第166話 魔剣と無名の剣
俺はいかに帝国が非道で悪で自分勝手で世界の敵かをクウガに説明する。
説明されたクウガは困惑顔だ。
「そうだろう、信じていた帝国が裏でこんな事をしていたとすればそんな顔になるだろう」
「いや、クロウベルさんの説明に引いてまして……アレキ義兄さんは帝国のため、ひいては難民のために新しい土地を探すと」
駄目だ、こいつ毒されている。
「帝国のためってか、じゃぁ王国はどうなる? 王国の土地を使ってもか?」
「それは……その」
まぁこの辺は難民問題とかで難しい話なんだけど。
一応言うとこの世界は地球よりも全然広いし人間の住んでない地域は沢山ある。
なので別に開拓さえ出来れば人は住める。
じゃぁなんでそれをしないか。ってのは魔物が出たりするから……だって無限に沸くんだもん。
整備された土地のほうが使いやすい。
「ドアホウ。別にそんな話は今はしてないのじゃ」
「うい。まぁあれよ……クウガだって住んでる場所にいきなり土地を押し寄せて来たら困るだろ?」
「まぁはい」
「そう! だからアレキを殺してきてくれ」
クウガが「それはちょっと」と言い淀んでいたので俺は『水盾』を唱えた。
水盾には矢が刺さっていて俺と師匠、アンジェリカ、クウガを守った。
「義弟よ! 帰って来ないと思えば何をしている!」
矢を放ったのは第一皇子アレキ=パール。
「ばーか! クウガはこっちの人間だ。今にお前の心臓を貫くからな! いけクウガ!!」
「ええ!?」
「何を言っている。妹を孕ませ我が帝国の次世代の男として義弟クウガはお前達みたいな悪魔は知らないはずだ! 義弟クウガよ、その男を斬れ!}
「うええ!?」
俺とアレキがほぼ同時にクウガに頼むとクウガは首を左右に忙しそうに動かしている。
「いけ! クウガ。アレキを殺せ」
「お前が死ね! 賊人を殺せ!」
「ざっけんな、俺は何も罪をかしてませーん」
「俺も何も帝国のために帝国以外は犠牲になるべきだ」
「「いけ! クウガ」」
俺とアレキが同時に叫ぶとクウガの方が叫びだす。
「もう2人でやってくれませんか!? アレキ義兄さん。僕はこの結界を何とかしたいって言うから、アリシアに聞きに行ったりクロウベルさんならどうするかなって考えて扉の周りの壁を壊したり!」
俺みたいな反則技だなって思ったら俺の考えを真似したのか。
「クロウベルさんだって僕を何時助けに来るのかなって思ったら何時までも来ないし帝国をひっそりと脱走したって話聞いてがっくりしましたし、再開した時はちょっと嬉しかったけど僕に無理難題押し付けすぎです」
うわキレた。
俺もアレキも顔を見合わせる。
「なるほど……そこの狗を俺が斬ればいいのだな」
魔剣ソウルハントを手にしたアレキは余裕の顔で剣を素振りしながら近づいてくる。
俺を守るように裏アーカスが俺の前に出た。
「ほう。狗の前に魔物と言えと女か……くっくっくずいぶんとモテるようだな」
「……誰にもモテなさそうだもんな。クウガに聞いたら? モテ方」
「クロウベルさん! 今は僕関係ないですよね!?」
ちらっとクウガを見ると突然に慌て始めた。
俺に戦いを投げてよこしたんだ、これぐらいは許されるでしょ。
だって一歩間違えたら死ぬんだよ?
この世界の人狂ってるよ、何で毎回死ぬような思いを選択するんだ。
冒険者は百歩譲っていいとして、皇子自ら剣を持って殺し合いに来るってもう国として終わってるでしょ。
でも、それが普通なんだよね……馬鹿かな?
「義弟はもてるからな……義兄としても嬉しい事だ。王国の要人や占い師。ゆくゆくは聖女も取り込み帝国の発展に力を入れるだろう……さぁ剣を抜け! 狗め」
かー……何か手はないか? と時間稼ぎしたけど何もない。
ってか師匠はいつの間にか椅子に座って裏クロウベルがいれたお茶を飲んでいる。
その迎えにはナイが座っているし、助けようとしてくれてるアンジェリカの腕を強引に抑えている。
アンジェリカは空気を読んで喋らず、ジェスチャーで腕が掴まれて動けない。と俺に伝えてくれた。
「…………仕方がない。アレキ皇子」
「なんだ?」
「和平って言葉あると思うんだ。なにも斬り合いだけじゃない。ここはこの城以外の古代遺跡の城下町だけを管理してもらって城は絶対に入らない。入ったら自死を選ぶって誓約書を帝国が正式に発表してもらえば俺としても、苦渋の決――――」
俺が最後まで言い終わる前にアレキ皇子が、いやアレキが突っ込んできた。
俺はアンジュの剣でその一撃を受け止める。
「ぬかせ! この詐欺師がっ!」
「っ!? 俺は何も詐欺なんて! してなっ!!」
アレキがめっちゃ強い。
強いのは帝国城から逃げる時に知っていたけどマジで強い。
気を抜いたら押し負けるし死ぬ。
「クウガ手伝え!」
「男の勝負に助けを求めるなど! 笑止!!」
「じゃぁ、古代遺跡攻略も1人でしろっての!!」
俺はアレキの腹に蹴りを入れ距離をとる。
直ぐに水槍を連打して追撃するも魔剣ソウルハントで俺の魔力は食われていく。
下がった所でナイと目が合った。
「君」
助言か!?
