第172話 イチャラ……
晴れて自由の身になった俺と師匠、現在は城下町をぶらぶらと歩いている所だ。
しかも懐は温かい。
別にカイロや湯たんぽを持ってるわけじゃない、財布に入っている金額が多い。と言う意味で。
それもそのばず、先ほどサンに怒られて今にも死にそうな皇帝と、同じく怒られてげっそりしてる皇子アレキに会った。
皇女サンの『去勢』と言う言葉がよっぽど効いたのだろう、視線を合わせないように謝罪の言葉と謝罪金を貰った。
「にしても良かったですね。師匠の悪評が広がらなくて」
「まったくなのじゃ……そう何回も襲われ寝場所を変えたくないしなのじゃ」
師匠の魔女メルギナスとしての手配されてい案件も無効としてもらった。
実際金よりこっちの方が大事だったりもするし、それが解かれない場合、ちょっと暴れてもいいかな? って思っていたぐらいだ。
「じゃっ後は1人で出来るなのじゃ。頑張れなのじゃ」
師匠が手を軽く上げて俺から離れた。
行先は酒場『竜の尻尾』俺を置いてその扉に入っていく。
「は?」
思わず立ち尽くした。
じゃなくて!
慌てて扉を開けて俺も酒場『竜の尻尾』へと入る。師匠の尻が見えたのでそのまま顔をすりすりとくっつけた。
そのまま背中を人差し指でスーッとなでる。
これぐらいなら多分大丈夫だろう。
「のわおおおお!」
「師匠ー!」
「ぬあっ辞め! あっ」
色っぽい声が聞こえたので、尻に話しかけていた俺も一瞬止まった。その瞬間真っ白な閃光が俺を包んで意識が飛ぶ。
――
――――
「おい! ――い! おい!!」
「はい?」
目が覚めたら青空が見えた。
そして名前の知らない『竜の尻尾』のマスターのおっさん顔が俺をのぞき込んでいる。
「あれ?」
「あれじゃねえ! 生きてるか!? 店にあったポーション全部ぶっかけたか……」
「え? ああ……おふう! 上半身裸だ……いやん」
これがベッドの上だったら蒼白だ。
なんで酒場の主人と一夜を一緒に過ごさないといけないんだ。となる。
しかし今は昼間。
少し前の記憶がはっきりしない。
「着てる服飛んだからな……」
「なんで?」
周りを見てみると確かに『竜の尻尾』だ。
以前と違うとすれば天井が無くなってオープンカフェ見たくなっている。
「ええっと天井どうしたの? 雨降ったら大変だけど?」
「誰のせいと! 覚えてないのか?」
「あれ。師匠と一緒に歩いていただけだったような」
「とりあえず修繕費はお前達から貰う事になった。ほれフードをやる」
「はぁ」
気の抜けた返事で俺は上半身を隠すフードを貰った。
何の話が全く分からない。
「ほれ、行って来い」
マスターに言われてカウンターに行くと、女将さんと師匠がカウンター越しに飲んでいる。
俺は隣に座って挨拶すると「お任せ」といっては注文した。
「あの師匠話が見えないんですけど……あれ?」
「…………思わずドアホウにフルバーストをかけたのじゃ……記憶はその時にすまんのじゃ」
師匠が淡々と言うと女将さんがお酒を置いては話をつないでくれる。
「凄かったのよ。貴方がこの女性にセクハラして天井は飛ぶし貴方は真っ黒になるし、兵士は飛んでくるし。最終的に貴方とこの女性の顔を見て帰っていったわ、この酒場を立て直すお金は貴方が出してくれるって」
「ふえ!? 俺がセクハラ? するわけない」
俺の前に来た酒。
その酒に入っていた氷がカランと音が鳴るまで誰も何も言わない。
「え? あれ、本当にした記憶がないけど。した……?」
「本気ですまんのじゃ。ドアホウの魔防なら防げると思ったのじゃが」
「うああああ!」
俺はカウンターに頭を思いっきりぶつけて大きな声を出す。
「な、なんじゃ!?」
「ちょっとお客さん!?」
「憎い! 何も覚えてない俺の頭が憎い! 何をしたんだ何を!?」
そうだ!
俺は頭を上げると師匠と女将さんを見る。
「あの、もう一度したいので俺が何をしたか教えてくれませんか?」「断るのじゃ!」
「お店にもう一度穴開けられても困るわぁ」
「ぐぬぬぬぬぬ」
まぁ仕方がない。
そのうち思い出すだろう……人間、前に向けて進んだほうが健康的だ。
「で。師匠今度はどうしましょう、なぜ俺が竜の尻尾にいるのかも思い出せなくて」
「お主」
「何でしょう?」
俺は思わず師匠をみると、目線を合わせない。
「ワラワもちょっとだけやり過ぎなのじゃ。修繕費はワラワも少し出すなのじゃ。も、もう少し一緒にいたほうがいいかもなのじゃ」
「はぁ……え? 師匠1人で抜ける気だったんです?」
それは嫌だ。
何としても止めないと。
「そのつもりじゃったなのじゃが。まぁドアホウも心配だしなのじゃ」
「どうも? 師匠に心配されるとは俺もまだまだっすね」
「そ、そうじゃな」
師匠があいまいな返事をすると女将さんが間に入って来た。
カウンター越しに大きな胸を見せつけるようで、師匠一筋の俺でもやっぱり目が少しだけ行ってしまう。
「はい、話がまとまったようだしこれが請求金額ね」
女将さんは俺に桁違いなお金の請求をしてくる。
払えるけど払いたくない金額だ。
「高すぎない!?」
「この店、対魔法の素材使ってるのよ。今回は貫通したけど……それに女の子にセクハラしてこれだけなら安い物と思うのよね」
「覚えてないけど?」
「でもポーションも全部使ったし」
女将さんは「ねぇ」と同意を求めてくる。
確かに使った後はあった。
店主は空になったポーションの空きビンをまとめてる所だあ。
「仕方がない……まぁいいか。元々俺の金でもないし」
マジックボックスからついさっき貰った迷惑料でお金を払う。
横から師匠も言葉通り出してくれた。
女将さんはにっこにこでお金を受け取ると、すぐに料理と酒をサービスしてくれた。
俺が礼を言うのは何か違うようなきもするが礼をいうと奥に消えていく。
「やっと、あのクソ生意気なナイの妹でしたっけ。薬届けにいける」
「長かったのじゃ」
「本当に長かかった、予定としては一度家に戻って。ですかね?」
「飛空艇がワラワの家前にある以上そうじゃろうな」
これからやる事は師匠の家に戻り飛空艇『コメット』を再起動させる。
自動修復機能があるらしいので、飛べなくなった飛空艇も飛べるだろう。
で、レイアラント諸島にある迷宮群のどこかにいるナイの妹って奴に薬を届ける。
「…………」
「何を考えておるのじゃ?」
「この依頼って別に成功しても俺にメリットないですよね?」
ふと気づいたのだ。
普通依頼ってのは、大変な思いをして成功させると見返りがある。
でもこれ。届けてって言われただけで見返りもない。
「失敗のペナルティもないなのじゃ。あるとすれば信頼かの」
「あの。ナイからの信頼なんて一番要らないんですけど……」
「まぁそういうななのじゃ。ワラワが少し付き合ってやるのじゃ」
「それであれば話は別。ナイありがとう!」
ここに居ないナイに感謝のお祈りをしておく。




