある洗面台へと行く。
流れる湧き水で顔を洗って師匠の家に戻る。
タオルで顔を拭きながら俺は元の椅子に座り込む。
「じゃぁ師匠が治るまでクエストは中止って事で」
こればっかりは仕方がない。
俺とて普通の女性と一緒にダンジョンとか潜るのは避けたい。
万が一怪我をさせたら俺はもう一生許せないだろう。
こうなったら1年でも2年でもまってやる。ナイの依頼何て後回しで結構。
「却下なのじゃ」
「いやでも……普通の女性と同じなんですよね?」
「なんじゃったら普通の女より弱いまであるのじゃ」
「駄目でしょ」
ほら弱い。
「ほう。ドアホウはワラワが強い弱いで判断するというのじゃ?」
「別に強い。弱いで判断はしてませんし、師匠がミステリアスで綺麗でレアキャラだから好んだだけで」
「…………人を物みたいに言う癖は辞めた方がええぞ」
「……失礼しました」
ついゲームをプレイしていた癖が出てしまう。
でも、最初はそうだったけどさ。
もう6年以上好きだって思っているんだから、自分で言うのもなんだけどコレもう愛よね。
「まっどうせすぐ直るじゃろ……お荷物なのは認めるが……アレじゃったらドアホウ1人で行ってもいいのじゃ。それが一番早い」
「その間に何かあったらどうするんです?」
「何か。とはなのじゃ?」
例えば強盗とか、強盗とか、強盗など?
今までは強いから考えた事も無かったけど、普通の女性より弱くて口だけが強いって。
「強盗とか? もうクッコロですよ」
「く? っころ?」
「クッコロとは、クソ。はずかしめを受けるなら殺せ! って女性冒険者が敵に襲われる時に言う言葉です。敵は興奮してさらに女性をはずかしめするんですけど、女性も中々に嫌がってな――」
「それ、今説明する事なのじゃ!?」
おっふ。
確かに、今までは師匠が強いから気にしてなかったけど色々と駄目だろ。
「1人では行きたくないです!」
「子供か。こうも、堂々と言うと逆に清々しいなのじゃ。そう言うと思ってもあって一緒に行くって言っているのじゃ。嫌であれば1人でいけ」
もう『のじゃ』もつけない師匠の言葉。
「それにワラワ1人も守れないで何が好きじゃなのじゃ」
「守れますよ」
「ほう」
「ちょっと師匠以外の生物全部殺せば」
「ドアホウならちょっと出来そうな案は辞めてなのじゃ」
「無理ですけどね、冗談ですって」
まぁ俺だって大量殺人者にはなりたくない。
師匠と世界を天秤にかけた時に師匠をとるぐらいの話で、俺より実力が上の人間なんて沢山いるよ。
力が戻ってる師匠もそうだし、あの帝国の皇子も強い。
裏アーカスや裏クロウベルも本気の命のやり取りをした場合勝てるかは微妙。
あの古竜を自称してるナイなどは人間サイズならわんちゃんあるが、竜のサイズになった時に勝てるのか? と言われると足で踏まれて終わりだろう。
じゃぁ誰なら勝てるんだ? って話なるけど。
イフの街ぐらいならなんとか全滅させれそうか……?
序盤の街だし強敵もいないはず。
「その真剣に考えるのは辞めるのなのじゃ」
「…………どこなら勝てるかなって。別にナイの依頼何てすっ飛ばしてもいいと思うんですけどね」
「ナイの奴はともかく、今回は薬を届けになのじゃ。一応待っている者がいる以上早めに行ったほうが良いじゃろ、何ヶ月もたっていようがなのじゃ」
一理ある。
むしろ正論だ。
「一緒に行きましょう」
「最初から行く。と言うているのじゃ」
また怒られてしまった。
これで一般人以下というんだから、師匠も少しは口を押えて欲しい。
話がまとまった所で出発の準備をする。
一般人と言えと師匠は師匠なだけあって動きは素早い、あっという間にローブを羽織り三角帽子をかぶると何時もの旅姿。
俺も普段着に旅人のローブを羽織って準備万端だ。
庭に停めてある『コメット』に乗り込み、再びエンジンをかける。
船全体に振動がくると一気に上空へと昇った。
「相変わらず無茶苦茶な乗り物じゃ」
「飛空艇ってメジャーじゃないんですか? 飛行機とかない?」
「飛行機という者を作ろうとした人達はおったのじゃ。魔物に負けたからの」
こればっかりはしょうがない。
地球で飛行機が作れたのは、空の王者がいなかったからである。
この世界ちょーっと地方に行けば普通に魔物が飛んでいる。
魔物以外にも、どこぞの映画に出そうな魔力の渦とか。乱気流。
ゲームでは影響がなかったけど、色々とヤバい。
「じゃぁなおさら『コメット』を大事に使わないとですね」
「帝国のあの娘達も飛空艇の量産は無理じゃろうな……」
「って事で、出発します」
「任せたのじゃ」
操縦桿を握りつつ地図を見る。
レイアラン諸島にある迷宮群。その中のどれかにいるセリーヌって人に血を届けるだけの仕事だ。
簡単、簡単。
俺はレバーとペダルを踏みこむと『コメット』を一気に加速した。
――
――――
師匠の家を出て2日後。
墜落した『コメット』を捨てて俺は師匠を背負って砂漠の中を歩いていた。