ありがたい、この状態でアレキを倒せる助言があるのか。
「さっきの『古代遺跡攻略も1人でしろ』この『しろ』って城にかけた?」
………………俺はナイに水槍を唱える。
「うわっ! メルギナスみた!? 彼は自分に魔法を打ってきた!? 戦いの最中だっていうのに余裕あるね彼」
「ナイよ……少し黙るのじゃ」
「師匠、俺が言うのもなんですけど友達選んだ方がいいですよ。ふう……悪いね待ってもらって」
この隙にいくらでも攻撃出来ただろうアレキは剣を握ったまま攻撃をしてこなかったのだ。
「ふ。狗の事だ、魔女や魔物……そこの変わった男を盾にするかと思って様子を見ていた。もし盾にするなら一緒に斬ってやろう。とな」
突然俺の前に2本の剣が差し出された。
刀身も柄もすべてが黒い2本の剣。
出して来たのは裏アーカス。
「ほう。ついに魔物から剣までか」
「………………もしかしてアレキ。この人の名前知らない?」
「女の顔をした影の魔物の個体だな。今まで斬ったやつは特徴的な顔が無かったがそれを束ねる魔物だろ?」
あっ知らないんだ。
それもそうか。
英雄アーカスの顔なんて知っている方が珍しい。
「ありがたく貰うよ」
俺がアンジュの剣をしまい2本の剣を受け取ると裏アーカスは慌て首を振った。
「貸すだけ?」
俺の問いに静かに慌てて頷き始めた。
この流れで貸すだけかぁ……流れに乗って貰えるかと思ったのに。
まぁいいか。
2本の無名の剣。
消して折れず刃こぼれもしない英雄が使った剣。
聖剣や魔剣とあったら死後表舞台に出る事が無かった。とされる剣だ。
握った瞬間世界に亀裂が見える。
その亀裂はアレキにも見えており、この剣がとてもヤバい物とわかる。
「師匠!?」
慌てて師匠に振り向くと師匠は亀裂が見えず、ナイは手足に亀裂が見えた。
「使い方を間違えると死ぬのじゃ。とだけ言っておく」
どっちが!?
久々の師匠の真剣な言葉にうなずく前にアレキが「よそ見とは余裕だな」と、笑いながら攻撃してきた。
俺はその亀裂をなぞるように右の剣を振る。
斬撃が飛びアレキはその斬撃を魔剣ソウルハントで受け止めた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
斬撃が消えると俺を見ては静かに笑う。
「クックックック。狗が……調子に乗るなよ、魔剣ソウルハントを全てを食らい尽くせ」
「あっやばい」
本能的に口に出した。
魔剣ソウルハントから黒い魔力があふれ出てくる。
アレキを中心に俺は無名の剣をふるう。
「はっはっは当たらんな!」
俺の攻撃はアレキに見切られ全て回避されている、その間にも黒い魔力はあふれ出て少しだけ残っていた黒い兵士を吸い込んで消えていく。
「ちょこまかと! そこだ!」
魔剣ソウルハントをもったアレキの攻撃が俺の腕を斬った。
右手の持っていた剣が腕事落ちた。
「クロウベルさんっ!?」
「クロウベル君!?」
慌てるクウガとアンジェリカ。
残ったナイと師匠は慌てるようなそぶりは見せていない。
左腕に持っていた剣をアレキへと突き刺すが、それも回避された。
「命ギリギリの戦いが出来ると思ったが所詮は狗か……」
突然冷めた口調になるアレキに俺は何も言わない。
ただ左腕で斬ったのはアレキじゃなくて空間なんだよね、アレキの持っていた魔剣ソウルハントが細かく折れた。
「なっ!」
「『水竜』」
肘から先がない右腕の先に水竜を出す、ほぼゼロ距離で出た水竜はアレキを城外まで吹っ飛ばした。
「勝ちました! 師匠!」
「…………で、吹っ飛ばした後、この城の問題はどうする気なのじゃ?」
「…………」
この仕打ちである。
命かけて戦ったのにこれである。もう泣きたい。




