第169話 これがイチャイチャだったのか
喋った裏アーカスに言われて唱えた滅びの呪文。
結果的にはタブレットで消去ボタンを押しただけの装置だったけど……とにかく天井や壁が崩れてきた。
背後にある部屋に行け。と言われたので入るとハシゴがある。
「アナログかよ!」
「クロウベルさんアナログってなんですか……少しえっちな言葉なきが」
「原始的って意味だ。普通ワープとかでしょこういうの」
文句を言いつつ俺はハシゴを上る。
クウガも後からついてきており上りきった所でマンホールの穴のようなふたを開けた。
周りを見渡すと王の間だ。
どうやら王座の下にハシゴがあったらしく緊急避難用か何かかな?
それよりもだ。
俺が穴からでてクウガも這い出る。
「師匠がいないんだけど?」
唯一居るのは傷の治っている第一皇子アレキ、なぜかその人物だけである。
「アレキ義兄さん! 何でここに!? メルさんやアンジェリカさんは!?」
「殺した」
「え…………」
クウガが思わず絶句する。
俺はまっすぐにアレキを見た。
「どうした狗」
「いや、ウソでしょ」
「………………本当だ。最愛の師を殺されて錯乱でもしたか」
そんなはずはない。
「嫌だって《《お前》》師匠より弱いでしょ……仮にアンジェリカを人質にとったとして。取れたとしてナイが黙ってるわけないしそれもクリアした所で師匠は自身の身を優先にするよ……アンジェリカを見殺しにしても俺はそんな師匠に惚れてる」
「うわぁ……」
クウガが拍手をしてくれているが、え? これが普通じゃないの?
アレキは何かを投げて来た。
ゴロンと転がるのは元人間の頭、銀色の髪で長い耳が付いている。
ご丁重に顔の部分は十字に斬ってあり判別がつかない。
「クロウベルさん!? これはメルさんの」
「いや、なわけないし……よく見なよ師匠はこんな不細工じゃないしょ……作り物だし俺を激怒させて戦いたいのかな?」
「そこまで冷静か」
ってか揺れてるんだけど!?
「さぁオレと戦え!!」
一人興奮してるアレキ。
その間にも壁は崩れてくる。
やだよ……。
「本気でやだよ」
「逃げる気かまぐれで勝ったくせに」
当たり前だろ! まぐれでもなんでも勝ちは勝ち。
「クロウベルさん早く逃げますしょう!」
クウガが縦穴からでるとアレキの横を素通りして城の外に出た。
意外にもアレキはクウガに見向きもしない。
義弟って呼ぶぐらいだから?
俺もあわててクウガの跡をついて行ったらアレキの横を通る瞬間首筋に剣が飛んで来た。
「あっぶな!」
慌てて止まって後ろに下がる。
いや本当勘弁してほしい。
「オレは小さい頃から強くなければならなかった。帝国を――」
やばい自分語り始まってしまった。
しかも長い。
要約すると、帝国の皇子たるもの一番じゃないと駄目だ。1回勝ったぐらい図に乗るな下等生物よ。一番は俺の物だから再度勝負しろ。
って事をかれこれずっと喋ってる。
俺がその間に横を通り抜けようとするとその度に剣が飛んできては阻まれる。
そっと目の前に双眼鏡が出された。
横を見ると裏クロウベルだ。
「生きていたのか」
コクンと頷くと指をさした。
あっちを見ろって事だろう。
「ってかお前も喋れるの?」
裏アーカスが喋れたんだ。裏クロウベルも喋れる可能性が高い。
裏クロウベルは黙って首を振った。
うん。嘘くさい。
が、今は突っ込んでいる余裕はない。
双眼鏡を覗くと帝国兵士の撤退の中に師匠やアンジェリカの姿見えた。他の帝国兵士を助けながら地下古代都市からの脱出を試みてる所だ。
いつの間にか仲良くなったんだ。
「え、俺ここに居たらやばくない?」
俺の肩をポンと叩く裏クロウベル。
直ぐにお手上げのポーズをとった。
「まてまてまて、こんな所で死にたくはない」
「――オレが帝国の一番になったのは10歳の時だ。師範である奴の武器を――」
まだ喋ってるし。
「水竜」
「おお! オレと戦ってくれるか! みろ魔剣ソウルハントⅡを」
安っぽい名前になった魔剣。
ってか魔剣にⅡがあったらだめだろ。
これで魔剣ソウルハントⅢとかあったらもう魔剣じゃなくて量産された剣だよ?
俺の意思をくみ取ったネッシー型水竜は俺を飲み込み、アレキへと突進する。
魔剣を身構えたアレキであるが俺が水竜から手を出してその魔剣を弾く。
そしてアレスを水竜の中にいれてぺったんぺったん出口を目指した。
一瞬背後を見ると裏クロウベルは後方腕組体制で俺を見送っている。
最後までよくわからん奴だった……裏アーカスはわかるけどさ……なんだったんだあれ。
水竜の中で暴れるアレキの口に魔力の水を大量に流し込むと、アレキの体から力が抜けていく。
どんな強い人間だって魔法でもないと溺れるのだ。
ちなみに俺は小さいホースを口にくわえて外の空気を吸ってるから平気。
どんどん周りが崩れる中、俺とアレキを体内にいれた水竜たんは地下階段を上って何とか帝国軍と合流目前だ。
先に逃げて行ったクウガが最後尾で俺を待っていた。
「クロウベルさん急いでください!」
「もごもっご!」
「急かすな……? いやでももう魔法解いて走った方が早いです。僕がアレキ義兄さんを担ぎます!」
水竜を解除すると口から水を出すアレキがべちょっと地面に落ちた。
魔力で出来た水だからすぐに乾くけど、極力触りたくはない。
クウガはそのアレキを背負って地上へ目掛けて走る。
俺も走りたいがなんせ《《魔力の消費が激しい》》。
「うう。もうだめれすー」
壁に寄り掛かって地上への道を見る。
逆光になっているが人影がそこに立っていた。
「ドアホウ。思いっきり《《棒読み》》なのじゃ」
「棒読みですし」
「…………」
「…………」
「埋められて死ね」
のじゃ。もない本気のきつい言葉だ。
「2人ともイチャイチャしてないで早く地上目指したほうがいいよ? 魔力の暴走で埋まると数十年いや数百年は埋まったままになるねこれ」
師匠のさらに先にいる人影が忠告してくる。
シルエットしか見えないけど声からしてナイだろう。
なるほど?
これが俺の思い絵がいていたイチャイチャなのか?
何か少し違う気もする。
もう少し踏み込んでみるか。
「じじょー! 俺と一緒に何百年も封印されましょう!」
「師匠ぐらいまともに喋ってからなのじゃ……まったく……それとナイよ。後で罰なのじゃ」
「なんで!?」
師匠は手を貸してくれたので俺は師匠の手を取る。
もう少し余裕があったら強引に引っ張ってキスするシーンを作るんだけど、結構本気でガチやばいって奴。
背後から魔力が迫って来てるから。
なんて言ったらいいか背後から人食い熊が襲ってくるのに武器は子供用スコップしかない。みたいな感じで。
急いで地上への階段を登りきると青空が見えた。
周りを見ると城壁が見えどこかの城の中庭なのがわかる。
あちこちで帝国兵が疲れた顔をしては肩を叩きあっていた。
命令とはいえ死にたくないのは全員一緒よ。
「これで一件落着っすかね?」
俺が師匠に言うと突如ラッパの音が聞こえ兵士が立ち上がる。
「余がヴァルハラン・パールである!」
皇帝ヴァルハランが顔を隠したシスター2人を引き連れて登場した。両手に花のスケベ爺だ。
「ふむ、報告通りアレキは気絶しておる。であれば! この騒動を引き起こした奴をひっとらえろ。魔女メルギナス! お前を拘束する」
なるほど、そう来たか。
この狸爺が。
どうにかして師匠の身柄を拘束したいらしい。
「この騒動を引き起こした奴を拘束すればいいのですわね。ではお父様……貴方ですわ」
皇帝ヴァルハランの背後にいたシスター、そのフードがめくれるとここに居ないはずのサンの顔が見えた。
大きなハンマーを持っておりヴァルハランの首筋に思いっきり振り下ろした。
ピコンと可愛らしい音が聞こえると、ヴァルハランの顔が青ざめる。陸に吊り上げられた魚みたいに突然びちびちびちびちと跳ね始めたのだ。
何かの特殊武器だあれ。
叩かれたら終わり、陸に上がった魚状態。
「どうしても顔を見せろ。というので帰ってきたらなんですのこれ……皇帝代理として命令しますわ。皇帝ヴァルハラン。第一皇子アレキ。両名に魔拘束を各部隊は兵舎に戻り、客人に礼を。見た所聖騎士アンジェリカ様もいらっしゃるようで、詳しい話を聞きたい所ですわ」
皇女サンは優雅に礼をするだけでその場を掌握した。
さすが皇女様である……カリスマが凄い。




